グリフィンドール寮は今年度世代交代の時期で、シーカーに三年生の、ビーターに同じく三年生のセシリア、チェイサーに二年生のテオドールという、若手の多い構成になっていた。
対するスリザリン生は七人中五人が五年生以上、トムともう一人男子生徒が四年生という構成だった。
「駄目、心臓割れそう・・・・。」
は箒を抱きしめ、必死で自分を落ち着かせようとする。
初の公式戦と言うこともあり、練習のようにスニッチを見つけられるか心配でおどおどしていると、セシリアがどんっとの背中を叩いた。
「頑張りなさいよ。じゃないと、食われちゃうわよ。」
ミスター・リドルに、とは言わなかったが、彼女の言うとおりだった。
もしもスリザリンが勝利したら、つきあうという二人の約束はがスニッチを見つけるかどうかに大きく関わっている。
「やるわよー、ブラッジャーをスリザリン生の顔にたたき込んでやるわ。」
クラブを持ってそれを軽く振り回し、本気でやる気のセシリアに若干引きながら後ろを見ると、小柄なテオドールがいた。
一応、彼はの義弟であり、従弟でもある。がオイゲニー家の娘であると分かってから距離をとって接してくれていた彼は、一応の父・マクシミリアンの養子で、甥っ子なので、にとっても従弟だ。
より一つ年下だが、黒髪から覗く紫色の瞳は酷く落ち着いていた。
「こいつ、肝座ってるよな!」
監督生でもあり、グリフィンドールのチェイサーの一人でもあるヘルマンが笑いながらテオドールの頭をぐしゃぐしゃにする。
テオドールは一瞬ちらりと不満そうに紫色の瞳を彼に向けたが、何も言わなかった。
「よし、行くぞ。」
キャプテンでキーパーのミスター・ポッターが笑って、試合の幕が開く。
そこにあったのは大きなクィディッチ競技場と、熱狂する観客だ。ざわつく人々に箒にまたがったまま凍り付いたが、セシリアに背中を叩かれると同時に、は競技場へと出た。
キャプテンのミスター・ポッターについて行くように上空を旋回する。
客席の方を見ればグリフィンドール生が皆黄色と臙脂のマフラーをつけ、旗や布を振っていた。席には監督生のミネルヴァ・マクゴナガルや、ミスター・ミュラー、そしてグリフィンドール寮監で、とテオドールの父であるマクシミリアン・オイゲニーの姿があった。
“本日の試合はスリザリン対グリフィンドール!”
アナウンスが客席のブースから流れてくる。
反対側の客席にはスリザリンの生徒達もいて、灰色と緑色のマフラーを振って同じように自分の寮を応援していた。
「、場所に。」
キーパーでキャプテンのポッターの合図に従い、シーカーは一番高い位置に向かい合い、下にはくるりと円形にスリザリン、グリフィンドールの両選手が向かい合う。
「お手柔らかに。」
そう言って微笑んだのは、アブラクサス・マルフォイだった。
より二つ年上の彼は選手としてはベテランで、去年もシーカーとして活躍していた人物だ。
下を見れば少し心配そうな顔をしているチェイサーのトムがいた。
「公正なゲームであることを望む。」
地面に置いてある箱の傍で、ダンブルドアが張りのある声音で言って、全員が上空で位置についていることを確認して、用具箱のふたを開ける。
途端ブラッジャーとスニッチが一斉に飛び出した。
そしてダンブルドアがボールであるクアッフルを持ち上げ、そのまま上空に放る。それをとるべく両チームのチェイサーが動き出して、自動的に試合は始まった。
「えっと、」
基本的にチェイサーのクアッフルの奪い合いには関係ないは辺りを見回す。だが次の瞬間、くるりと一回転した途端、自分とすれすれの場所をブラッジャーが通っていった。
「ぎゃっ!」
蛙がつぶれたような声を上げて、ブラッジャーに衝突されたスリザリン生が地面に落ちる。
「!ぼさっとしない!」
クラブを振り上げて、セシリアがをせかす。
どうやら先ほどのブラッジャーを飛ばして敵に当てたのはセシリアらしい。自分のすれすれの場所をブラッジャーが通ったと言うことも怖かったが、人が落ちたのに同情など欠片もしていないと言ったそぶりのセシリアが一番怖かった。
ただ、20分もすればある程度の体制は整い、力量の差が出てくる。
やはり下の学年の生徒が多く、チームワークがまだ確立されていないせいか、グリフィンドールのプレーは荒い。がスニッチを見つけられず、ブラッジャーを避けている間に、150対20なんて言う酷い数字になっていた。
「あー、もー、むかつくわね!!」
セシリアはクラブを振り上げ、ブラッジャーを相手のゴールの方へと飛ばす。だがゴールキーパーの六年生はそれを簡単に避けた。
セシリアはあからさまに舌打ちをしてみせる。
元々スリザリンは荒いプレーで有名で、順番にグリフィンドール生が地面に倒れていくのを見ながら、は背筋が凍りそうだった。
「テオドール!あんたどうにかしなさいよ!!チェイサーでしょう?!」
セシリアは怒りにまかせて、チェイサーのテオドールを怒鳴りつける。
「・・・わかってますよ。」
珍しく無表情に苛立ちを見せたテオドールはちらりとクアッフルを持っていユースリザリンのミスター・クラップに疎ましそうな目を向けた。
「!あんたもなにやってんの!とっととスニッチを探しなさいよ!!」
セシリアに思いっきり背中を叩かれ、はびくりとしたが、テオドールとセシリア、そしてキャプテンのミスター・ポッターはそのまま答える時間も惜しいというように飛んでいった。
「ひっ!」
はブラッジャーを避けながら、箒を操って一番の上空へと上がる。比較的は目の良い方だし、動くものを見つけるのが得意だ。
一瞬、は目の端に何かを捕らえた。
「あれだ!!」
分かった途端、矢のように一直線に真下へと飛ぶ。
「・・・!?」
全員が、が逆さに落ちているのかと思うほど、一直線に地面に向かって飛んだかと思うと、スニッチが逃げたのと同時に地面すれすれのところで、箒を無理矢理引き上げ、地面すれすれの所をほとんど速度を落とさぬままに飛んだ。
「・・・すごいな。」
ゴールに箒の枝の部分でクアッフルを叩き入れながら、の飛ぶのを実際には初めて見たトムは、目をぱちくりさせる。
表現するならすぐに止まれる猪だ。
見つけたら一直線、誰でもスピードの出し過ぎには地面に落ちたりと言うことを考えれば恐れをなすものだが、はそう言った危惧を抱かないらしい。
「でも、遅いかな。」
すでにスリザリンのシーカーであるアブラクサスが、スニッチを見つけ、遙か向こうでそれを掴もうとしていた。
だが、それに突っ込むように、なんの躊躇いもなくアブラクサスの方へと一直線に飛んでいく。
恐れをなしたのは、アブラクサスの方だった。
「なっ、」
が明らかにためらいなく、あり得ない速度で突っ込んできていたため、アブラクサスのスニッチに伸ばされた手が一瞬凍り付く。
スニッチだって、つかまりたいわけではない。
急いでアブラクサスから離れようとした瞬間、そのあたりをが高速で飛んでいった。
「・・・」
は確かに飛ぶのはうまいが、あのスピードでは当然急に止まれるはずもない。それぞ不可能だ。そのままは客席の下の枠組みに突っ込んだ。
全員が呆然とする中、がらがらと足場の崩れる酷い音がした。
She is crazy.