結局クリスマス休暇は、セシリア、トムの、二人を連れて共にオイゲニー家の城に行くこととなった。
「あぁ、良いんじゃね?」
2人も連れて行くと言うことをマクシミリアンに言うと、あっさりと同意した。
「うち広いし、おまえもその方が気楽だろ。」
娘だと分かっていても、15年間、離れていたため親子の情を抱けという方が無理だと言うことを理解しているのだろう。
「・・・ごめんなさい。」
それに甘えている気がして、は目を伏せるしかなかった。
すると、マクシミリアンは困ったように笑っての頭をかき回すように撫でる。
「気にすんな。そんなもんだろ。だから気にしなくて良い。それにテオドールのこともあるから、その方が良いのかも知れない。」
テオドールは本来ならマクシミリアンの弟の子供に当たるが、両親が早くなくなっており、マクシミリアンの娘であるが神隠しに遭っていなくなったことや、その他のことも重なって、マクシミリアンの養子になった。
はまだ、オイゲニー家の娘と知られない方が良いだろう。
「気楽に遊びにおいで、テオドールの家に遊びに来る気分で。」
テオドールとやセシリアは同じ寮であり、仲も良い。
彼が友人を呼ぶという形をとれば、別に問題はあるまい。その友人が数人増えたところで、おかしくはない話だ。
「あの、わたしのお母さんにも、会えますか?」
はおずおずと自分の父だという人を見上げる。
マクシミリアンは有名な闇払いであり、オイゲニー家の出身と言うこともあって有名だが、彼の妻の話はほとんど聞いたことが無い。
子供の話ですらも、魔法界の物事をよく知っているはずのトムですら、知らなかったのだ。
「会いたいなら、そうできるようにするが、少し、覚悟しておいてくれ。」
一瞬、彼の緋色の瞳に悲しそうな色合いが宿る。
「何、か、あるんですか?」
「闇の魔法使いとの戦いで、少し、体が不自由だからな。」
マクシミリアンはぽんとの肩を叩いてから背中を押す。顔を上げて時計を見れば、既に夕食の始まる時間だった。
「さぁ、行け。きっとミス・アークライトが首を長くして待ってんぞ。」
彼に押されるように、はそれ以上聞くことも出来ず、彼の部屋を後にすることとなった。階段を慌てて下りていくと、そこではセシリアとトムが待っていた。
「ごめんね。遅くなりました。」
「ん。マクシミリアン教授はなんて?」
トムは穏やかに尋ねて、の背中を叩く。
「うん。良いって。1週間後にドラゴンが迎えに来るって。」
「・・・それすっごく怖いんだけど。」
オイゲニー家には家に仕えるドラゴンがいるという話は有名だが、ドラゴンは元来非常にどう猛な生き物だ。
それをよく知るトムにとっては非常に心配だったが、は別に気にしていないようだった。
「楽しみだわ。まさかオイゲニー家に行けるなんてね。」
セシリアは珍しくはしゃいだ声音で言う。
「でもセシリアの家も天下のアークライト家で、しかも君は一人娘じゃないか。」
トムはセシリアの家であるアークライト家のこともよく知っている。純血の家柄であり、セシリアはその家の一人娘である。
「あ、それ違いますよ。」
セシリアはあっさりと間違いを訂正する。
確かに一般的にセシリアは一人娘だとされているが、実際は違う。
「私、年の離れた兄がいたんですけど、マグルと結婚しちゃったんですよね。」
「え?」
「には話したことあるんですけどね。」
名門の家であるがために、マグルと結婚したことが一族の恥として兄が除名されたのだ。年が離れていたこともあり、ここぞとばかりにセシリアは一人娘ということにされた。
純血の一族の中にはそのことを知っている人間たくさんいるが、本や公式の記録においては一人娘になっている。
「わたしが5歳くらいの時の話なんですけど、私には優しい兄で。ま。両親に対する家庭内暴力は酷かったんですけどね。」
セシリアは5歳だったため、ぼんやりともめていた兄の姿を覚えている。
最初は結婚問題だったと聞いている。彼が結婚したいといった女性が、マグルで、両親が彼女の中から彼の記憶を消去したのだ。魔法で。
兄は彼女の記憶を取り戻すと同時に彼女と共に結婚、家出した。
「そりゃ、マグルは大変だよ。」
トムはあまりマグルに良い印象を持っていないので、眉を寄せて頷く。だが、セシリアも首を振った。
「ところがその女性がすごく良い人で、毎年ちゃんと私や家族にプレゼントを贈ってきてくれるんですよ。」
マグルからのプレゼントは、正直セシリアから言わせてみればかなり素っ頓狂なものだったが、幼心に面白かったのを覚えている。
両親も態度を軟化させ、家の面目を立てるために除名させたが、今ではそれなりに交流もある。
「7歳くらいの子供さんもいるんだよね?」
がセシリアの説明に付け足す。
「そうそ。7歳の双子で、やっぱり魔法使いらしくて、この間も相談の手紙が来てたくらいだもの。」
「何したの?」
「兄弟喧嘩でお互いものを魔力で浮かせて投げ合ったらしいわ。」
「・・・そりゃお母さんびっくりだね。可哀想に。」
マグルであればあり得ない兄弟喧嘩の光景だ。止めようもなく呆然としたに違いない。
「まぁそれでもうまくやってるし、甥っ子達は可愛いしね。」
マグルと純血の魔法使いの間に生まれた甥っ子達は、セシリアから見れば遜色のない魔法使いで、多分数年後には普通にホグワーツに入ってくるだろう。
マグルのこともよく知るちょっと変な生徒として。
「ちなみにセシリアのお兄さんは闇払いなんだよ。」
は自分のことのように自慢するから、トムは吹き出してしまった。
「なんで君が言うのさ。」
「だって、闇払いだよ。すごいよ!」
闇払いと言えばエリートの中のエリートで、特殊な能力を持っている魔法使いの宝庫であり、優秀な生徒でもなかなかなれない狭き門だ。
闇の魔法使いを相手にするのだから、そのくらいでないと生き残ることが出来ない。
「もしかして、だからマグルと・・・?」
闇払いともなればマグルの中で行動することもある。トムがちらりとセシリアを見て尋ねると、彼女もあっさりと頷いた。
「闇の魔法使いとの戦いに巻き込まれた、マグルだったらしいわ。最初はそれで終わりのはずだったんだけど。」
「どっちが好きになったの?」
「私の兄さんの方。ま、流石に魔法使いだって言ったら姉さん喜んだらしいわ。」
「え?」
トムの孤児院での思い出は、嫌なことしかない。
それは子供故かも知れないが、異質なものに子供は冷たく、トムは常に一人で、孤独と奇異の目に耐えていた。
だから、セシリアのマグルの義姉の話は非常に受け入れがたい。
問い返せば、セシリアは肩を竦めた。
「貴方、箒で飛べるの!?見せてよ!!って本気で喜ばれたらしいわ。」
「それってマグルの中でも相当変人だったんじゃない?」
トムは思わず口から勝手に言葉が出ていた。
魔法使い=箒で空を飛ぶという発想がマグルらしいが、それ以上にそのことを好意的に受け止めるのも珍しいんじゃないかと思った。
I hate or you love