「あーうぜぇ、明日からは天幕かよ。」




 ジュダルは寝台に横たわって悪態をつく。

 ヴァイス王国への行軍は軍隊も連れて行くため5日以上かかる。絨毯に乗っているジュダルたちが先に行くわけにも行かないので、結局兵士の行軍にあわせることになっていた。昼は絨毯か馬車、夜は天幕で夜を越す退屈な日々がくる。

 とはいえ宮廷よりはましだし、今回はもいる。




「天幕で寝るの?」

「離宮があればそこだろうけど、下手すりゃ天幕だな。」

「ふぅん。」




 は天幕で眠る方に興味があるのか、離宮とジュダルが口にした途端に残念そうな顔になった。珍しいことがしてみたいらしい。短絡的な子供ならではの考え方だ。

 よく考えれば、彼女を買ってから遠出をするのは初めてかも知れない。プチ旅行みたいな感じでは随分と口調だけは気楽な雰囲気だった。

 寝台のあるジュダルの部屋はいつもと変わらず、蝋燭があちこちにともされているだけで暗い。もう夜も更けているので仕方がないだろう。蝋燭の明かりにぼんやりと照らされる彼女の横顔はいつもより大人びていて、薄い肩が淡い色合いを宿して艶やかに見える。

 ジュダルはの手を引っ張って、自分の方に引き寄せ、その頼りない首筋に唇を寄せた。



「しようぜ。」



 一言告げて押し倒せば、は少し慌てた様子を見せる。最近ご無沙汰だったから油断していたらしい。



「じゅ、ジュダル、」

「良いだろ、別に。」

「や、ひっ、う、」



 ジュダルの吐息が肌に当たる感触が嫌らしい。は小さな声を上げてジュダルを潤んだ翡翠の瞳で睨む。



「そんな顔したって駄目だって、」



 ジュダルは小さな抵抗をするを笑って、彼女の夜着をはいでいく。

 薄くて紐でとめるだけのそれを脱がせるのは簡単だ。現れる体はまだ華奢で、17歳と言われてもぴんとこない。胸もそれほど大きくない。それでもほとんど傷のない肌は綺麗で、そこに吸い付き、赤い痕をつけていくのは楽しい。



「あ、え、じゅだるっ、」



 自分の体を彼女の足の間に滑り込ませ、足を開かせようとすると、は僅かな抵抗を見せる。



「なんだ?嫌なのかよ。」



 ジュダルはの顔に自分のそれを近づけて問いかけた。間近で見下ろす翡翠の瞳は少し困惑した色合いを宿していて、すぐにそらされる。



「え、っと、」



 桃色の唇が言葉を紡ごうとする。揺れる桃色に引き寄せられるように、ジュダルは唇を重ねた。



「んっ、」



 翡翠の瞳が丸く見開かれる。口づけるのは始めたかもしれないと頭で理解し、のくぐもった声が漏れるとともに、もっと欲しいと思った。



「じゅ、ううぅ、ん、」




 の後頭部を押さえ、深く口づける。歯列を舌でなぞり、唾液を送りつければ苦しそうに彼女は眉をきつく寄せた。目尻には涙がたまる。何度か息継ぎをし、角度を変えながら彼女の唇を堪能し、離れる頃にはの息は上がっていた。



「はっ、う」

「いい顔。」



 涙で濡れた目元をぺろりとなめて、ジュダルは笑う。はただジュダルを見上げていたが、縋りつくようにジュダルの首に手を回した。



「あれ?積極的じゃん。」



 ちゃかすように言ったが、の不安をジュダルも承知していた。そして同時にの不安を利用している自分も理解している。

 白い下肢の奥にある秘部へ手を触れるとは体を跳ね上げたが、拒みはしなかった。彼女の顔をのぞき込めば、表情を歪めて泣きそうな顔をしている。その表情はいつもある行為に対する不安や恐怖よりも、別の不安があり、それを押し込めるために没頭しようとしているように見えた。



「集中しろよ、」



 ジュダルはそういって、秘部に指を沈める。の中は狭くて、ジュダルに快楽をくれる代わりに、彼女はいつも苦しそうだ。それでも最近は中でも少しは感じられるようになったらしく、二本目を挿入して浅いところを探ると、嬌声を上げた。



「ひぅっ、う、」



 前はジュダルも商売女ばかり相手にしていてよくわからなかったし、を玩具程度にしか考えていなかったから前戯もそこそこに突っ込んでいて、よく痛いと泣かれていた。

 だが今は、お互いに気持ちよくなる方法を承知している。はそれすら怖いのか、たまに嫌がるけれど、今日は素直におぼれる気らしい。それが一種の逃避だと言うことは知っていたけれど、が自分に依存する様は心地が良い。



「もう、良いか。」



 別に確認するつもりもなく呟く。ジュダルが指を引き抜けば、透明な液が指に絡まっている。それを自分の欲望にすりつけて、あてがうとが翡翠の瞳を開いてジュダルを見た。

 ゆらゆら揺れる、涙に濡れたこの翡翠がジュダルは好きだ。

 ジュダルは何も持っていない。持っているもの、持っていたもの、すべて組織が奪っていった。なのに組織はだけは奪わない。玉艶ですらもを恐れ、機嫌をとっている節がある。そのを自分のものとして保持することはジュダルの小さな劣等感を燻ると同時に、満足感を与える。

 彼女が何なのか、特別な力がどうなのか、ジュダルは興味がない。



「じゅだる、」




 が目を細めて名前を呼ぶ。珍しく伸ばしてくる白い腕を受け入れながら、ジュダルは自分をの中に沈め、小刻みに震える身体を抱きしめる。

 こうして身体を重ねながら、お互いの体温を抱いたまま、溶けてしまえば良いと思う。そしたら寂しくない。離れなくて良い。

 自分だけしか触れたことのない身体。自分だけのもの。自分だけを求め、自分だけを認め、自分の庇護下にいる存在。それは憧れ続けながらも、ジュダルが得ることの出来なかったもの。奪われ続けていたものだ。

 愛されたいなんて、単純な言葉をジュダルは知らない。奪われ、奪ってきた。それでも、自分のものを守りたくて、彼女を危険や恐怖から遠ざけている。



「動くぞ、」



 耳を軽く噛んで言うと、は小さく頷いた。珍しく素直なのはきっと、彼女自身が不安を感じているからだ。



「うっ、ぁあ、くっ、」




 飾れない嬌声を上げて、はジュダルに縋り付く。耳元で響く声が心地よくて、ジュダルは律動を早めた。

 乱れた寝台の上で長い銀色の髪と、漆黒の髪が混ざる。決して相容れない、混ざり合わないそれは、この瞬間だけ同じ流れを作る。



「っ、良いなぁ、おまえっ、」




 ジュダルは動きながら、愉悦に唇の端をつり上げ、彼女の長い髪をかき上げる。念入りに解いても、の中はいつもきつく締め付けてくる。彼女の中の上あたりをつくように動くと感じるのか、いつも泣いていやがるのに、今日はぐっとジュダルの背中に爪を立てただけだった。

 それはジュダルに、僅かな痛みを感じさせる程度で、傷になるほどの力はない。快楽を邪魔することもなかった。



「あ、っぅう、ひっ、あ、」

「ほらっ、目開けろよ、こっち見ろっ、」



 彼女があまりにきつく目を閉じているので、それが面白くなくて軽く頬を叩くと、恐る恐る瞼が上がる。現れた大きな翡翠の瞳はこらえるように細められ、ゆらゆら揺れる水面のようでぞくりとする艶やかさがあった。



「安心、しろよ、俺が、っ、守ってやるから、」



 の身体を、そして心を宥めるように耳元で囁く。

 何に怯える必要もない。外敵はジュダルが遠ざけるから、彼女はジュダルの庇護下でただ生きていれば良いのだ。紅炎はそれを間違いだと言うけれど、彼女が求め、そしてジュダルが容認すれば、二人の間ではそれが真実だ。

 それで良い。何もいらない。他のものは奪われた、与えられなかった。だから一つで良い。



「だからっ、俺のもんでいろ、」



 だけで良い。彼女だけが傍にいれば、ジュダルは満足だ。

 ジュダルの言葉に答えられない程、快楽と理性の狭間で揺れていたは何度も頷いて、肯定の意を示した。




知らない腕で抱く