「まぁ、なんとかするよ。」
トム・リドルはが自分の方向音痴と暗所恐怖症を、言葉を尽くして伝えても、そう答えるだけだった。
は息を吐いて肩を落とす。
どうして自分が足手まといだと分かってくれないのだろう。
医務室の先生に言ったら診断書を書いて、テストを受けなくても良いようにしてくれるとまで言われたのに、トム・リドルが介した様子はなかった。
「君も懲りないね。良いじゃないか、どうせつまらないテストなんだし。」
笑う彼には余裕が見えた。心底そう思っているのだろう。
は他者の心に読まなくても敏感だ。
彼は何となく怖い。
心を読んだことはないので実際にどう思っているのかは分からないが、何となく怖いのだ。
更にスリザリンにはトム・リドルファンクラブのようなものがあり、たまたま選ばれたを目の敵にしている。
出来れば彼と一緒にいたくはない。
なのに彼はことあるごとにに構いたがり、自身も宿題などの点で彼に頼らざる得ない部分が多く、結局一緒にいる。
それがまたファンクラブの女生徒から批判を買うのだ。
この間など、生徒に髪を引っ張られた挙げ句、足を蹴られた。
まだ足が腫れている。
セシリアは憤慨し、たまたまいたテオドールらが彼女らに魔法を掛け、その哀れなスリザリン生は医務室で今頃眠っているだろう。
頭から角やら何やらが生えているらしい。
テオドールのかけた呪いだそうだが、見ていたのはグリフィンドール生だけで、誰がかけたのかは口が裂けても言わなかった。
「そういえば最近スリザリン生の中に困った呪いをかけられて医務室に行く人が多いのだけれど、面白いね。」
彼はさわやかに毒を吐く。
容姿も含めてすべて完璧なはずの優等生、トム・リドルは、正直が見る限り性格がかなり悪い。
容姿と立ち居振る舞いは良くても、腹の中は真っ黒だ。
が鈍くさく、成績も良くないため結構何を言っても良いと思っているらしい。もしくは侮られているのだろう。
全くその通りで反論のしようもないことだが、彼はの前でたまに恐ろしいことを言ってのけたりした。
そして、根からのスリザリン生らしく、マグルがあまり好きではないようだった。
心を読まなくても、相手の性格というのは大体分かるものだ。
彼もが自分の性格の悪さにあっさり気づいたと分かったくらいから、なんの虚勢もなくあっさりと口にするようになった。
「流石テオドールだね。僕とどっちが強いと思う。」
誰も誰がやったか口にしないのだが、彼はテオドールがかけた魔法だと知っているらしい。
「わたしはテオドールを応援するよ。」
「酷いね。」
「だって、テオドール優しい。」
意地悪ばかりされているを見つけると、彼は最近よく庇ってくれる。
2年生なのに魔法は3,4年生の自分より遙かに上で、宿題などいろいろなことをついでに教えてくれることもあった。
何より最近ではを気にかけ、談話室で話を聞いてくれる時もある。
そのおかげで彼の取り巻きの監督生や上級生達もことあるごとにを助け、気にしてくれるようになった。
本当にありがたいことだ。
「テオドールは古代魔術をよく知っているらしくてね。」
「古代、魔術?」
「もう忘れてしまった。誰も求めたことのない分野だ。」
そしてそれを求めることが出来るのも、彼が旧家であるオイゲニー家の出身だからだろう。
歴代の様々な蔵書がある。
それは当然歴史のために値段がつけることが出来ないほどすばらしいものだ。
先々代のオイゲニー家当主が本集めが趣味で、豊かな財力をひたすら本に用いたと言うから、ホグワーツ以上の本があるかも知れない。
「すごいんだ。」
一つ年下なのに。
はそういう意味でただ感嘆したのに、目の前の聡い男はそれを違う方面にとったらしい。
「何?テオドールがすきなの?」
「違うよ。すごく優しい人だから。」
好き、とは少し違うのかも知れないとは思う。
トム・リドルはハンサムだ。
確かに言われて見れば顔立ちは整っていて、男らしくて、容姿だけ言うなら物腰も柔らかで格好良いのだと思う。
勉強も出来るし、表向きにはすごく優しいから、十分人気がある理由は分かる。身近にいるせいもあり、彼のことは現実的に捉えられる。
対照的にテオドールは綺麗だ。
人と特別関わろうともしないけれど、心根はすごく優しい。
どちらかというと無表情だけど中性的な顔立ちで、名門の出身者であることも手伝って、は有名人に抱くような憧れと共に彼を見ていた。
ただの、憧れ、だ。
「、少し良いかい?」
外から低い声音と共にひげ面の老人が部屋へと入ってくる。
「あ、ダンブルドア先生。」
はぱっと顔を上げて、立ち上がった。
トムも挨拶のために同じように立ち上がると、ダンブルドアはひらひらと手を振って気にするなと言うそぶりをした。
「今のホグワーツはどうじゃ。」
「え。学業の方ですか?」
「学校の方じゃ。」
の切り返しにダンブルドアはほっほと笑う。
彼女を知る人間なら学業の方など地を這うようだと知っているだろうから、聞きもしないだろう。
「元気にやっています。」
「そうかの。」
意味深に頷いて、一瞬トムに目を向けたダンブルドアは、とんとんとの肩を叩く。
「少し、話を聞きたいと、言うものが来ておる。」
「話、ですか。」
「あぁ、あまり良い思いはせんじゃろう。だから答えはどちらでも構わん。」
は彼の言葉にじっと考え込んだが、一つ頷いてから顔を上げた。
「構いません。お役に立てるのなら、と、お伝えください。」
「・・・無理はしなくても良い。君に利のあることではないのだから。」
ダンブルドアは自分から話しに来たにもかかわらず来訪者を歓迎していないようだった。だが、は首を振って、構わないと笑う。
「わかった。では今日の夜に。」
ダンブルドアはそう言って、また先ほどと同じようにゆったりとした動きで外へと出て行った。
「誰か来るの?」
トムはちらりと興味のないふりをしながら、を見る。
「うん。」
は隠すこともなく一つ頷いて、「宿題やらなくちゃ」と言った。
夕方時間がとられるので、宿題を先にやっておかないと危ないという話だろう。何となく当たり前のことを返すので、聞く気も失せて、トムはため息をつきたくなった。
ここ1週間ほど見ていても、彼女は確かに人の感情に鋭いところはあるが、それ以外変なのは極めて問題なその方向感覚と、魔法は使えるくせに制御の出来ない程に酷い魔法の能力だけだった。
確かにマグルでは無理だろうが、センスがないの一言に尽きる。その上細かいことが嫌いなので、魔法薬学の授業が一番嫌いなようだった。
「明日は魔法薬学の合同授業だから触らないでね。」
トムはにこやかに彼女に返す。
先日動物を小さくする薬を作ったつもりが、トカゲの尻尾を適当に切り分けて入れたらしく巨大化し、授業終わり時間になっても元に戻らず、魔法薬学の教授が宿題を忘れるほど焦ったのだ。
グリフィンドール生は慣れたものであるのでにお礼を言って帰ったが、合同授業であったため、他寮生は呆然としていた。
結果的に宿題が出なかったのでオーライなのだが。
「うん。気をつける。」
素直には頷いて、ぎゅっと自分の本を抱きしめる。
その手が少し震えていることに、気がつかなかった。
I doubt you, but you are mediocre more than other student