実際の所、ジュダルに抱かれるのはあまり好きではない。痛いしとても疲れるからだ。



「体力ねぇなぁ。」



 ジュダルは寝台の上でぐったりとして動かないに呆れた目を向ける。

 いつもは長い三つ編みにしている長い銀色の髪は寝台のシーツの上に無造作に広がっている。枕に顔を押しつけている彼女は疲れているのか起き上がろうともせず、たまに体勢を変える程度だ。何かを撮りたい時は芋虫のように移動して毛布にくるまった。



「・・・ジュダルは元気そうだね。」



 は重たい瞼を上げて、ジュダルを見る。

 情事の後でもジュダルは比較的元気だ。年齢故か、それとも彼自体が好きなだけなのかよくわからないが、彼は結構こういうことをするのが好きで、すぐにの体を求めてくる。だがはそれがあまり好きではなかった。



「・・・疲れた」



 は仰向けになり、天井を見上げる。

 泣いたせいか目元が痛い。まだ目尻に涙がたまっている気がして目をこすろうとすると、ジュダルの手が伸びてきてそれを止めた。



「あんまこすんなよ、ぶっさいくになんぞ。」



 無骨な手がそっと、の目元の涙を拭う。その仕草は優しく、傷つけないように気をつけられていたが、やはり涙が目元にしみて痛かった。



「おまえ、めちゃくちゃ泣くよな。」



 ジュダルは少し困ったような顔をして、の隣に横たわる。漆黒の長い髪を解いた彼は、珍しくの躰を気にしているらしい。



「だって、痛いもん。」



 は素直に答えた。

 売春宿にいただが、幼い容姿と竪琴が弾けるせいで、今まで一度も客を取ったことがなかったから、ジュダルが初めてだった。もちろん最初の時ほど痛くはないが、それでも彼は酷く乱暴で、前戯もそこそこに事を初め、がっつくから痛い。

 売春宿というのが辛いところだというのは、きっとこんな痛いことを毎日する場所だったからだろう。

 そこから宮廷に買われたおかげで遊郭からは抜け出せたのに、結局ジュダルに囲われてしまったので、やっていることは多分一緒だった。唯一違うのは相手が一人だけだと言うこと。それだけでも、は幸せなのかもしれない。

 ただどちらにしても痛い。疲れるので、肉体的苦痛なのは間違いなかった。



「まだ痛いのかよ。もう3週間だぜ。」

「でも痛い…。」



 は枕に自分の顔を押しつけた。入れる時に痛いと泣いても、ジュダルはやめてくれないし、こちらを思いやってくれることもないのでなおさら辛いのだ。今もそうだが、じくじくと足の付け根が痛んでいるような気がして、不快だ。



「そういやおまえ、自分で気持ちの良いとこ探さないよな。」

「え?痛いだけだよ。」

「おまえが下手なんじゃねぇの?」



 ジュダルは今までほとんど商売女や経験者しか相手にしたことがないので、こちらが適当に思いやりなく抱いていてもそれなりに売春婦たちは自分自身が楽しむ術や、自分の体を楽にする術は知っていたし、売春宿側も教える。

 だがはど素人なので、そんなこと知るはずもない。

 ジュダルも思いやりなど持ったことは全くなかったから痛いばかりだというのも、まぁ仕方のないことなのだろう。そういう点ではジュダル自身にも同じように



「気持ち良いところなんてないもん。ジュダルが下手なんだよ。」



 は少しむっとして、くるりと転がってジュダルに背を向けた。だがそれが気に入らなかったのか、目の前にジュダルの手がつかれ、自分の上が暗くなったなと思い顔を上げると、ジュダルに覆い被さられていた。



「言ってくれるじゃねぇか、」

「・・・痛いのは、本当だもん。」



 気持ちよいところを探せと言うが、気持ちよいところなんて見つかったこともない。いつもするたびに痛みに泣いて、あまりに痛くて抵抗するとジュダルに酷く叱られ、痛みが長引くことになる。だから、いつも痛みに耐えていることしか許されない。



「足開けよ。」




 ジュダルがの顔の隣に肘をついて、覆い被さってくる。



「・・・え、ま、まだするの?」




 もう終わりだと思っていたは目尻を下げて彼に尋ねる。

 している時は痛い以外よくわからないが、避妊のためにつけているものに何かをはき出したら終わり、それだけは知っている。彼はもう、今日何度かの中で果てたはずだ。終わりだと思って安心していたは躰を硬直させる。



「入れねぇよ。足開け、」

「な、なんで・・・」

「俺の言うことがきけねぇの?」



 ジュダルがじっとその緋色の瞳でを睨んでくる。

 こういう時、ちゃんと彼の言うことに従わないと酷くされる。経験上知っているため、は嫌々ながらも毛布をはぎ取ってくる彼の手に身をゆだね、震えながらも足を開く。

 太ももの裏側に埋め込まれている二つの金属器も見えるし、自分でも見たことのない場所が晒されるのは、きっと誰であっても恥ずかしいだろう。

 は羞恥に早く足を閉じたくてたまらなかったが、ジュダルの手が太ももさらりと撫でる。見られているのを感じて、は眉間に皺が寄るほど目を閉じた。



「あーあ、なんか熟れたザクロみてぇ。血出てるかも、」

「じゅ、だ、」

「ま、そっちはいいや、」



 ジュダルの手が、いつもの場所に触れる。痛みを想像して目を閉じたが、触れられたのはいつものように割れ目ではなく、その上だった。



「ぁ、ぅ?」



 軽く指の腹でそこを押された途端、勝手に声が出て、変な熱がそこに集まる。不安になってジュダルを見やると、彼はの足の間に座ってそこを眺めていたが、が顔を上げたのに気づいて、にやっと笑う。

 その笑顔が何やら酷く嫌な物に見えて腰を引きたくなった。



「そういや忘れてたけど、女はここが誰でも良いらしいぞ。」



 彼は言って、のそこを軽くまさぐり、自分の指に唾をつけてその突起を押したり、こする。そのたびに走る感覚に今度こそは目を見張った。



「ゃっ、へ、へんっ、ま、まってっ、ぃ、いや、っや、」



 体中の熱がそこに集まるような不思議な感覚にの方が戸惑う。触られているのは自分の体の一部なのに、体中が熱くなり、変な汗をかく。ひくりと勝手にいつもジュダルを受け入れていく場所が震えて、物足りなさとともに熱がこみ上げてきた。



「あんまりこういうことしたことなかったけど、おまえでするとおもしれぇな。」



 びくびくとの太ももが跳ねるのを見ながら、ジュダルはにぃっと笑う。だがその顔を見るだけの余裕すらもにはない。



「や、やめて、やめっ、へんっ、こわ、」



 全部無理やり引っ張られるような、感覚。

 ゆらゆら熱が定まらぬままに勝手に体を煽っていく。自分の体のたった一部分のことだというのに、震えや感覚が全身に広がって、それを落ち着かせようと何度も何度も呼吸を繰り返すが、ちっとも落ち着かず、波が徐々に大きくなる。

 初めて味わう感覚にはどうしたらよいかわからず、逃げようとしたが、ジュダルが自分の体で覆い被さり、彼の指から逃げることを許さない。



「結局また泣いてんじゃねぇか、」




 ジュダルは言って、の頭の横に自分の肘を置き、その唇での目尻にたまった涙をなめとる。その舌は優しかったが、はその肩を押し返そうと手を伸ばした。



「やっ、やめて、っ、ぁう、あぁ!うう、うぅ、」



 力の入らない手はジュダルを押し返すだけの力がない。それでも邪魔だったのか、ジュダルは身を起こし、の腕を掴んでの腹あたりでまとめて邪魔にならないように片手で押さえ込む。そして残った片方の手での花芽を強くこすった。



「やっ!やだぁ!じゅ、じゅだ、ひっ、ひぃ、ああああああ!」



 慣れていないは耐えることも出来ず、大きな悲鳴を上げて泣きじゃくりながら、イく。体が大きくはね、その拍子に僅かに潮を吹く。



「あははは、漏らすほど良かったのかよ!」



 ジュダルはの愛液で濡れた手をなめながら、の醜態を笑い飛ばす。は初めての余韻に呆然としたまま、翡翠の瞳を涙でいっぱいにして枕に頬を押しつけた。

 上がったままの息が全く落ち着かない。体に宿り、爆発した熱も、混乱する頭も、羞恥心も、自分の脳みそで片付けられるキャパシティを超えていて、声すらも出なかった。



「・・・おいおい、大丈夫かよ、」



 馬鹿にしてもあまりに無言のに、ジュダルも心配になったのか顔をのぞき込んで尋ねる。



「うぅ、ふっ、ふぇえええええええっ、」





 それですべての感情が押し出すように表れ、混乱と恐怖、訳のわからない不安に駆られたは、枕に頭を預けたまま、声を上げてぼろぼろと涙をこぼして泣き出した。




「な、なんだよー、泣くほど怖かったのか?」



 今まではジュダルが無理矢理犯そうが、酷い扱いをしようが、こんな風に大声で泣きじゃくることはなかった。おそらく、が声を上げて恐怖と不安に泣くのは初めてのことだ。



「お、おい、泣き止めよ、な?大丈夫だから、もうしないから、な?」




 ジュダルは自分が予想以上に驚いて、焦っていることを理解しながら早口で言って、慌てふためいてを慰めるしかなかった。
神官様の枕事情