・エリザベート・ダーレイン

 その少女はグリフィンドール寮に3年生のはじめから編入してきた少女だった。





「あれが?」





 トム・リドルはちらりと噂の少女を見据える。

 3年生ともなればもう少し背が伸びていても良いと思うが、140そこそこの小柄な少女で、黒い髪は肩を覆っているが収まりが悪く癖毛でウェーブを描いている。多分髪の量が多いから辺に見えるのだろう。目は遠くから見ても大きくて青い。

 困ったようにおどおどと右左と辺りを見回す仕草はまるで小動物のようだ。




「そう。なんか変な経歴の持ち主だよ。」




 マルフォイはそう言って、少女を示す。




「経歴って言われても、ただの馬鹿にしか見えないけどね。」




 トムは少女を観察しながら、あっさりと返した。

 可愛らしいのは可愛らしいが、迷子になっているのか、相変わらず教科書を持ったまま辺りを見回している。

 一度通路に入ったが、間違えたのかまた出てきた。




「いやいや、グリフィンドールの寮監のオイゲニーが後見人になってるんだが、マグルの孤児院で育ったらしいぞ。なのに、純血とか言う噂もある。」




 意味分からないと軽蔑たっぷりの眼差しをマルフォイは向ける。




「その上闇払いの何人かが、彼女にわざわざ犯罪者連れて会いに来たって噂だ。」

「え?闇払いが?」




 トムは初めてそれで、もう一度少女を見返す。

 だが相変わらず目尻を下げたままちょろちょろしている少女に、欠片の価値もありそうには見えない。




「他校に所属していたわけでもないのに、編入って言うのもわからないしな。」




 マルフォイは眉を寄せて彼女を見つめるが、彼女事態には警戒するほどの価値が見あたらず、困っているようだった。

 他の魔法学校に所属したわけでもないのにホグワーツに3年から編入してきた、異例の経歴の持ち主。

 身元不明。

 ただし本人を見る限りはなんの特別さも見あたらない。




「ぁ、あの、」




 こちらを見ているトムやマルフォイに気がついたのか、少女は顔を上げて控えめに声をかけてきた。

 二人が揃って少女の方を向くと、彼女はとことこと小走りで駆け寄ってくる。




「あの、魔法薬学の教室はどこですか?」




 不安そうに目尻を下げて、青色の瞳を潤ませてじっとトムとマルフォイを見上げてくる少女は全く害がなさそうだ。





「え?えっと、そこの階段を上った上だよ。」




 トムが柔らかに笑って答えると、彼女はトムの目をじっと見てから、ありがとうございますとぺこりと頭を下げた。

 そしてそのまま階段の方へと歩いて行ったのだが、彼女が上る前に階段が動いた。ホグワーツの階段はよく動くのだ。

 彼女は困った様子で呆然と階段を見据え、俯く。

 何となく彼女が落ち込んでいるのが分かって、トムは大きな息をついた。




「そちら側からでも行けるよ。」

「あ。そうなんですか。」




 納得したのか、彼女はぱたぱたと急ぎ足で階段へと走って上がっていく。

 そして登り切ったところでまたどちらに行ったら良いのか分からないらしく、きょろきょろと辺りを見回していた。

 同じ階に来てもまだ、教室がどこなのか記憶にないらしい。

 ちょっと馬鹿だなと内心で思いながらも、トムが左側だと示してやると、また頭を下げてそちらの方へとふらふらと足を進めていった。




「で、誰が何だって?」




 トムはマルフォイを振り返って呆れた様子で尋ねる。




「・・、彼女は方向音痴なのか?」

「そうなんだろうね。もう編入してきてから1ヶ月はたってるよ。」




 彼女が編入生だと言うことを差し引いても、もう1ヶ月。いい加減普通の教科の教室場所ぐらい覚えてもよい頃だろう。


 馬鹿でなければ。




「でも実際に闇払いがしょっちゅう話を聞きに来てるぞ。しかも犯罪者を連れて。」




 マルフォイはどうしても彼女に関してただの“馬鹿”では納得出来ないところがあるらしい。




「犯罪者の親族か何かなのか?」




 犯罪者の親族で、何かしらの大きな事件に関わりがあったなら理解も出来る。

 だが、最近闇の魔法使いによる事件は別に起きていないし、闇の魔法使いにあのくらいの娘がいたならばニュースにもなるはずだ。




「グリフィンドールの寮監のオイゲニーもことあるごとに何かと気にかけてるし、絶対何かあるぞ。」

「本人は馬鹿でも他人にとっては価値があると言うことか?」




 トムはどうしても先ほど少し見た少女がそれ程特別とも価値があるとも思えなかったが、他人にとっては何らか意味があるのだろう。

 何度も闇払いが会いに来るほどだ。




「何か特別な魔法が使えるとか?」

「・・・成績は頗る悪いらしいがな。」

「あぁ、その噂は聞いたことがあるね。」




 彼女はトム達とは違う、一つ下の学年だが、彼女の失敗談は有名だ。

 馬鹿なくせにいらんことしいで、この間も授業でドラゴンの変な場所を触ったとかで噛まれ、医務室送りになったという話だ。

 噂には尾ひれがつくものだから本当か嘘かは分からないが、スリザリンの生徒の騒ぎようを見る限り、噂だけではないだろう。




「すいません!小さな女の子見ませんでしたか!?」




 走ってやってきたのか、すらっとした長身の少女が先ほどから話に上っている少女が消えていった方向からやってきて、トムとマルフォイに声をかけてくる。




「小さな、女の子・・・?」

「黒髪癖毛の、1年生ぐらいに見える・・・」

「あぁ。」




 今話題ののことらしい。




「彼女なら今君が来た魔法薬学の教室に行ったけど、」




 先ほどトムが向こうの階だと教えたばかりだ。




「えぇ?!来てないんですけどっ」

「・・・でも向こう側には4つの教室と階段しかないだろう?」




 トムは少女に尋ね返すと、少女ははっとした顔をした。




「そうか、4階だわ。ありがとうございました!」




 結論づけた彼女はあっさりときびす返して階段を上って行った。




 取り残されたトムとマルフォイは目が点だったが、どうやら授業がもうすぐ始まりそうな今の時間でも、あの小さな少女は教室にたどり着けていないらしい。

 方向音痴にしてもすごいスキルだなとトムは思ったが、ふと気づく。




「・・・確かに僕が教えた左側には教室と、階段もあったかな。」

「そうだな。」

「これって僕のせい?」

「・・・」




 何度も行ったことのある教室だろうから、見れば分かると思ったが、甘かったのかも知れない。




「放って置いてもしばらくしたら間違えて禁じられた部屋とかに入って死ぬんじゃないかな。」




 あの方向音痴だ。ホグワーツにはいくつも危険生物がいる部屋があり、間違えて危険な部屋に入ろうものなら大事になる。

 彼女ならいつかそこに迷い込みそうだ。

 ましてや魔法が下手であれば、命取りだろう。




「で、何の話だったっけ?」




 トムはにこやかにマルフォイに笑う。もうマルフォイも何も言わなかった。
the girl of mystery, but she is honesty normal