は相変わらず次の日の呪文学の授業で大失敗をやらかし、滅多に怒らないフリットウィック教授からお叱りを受け、夕食の席で落ち込んでいた。
「の失敗で宿題でなかったんだから、結果オーライよ。」
セシリアは笑いながらを慰めるが、彼女はどんよりとした表情で机に突っ伏す。
落ち込みすぎて食事を食べる気もしないのだ。
「気にすんなよ。」
五年生のグリフィンドールの監督生、ヘルマンもの頭を軽く撫でて去って行く。
皆が落ち込むを宥めようとしていたが、今回ばかりはあまり怒らないフリットウィック教授からの叱責と言うこともあり、落ち込みがちだった。
「わたし、魔法に向いてないのかな・・・・。」
魔力があることは間違いないのだが、それを操る術には長けていない。
正直飛ぶこと以外、魔法教科には全く良い成績のないは次の成績発表が怖くてたまらなかった。
「落第、したらどうしよ・・」
「大丈夫大丈夫、あんた顔若いんだから。1年に紛れたって分からないわよ。」
セシリアは的外れな慰めをして、夕飯のパンを貪った。
「うぅ、・・・出来れば普通に卒業したいです・・・」
は当たり前の、でも自分の能力では高望みだとわかっている希望を口にして、目を潤ませる。
「ミス・ダーレイン、この間怪我をしたとお聞きしましたが。」
静かだけれど高い声音がの背後から響く。
そこにはすっと背筋を正した四角い眼鏡の女性が立っていた。ぴしっと制服を着込んでいて、すぐに監督生であるのが分かり、は姿勢を正す。
「あ、はい。ミス・マクゴナガル。」
は萎縮しながらも、頭を下げて答えた。
彼女は達によりも2学年上、5年生でグリフィンドールの女子監督生だ。規則に厳しく怒られてばかりだが、よく虐められたりものをなくしたりするはお世話になりっぱなしだった。
「やったのは、スリザリン生ですか?」
冷ややかな調子ながらも、マクゴナガルが尋ねてくるので、はおずおずと頷いた。
「でも、・・・誰かは、分からなくて。」
後ろから突き飛ばされたのだ。
は咄嗟のことで相手の顔も確認できなかったし、本当のことを言うとスリザリン生なのかも分からない。
ただ、最近そういうことばかりだし、がトム・リドルとペアになってからというもの、そういう嫌がらせが沢山あり、グリフィンドールの寮生達もことあるごとに団結して庇ってくれるから、徐々に相手も悪質になっていると言うだけの話だ。
相手も分からなくては、今回のことはどうにもならない。
「わからないからといっても、対処法はあるものです。」
あきらめの良いにマクゴナガルは眉を寄せて、ぽんと手を叩く。
「何人かのグリフィンドール生は、最近スリザリン生が貴方にしていることを見ています。ですから、直接直談判に行こうと思っています。」
「え?」
「グリフィンドールの寮監マクシミリアン先生からスリザリンの寮監のスラグホーン教授に、注意するように言っていただこうと。」
「え、でもそんな大事な。」
「足を引きずるほどになって、大事ではないとは言えません。」
マクゴナガルははっきりとに言い切った。
確かには今、足に湿布を巻いてはいるし、数日で直ると言われたが、足を引きずっている状態だ。
その前はお腹を殴られ青あざを作ったし、その前は擦り傷と最近小傷が絶えない。
監督生達もの様子に見るに見かねたのだろう。公の場でのいじめが許されるわけがない。
「それと貴方も一人になりませんように。くれぐれも、」
マクゴナガルはそう言うと、本当に寮監のマクシミリアンに話をつけに行くつもりなのか、すたすたとグリフィンドールの机の先頭に座るマクシミリアンの方へと歩いて行った。
「格好良いわよね。ミス・マクゴナガル。」
セシリアは相変わらず夕食のハムを片手に息を吐く。
二つ年上だが、成績優秀、素行も優秀。すらっとした体躯と厳しい態度、あまり声を上げて笑ったりはしないので冷たい人物と思われがちだが、非常に情に厚い。
頼りになる監督生だ。
「うん。助けてもらってばっかり。あーでも一ヶ月後に休みになったら帰っちゃうのかな。」
「そういえばあんたクリスマス休暇どうすんの?」
「居残り、しかないよ。」
はそれを思い出して気分が重たくなった。
帰る場所なんてどこにもないのだから、一ヶ月後のクリスマス休暇が居残りなど当然のことだ。
「・・・わたし、誰なのかな。」
は普通に生活し、普通にホグワーツに通っていたただの少女だったはずだ。
なのに、ある日ふと目が覚めると、ホグワーツにいた。
それは同じだったけれど、そこはの知る、ダンブルドアが校長で、自分の友人達が笑い合う場所ではなかった。
当然の帰る場所も、存在しなかった。
全く違う、世界。
結局戸籍もなく、自分がどこの誰かという今までのすべてを失ってしまい、保護されたが魔法省の医者に言われたのは、一つだ。
“健忘症”
魔法省も今行方不明者のリストかららしき人物を探してくれているらしくいくつか該当する人はいるらしいのだが、本人だという確証もない。
「は、でしょ。」
セシリアはあっさりとに言う。彼女のあっさりとした性格が、いつもを救う。
魔法省の医者はにの今持っている記憶は幻だと言った。
義母も、孤児院で虐められたこと、ホグワーツで学んでいたことも、全部全部の妄想で、健忘症故に勝手に作られた記憶だと。
義母の温もりも、何もかも覚えているのに、嘘だというのだ。
も自分を誰も知らないこの世界では、それを否定することが出来ず、3年生に編入させてもらってからも泣いてばかりいた。
でも、セシリアはいつも言うのだ。
「はここにいるじゃない。」
ここにいるがすべてなのだから、例え他人に認められない記憶だったとしても、今を大切にするべきだと。
今でも義母や友人、これからどうすべきかなど不安を思うと寂しさのあまり泣く日も多いけれど、彼女が支えてくれるから、は少しだけ前向きでいられた。
「それに、クリスマスもなんだったらうちにこれば良いわよ。母様達に聞いておくわ。」
セシリアは明るく笑う。
「ごめんね。いつもいつもいろいろ迷惑かけて。その、力の、こととかも。」
「やだ。いつでもどんと来いよ。読まれて困るようなことないしね。」
「・・・」
はセシリアの言葉に少しだけ顔を上げて、彼女の緑色の瞳を見つめる。
表裏のないセシリアの性格は温かくて本当に安心できる。
「もっと上手にいろいろなこと出来たら良いのにな。」
勉強も含めて。とが言うと、セシリアはぷっと吹き出した。
「確かにね。方向音痴は困るから、矯正する方法ってないのかしらね。」
の方向音痴は魔法かと思うほどに酷い。
本当に欠片も自分の行く道が地図を見ても分からないし、来た道を戻ることすらも出来ない。ある意味で才能だと思えるほどに酷いのだ。
セシリアとは二人で事実を確認するように目配せをして、お互いに笑い合った。
you are my friend