ドラゴンは大人しくもないが、気が荒いわけではないようだった。





「オイゲニー=マクロ種はでかいだろー。」





 マクシミリアンは楽しそうに黒光りするドラゴンの背中を撫でる。

 黒い毛に覆われ、日色の目をしていたり、赤い目をしているドラゴンは大型だが、やセシリアが餌をやるとちゃんと“待て”をするし、餌を手から奪うと言うこともなかった。

 ただ、たまに何も考えずに炎を吐くため危ないが。




「マクシミリアン教授、どうしてこのドラゴンはオイゲニー家で飼われているのですか?」





 勉強熱心なトムは、餌やりを楽しむやセシリアとは違い、熱心に生態や習性を尋ねる。







「んー詳しいことは昔のことだからわかんねぇけど、こいつらの始まりはオイゲニー家の賢人がそれぞれ持っていた7匹のドラゴンだ。」







 魔法などを使ったと言うよりは、同時代にいたオイゲニー家の人々がドラゴンをならし、そのドラゴンの子供達を代々飼うようになったのがなりたちだ。

 本来ドラゴンは気性が荒く、誇り高い生き物であり、人に従わない。


 それがオイゲニー家の人間に従うのは、昔からの良好な関係があるからだ。






「中世の争いの時代においては、警備の役目も担っていた。その代わり俺たちはドラゴンに餌を提供するというわけだ。」






 マクシミリアンは笑ってドラゴンの首元を撫でる。

 普通なら嫌がって彼を襲ってもおかしくないドラゴンは、喉を鳴らして彼の手に頬をすり寄せた。ドラゴンの鼻息でマクシミリアンの黒髪が巻き上がるが、彼は全く気にしていないらしい。

 トムは少し引くなと心の中で思いながら、を見ると、後ろで彼女は楽しそうに兎をドラゴンにあげている。





「ドラゴンは他の一族の人間には、懐かないのですか?」





 セシリアなども兵器で餌をあげることが出来ているのを見る限り、ここのドラゴンはむやみやたらに人を襲うと言うことはないだろうが、それでも全く信用できなかった。

 トムには到底ドラゴンは知能の高い動物には見えなかったのだ。




「そうだな。もし仮に俺が今ここでおまえを襲えって言う命令をドラゴンにしたら、おまえは今ここで食われるぞ。」





 マクシミリアンはにやっと人の悪い笑みを浮かべ、トムを見る。





「ドラゴンはちゃんと意思伝達をしているからな。特にここのは群れてる。」




 群れとして活動している限り、仮にマクシミリアンがトムを殺せという命令を出した場合、それはすぐに他のドラゴンに伝達される。

 そうして敵を排除するのだ。





「ま、おかげで俺たちは中世の争いの時代も、生き延びたって訳だ。」





 中世の時代においても変わらず、このヴィクトリア城が敵の手に落ちたことはない。その一因はドラゴンにある。


 幸運が大きな家を生かすのではない。


 当時魔法使い達が野蛮だと侮ったドラゴンを利用することによってオイゲニー家は2千年近く栄えてきたのだ。





「・・・しかし、オイゲニー家の人間を何で区別するのですか?外で育っていたは?」





 トムはマクシミリアンを見上げると、彼は赤い瞳でトムを一瞬ちらりと見ると肩を竦めた。





「そりゃ秘密だが、もオイゲニー家の一員と言うことで変わりはない。」





 ドラゴンを操る方法は秘密だが、幼い時に家を離れたはずのをドラゴンが襲うと言うことはないようだ。

 トムは当主らしい警戒心を見せたマクシミリアンから目をそらして頷いた。

 グリフィンドールの寮監である彼は元々非常に人気があり、気さくな性格からスリザリンの生徒でも彼を好むものも多い。

 元闇払いであり優秀な人物だというのは間違いないらしい。

 トムはどうやら気さくな性格とどこかと似た穏やかで抜けた雰囲気であるため勘違いしていたらしい。彼は非常に賢いし、トムに対して警戒していないわけではない。

 もしかすると昔からトムに疑いを持っているダンブルドアから何か話を聞いているのかも知れない。ダンブルドアもまた闇払いであり、マクシミリアンからすると先輩に当たる。






「そういや、は母親のことを気にしてたか?」





 マクシミリアンはトムに尋ねる。





「そうですね。彼女の母はヴァヴァリア家出身なんですね。」





 が母親のことを気にしているのは、トムも聞いている。

 会いたいという気持ちもあるようだが、オイゲニー家に来たこと自体には不安を覚えているようだった。





「ヴァヴァリア家って言っても、愛人の子供だからなぁ。」




 マクシミリアンは自分の黒髪をくしゃくしゃと撫でつけた。




「テオドールから聞きましたよ。駆け落ちだったとか。」

「はっは、聞いたのか。そうだぜ。楽しかったさ。俺は闇払いだからな、マグルのところで暮らしたりもした。」





 名門とはいえ、愛人の子供を、オイゲニー家の嫡男であったマクシミリアンの嫁に迎えるのには一族中が反対した。

 だから、マクシミリアンは別にこだわりもなかったし、駆け落ちした。

 元々闇払いとなり、ヴィクトリア城に滞在することも少なかったし、移動する生活には慣れていた。給金もかなりもらえていたため、暮らしていくに困らない。

 それなりに、楽しくやっていた。





「グリフィンドールの末裔と呼ばれているのに、マグルのところで?」




 トムは思わず楽しそうに話すマクシミリアンに眉を寄せる。だが、彼はそんなトムの様子に肩を竦めて見せた。





「今、スリザリンの末裔だと言われてるゴーント家なんて酷いもんだ。それに比べりゃ、俺はマグルの中とは言え良い所に住んでたと思うぜ。」

「スリザリンの末裔って、いるんですか?」

「いるっちゃ、いるけどな。近親婚を重ねて落ちぶれた一族さ。」





 財産も既にほとんどなく、ぼろいアパートでマグルの近くに住まう一族というにも今や数人の家柄だ。かつての栄光など欠片も窺えぬほど衰え、刑務所で過ごしているものもたくさんいたし、当主も確か前科持ちだ。






「マグル嫌いの純血主義がちがちで、呆れるほど頭の堅い馬鹿どもだ。俺たちも呆れるわ。」




 純血主義を唱える魔法使いはたくさんいるし、オイゲニー家をはじめ、ポッター家やブラック家、その他の家も例に漏れず純血だ。

 旧家であるオイゲニー家出身のマクシミリアンとて、その思想を良かれとは思わないが慣れ親しんだものであるのも事実だ。彼自身もまた、純血である。

 だが、それ以上にあの一族はそう言ったものにこだわりすぎた。

 禁忌とも言うべき近親婚ばかりを重ね、生まれたのは異常者ばかり。ホグワーツにも通わず学もなく、魔法も他者を虐げるだけにしか使わず、アズカバンに送られた者どもに、マクシミリアンがかける言葉はないに等しい。




「有名な一族は親戚同士みたいなものだから、俺たちもスリザリンに繋がってるかも知れねぇ。実際弟のアーダベルトなんて、スリザリン寮だったしな。」




 オイゲニー家は一般的に分家も含めてグリフィンドール寮に所属することが多いが、マクシミリアンの弟はスリザリンで、一族内ではそのことも大問題となった。





「ま、寮が何か関係あるわけじゃねぇけど。」







 マクシミリアンは軽くトムの肩を叩いて、の方へと歩いて行く。




「餌はやれたか?髪の毛とか燃えてないか?」





 そう言って、彼は娘の頭をくしゃくしゃと撫でる。元々燃えていたとしても分からないほどの天然パーマであるは笑いながら首を振った。





「大丈夫だよ。手を噛まれたりはしなかったし、ね。」

「でも、危ないわよね。」






 セシリアも笑いながら小柄なの腕を引っ張って、少し後ろに下がらせる。

 彼女はどうしてもドラゴンへの恐怖心は消えないらしい。単純なは最初こそ大きなドラゴンを怖がっていたが、懐くように手に頭を寄せられれば、拒めなかったらしい。元が動物好きというのもあるだろう。

 また人の感情に聡いは動物に対しても同じらしい。




「・・・ゴーント家。」





 トムは小さく口の中で先ほど聞いたスリザリンの家柄を反芻する。

 ドラゴンなどの話の核心は聞くことが出来なかったが、それでも十分に価値のある話だったと、トムは笑みを零した。


it is interesting for me.