それからもたびたび・ダーレインの元を、犯罪者を伴った闇払いがやってきて、そのたびには次の日授業を休んだ。
最初はの来客中に倒れたという話を信じていたトムも、流石におかしいと思い始めた。
また、は自分のことを未亡人に引き取られた孤児だと言っていたが、彼女の記録はどこにもないという。
そう、3年生に編入してくるまで、全くと言って良いほど彼女の記録はない。
「グリフィンドールの寮監のマクシミリアン・オイゲニーが彼女の後見人らしいな。」
何人か、純血の友人から聞いたところによると、彼女の公式の後見人はダンブルドアではなく、マクシミリアン教授であるという。
極めて変人で有名な彼は、それでも一応名門の出身であり、本来ならそう言ったことを意味なくするとは思えない。
「・・・オイゲニー家の、神隠しの娘か?」
オイゲニー家の当主マクシミリアンは敵対関係にあった家の娘と駆け落ち同然に結婚しており、一人娘がいたが、12,3年前の話で、3歳くらいで行方不明となっている。
もしがその娘ならば、今までどこにいたのかが問題になってくる。
記録が全くない。先日魔法省の関係者がを訪れていたが、それも意味があるのだろうか。
「本人は馬鹿なのにな。」
トムは一つ呟きながら、小さく息を吐く。
だが、本人は馬鹿すぎて利用しようと思うこちらが価値を見いだせないほど、矮小で力のない小娘だ。トムの名声を利用しようという気もない。
だからこそ、トム自身も楽なのだが。
「オイゲニーの娘なら、価値があるかも知れないな。」
共にいるのが楽だというのも大きな理由だが、彼女といるとトム自身も色々面倒ごとも避けられるし、彼女は基本的に何も望まない。
一応ペアなのは今年度中だけだが、見極めても良いかも知れないと思う。
「ごめん。お待たせ。」
は図書館の本を抱えてばたばたと出てきた。
3年生は呪文学の宿題が大量に出たらしく、そのための本らしいが、彼女の能力でどこまで役に立つのかは謎だ。
「うん。持とうか?」
トムはが抱えている本を見て、尋ねる。
「え、いや、でも、」
「落としても大変だろう?」
彼女は鈍くさいのでよくものを落とす。ましてや小柄で手足も短いのだから、大量の本を運ぶのは重さとしても大きさとしても難しいことだろう。
「そっか。ありがとう。」
は素直にお礼を言って本を渡し、少し頭が痛いのか軽く額を押さえた。
「どうしたの?」
「うん。なんか嫌な感じが、」
そう言って彼女はふと窓の外を見る。
「・・・何か、あれ?」
「何?」
トムは彼女が首を傾げたので、階段の大きな窓の外を見る。
一瞬灰色の暗くて重たい雲の中、影が過ぎった気がした。今日は曇天で、後数時間もすれば、雨が降り出すだろう。
はそれを大きな青色の瞳に映して、食い入るように見ている。
「ドラゴンだ。あの子泣いてる。」
「はぁ?ドラゴン?」
確かに雲間にいるのがドラゴンだと言われれば、そんな気もしなくはないが、肉眼で確認できるレベルでは無い。
空は曇天で、もう一度トムも確認しようと目をこらしてみたが、見える希望すらなさそうだった。ましてや泣いているなんて分かるはずもない。
何を言っているのだとトムはを見下ろしたが、彼女はじっと窓の外を見ていた。
「・・・何か、いる。」
はぽつりと呟いたと同時に、慌てた様子でぱたぱたと階段を下りていく。
「!?」
「な、何かがあの子を攻撃してる。行かなくちゃ。」
トムが呼び止めても全く止まる様子はなく、流れるように階段を下りてかけだしていく。向かっているのはどうやらダンブルドアの部屋へと向かうつもりらしい。
「ちょっと待て!何か騒がしい!」
に怒鳴るようにトムは言う。
気づかなかったが、生徒達がほとんど図書館の周りにはいない上、何やら随分と向こう側の校舎が騒がしい。
だがは止まらなかった。
「そうか、トムは危ないからここにいた方が良いかも!」
まったくトムの懸念から的外れのことを言って、はぱたぱたと下へと下りていく。何段か階段を踏み外しそうになっていたが、何とか下までたどり着いただったが、はっとした顔をして庭の前で凍り付いた。
「!?」
トムも慌てて下へと階段を駆け下り、すぐに凍り付いているの襟首をひっつかみ、上の階へと数段引き上げた。
「インペリオ!」
低い、男の声だった。
の足下を、誰かの魔法が通って行くのを感じ、は背筋が凍ったし、トムも同じだ。
それは“許されざる呪文”。
狙いのはずれた呪文は結果的にのいたところの後ろの壁に当たり、土煙だらけになったが、トムは冷静にすぐに杖を取り出し、呆然としてへたり込んだを階段のより上へと引きずり上げる。
「ディセンド(落ちろ)!!」
トムは鋭く言って、近くの壁を崩して相手が上ってこれないように入り口と階段の一階の部分の足場を崩す。
「と、と、」
「上へ!早く!」
トムはを怒鳴りつけ、彼女の背中を押して上の部屋へと戻るべく階段を駆け上る。
大人の魔法使いであればこの程度の時間稼ぎがどこまで役に立つかと言われれば、正直怪しい問題だった。
「な、何!?今の?誰?!」
「僕が知るわけないだろう!君の知り合いじゃないのか!?」
必死で階段を上り、廊下を走りながら、トムはに怒鳴る。
どう考えてもトムの知り合いではないし、許されざる呪文を使ってきたところから闇の魔法使いだろう。
その上を殺すのではなく“服従の呪文”を使ったことから彼女を捕らえようとしていると考えるのが自然だ。
「し、知り合いでは、ないけど!」
思い当たる節はあるらしい、ひとまずトムは廊下の左にある部屋へと向かった。ここは窓が広いので、いざとなればベランダから逃げるという方法も考えられる。
トムはを押し込むようにして中に入れると、すぐに鍵をかけた。
「闇の魔法使いだろ?あれ。」
「え?そうなの?」
「いや、君を狙ってきてるんじゃないか?それに君、ダンブルドアの所に行こうとしたじゃないか!?」
「だって、何かあったらおいでって言われたんだもん!」
「理由ぐらい聞け!」
確かに今緊急の事態なのは間違いないのだが、あまりに間の抜けた答えにトムはいつもつけている優等生の仮面も忘れて彼女を怒鳴りつけるしかなかった。
she dont know her secret