その日、大広間で夕食をとりながらはトムの魔法史の授業を聞いていた。

 皆その頭の固い話のどこが楽しいのか全く分からないが、は魔法史の授業のような話が楽しいようで、熱心に聞いていた。

 現在の魔法界の状態もふまえたトムの話は難しい。

 だがは別に気にしていないようで、たまに相づちを打ちながら楽しそうに聞いていた。

 性格的に穏やかなは普通の人間が退屈な話をにこにこ聞いていられるらしい。

 知らないことは楽しいというの性格は、難しいことをただ話しておきたい時のあるトムには一番良い相手だった。




「そういえば、、次の呪文学のレポートはどうなったの?」

「ん。わからなかった。」




 はあっさりとギブアップしたことを認める。

 大抵分からない場合、は宿題を分からなかったと決めつけてそのままだ。で、教授に分かりませんでしたと素直に自己申告し、怒られて終わりだ。




ちょっと見せてご覧。」

「え?わからなかったよ。」

「僕が分かるから、教えてあげようって言ってるんだよ。持っておいで。」

「え、別に良いよ。」

「良くないよ。早く持っておいで。」





 トムはぽんぽんと木の机を叩くので、は渋々グリフィンドール寮へとレポートを取りに戻っていった。

 その背中を見送りながらため息をついていると、食事にやってきたセシリア・アークライトがちょうどトムの隣にやってきた。




「あ。ミスター・リドル。横の席良いですか?」

「あぁ、もちろん。」




 トムは答えて、隣の席を勧める。セシリアは食事を机の上に置いて、躊躇いもなくトムの隣に座った。

 セシリア・アークライトは純血の一族アークライト家の一人娘で、前年度の主席でもある。

 シルバーブロンドの印象的な色白の美人で、すらっとした容姿から上級生からも人気があり、スリザリンでも好きな生徒がいるとかいないとか言う話をよく聞いていた。

 彼女自身はグリフィンドールだが、純血であるため、スリザリン生からも人気がある。

 先日も誰かが告白すると言っていたばかりだ。




「ラブレター届いた?」

「届きましたよ。よくご存じですね。」

「スリザリンの男子生徒が言ってたから。」




 やはり届いていたらしい。トムは軽く笑って自分の本を開いてから、コップにあった水をあおいだ。




「本当に、上級生ってこういうことに熱心ですよね。」




 セシリアは呆れたように言って、髪を掻き上げる。その動作は年の割にはどきりとするほど大人びていた。

 それに比べては、とトムですらも思ってしまう。

 普通にしたら可愛いのに、髪も寝癖そのままぼさぼさで出てくるし、服装に気遣うことも全くない。装飾品も皆無だ。

 どうしてもセシリアが隣にいるので、の幼さは目立つ。




「あ。でもこないだ言い寄られてた上級生どうしたのかしら。」




 セシリアがさらりと言うので、トムは思わず飲み物を吹いた。




「君たちまだ三年だろ?」

「え?自分たちが三年の時のこと考えてみてくださいよ。そんなもんでしょ。」





 セシリアに言われれば確かにトム達が3年だった頃もそんなもんだったと思うが、と言われるとあの幼い容姿のせいか、酷く不釣り合いだったし、酷く苛々した。




「七年生だったっけ?今はやりのロリコンじゃないかしら。」





 セシリアは吹いたトムをさらりと笑いながら、食事の隣に自分の本を広げる。





「レポート!持ってきた!!」





 がぱたぱたと食堂に入ってきて、息を荒くしながらも机の上に置く。

 それは先ほど言っていた魔法史のレポートだ。が難しすぎて分からないといったレポートで、放置するつもりだったのだ。





「あ、それ、わたしもうやったわよ。」





 セシリアはのレポートの題名を見て、あっさりと言う。





「え。嘘。」

「簡単だったじゃない。」

「・・・わたし、わかんなかったよ。」





 は一瞬題名が難しいとわからないと決めつけて手を出さないところがある。だからわからないものだと題名などだけを見て勘違いしたのだ。




「うつさせてあげるわ。先に言いなさいよ。」




 セシリアは荷物からごそごそとレポートを取り出し、それをに渡す。




「え、あ、ありがとう。」




 はそれを素直にもらい、席についてレポートを確認していく。




「そうそう。ミスター・リドルと話してたんだけど、こないだの7年生どうしたのよ。」




 セシリアはあまりとってきた食事が美味しくなかったのか、スプーンを口に運び嫌な顔をしながら、に尋ねた。




「あぁ、どうしようか。」




 は頬を染めて、悩ましげに首を傾げる。





「決めてないの?」




 トムがちらりとを見ると、は素直にこくりと頷く。




「だって、初めてなんだもん。」




 幼い容姿故に、今まで告白されるなんてことはなかったので、驚きだったし、嬉しかったような気もする。

 ただ、知らない人なのは事実なので、どうすれば良いか分からない。




「なかなかハンサムって噂だし、つきあってみれば?ものは経験よ。」





 セシリアはの写しているレポートの内容が違うことに気づいたのか、単語をぽんぽんと指で叩く。




「う、うーん。」




 は初めてのことなので、どうしたら良いのか分からないらしく、困った顔をする。




「断るにも誰もいないしね。」 




 セシリアは初々しいを温かい目で笑う。

 はまだつきあっている人も、つきあったこともないので、正直相手が適当に良い人ならば、トライしてみるのも悪くない。




「トムは、どうしてるの?たくさんあるでしょ?」

「直接来ない奴は、基本的に相手にはしないね。」




 トムも沢山経験があるし、つきあった人間も実は結構いる。

 だが基本的に直接来ない人まで相手にしていると人数が増えるので、そちらは相手にしないことにしていた。




「え、そうなんだ。」




 は手紙の相手を直接知るわけではないから、それならやめておいた方が良いのかと首を傾げる。

 正直にとってどっちでも良い選択だ。

 すべてがの意志に任されているわけだが、としてはなかなかすっきり決めることが出来ない。





「まぁぐずぐずするのも良くないから、早く結論をつけてしまった方が良いとは思うけど。それに相手がどういうタイプなのかも分からないんだろ?」





 トムはそう言ってちらりとを見る。でも基本的に優柔不断のだ。すぐに決めてしまうのはさぞかし難しいことだろう。




「う、うぅ、ん。ど、どうしよう。」




 は先ほどは恥ずかしがって赤くなっていたのに、今度は顔を青ざめさせて困った顔をする。

 そんなに悩むなら、ひとまず今回はつきあわない方針で決めてしまえば良いのに。


 トムは変な苛々を止められず、ただそう思った。



It is very annoying for me.