クリスマスの朝、は届けられたプレゼントに目を輝かせた。
暖炉近くに並ぶのは沢山のプレゼントだ。ホグワーツの友人からのものがほとんどで、トム宛のものも沢山あった。
「あぁ!セシリアのお兄さんからのプレゼントがある!」
妹の親友であるへと書かれたメッセージの入ったプレゼントに、は思わず感動する。
「何くれたの?」
トムが包みを開くの手元をのぞき込む。
本当に小さな手のひらサイズで、淡いピンク色の綺麗な包みに囲まれたそれの中から出てきたのはオルゴールだった。
「可愛い」
綺麗な銀色の彫刻の入った小箱は、開くと小さな音が流れ出す。
中には小さなカードが入っていて“私の親友の娘、妹の親友へ、愛を込めてと”と書かれていた。
「そういえば兄さん、昔、赤毛と三つ子と同じ学年で、仲が良かったって言ってたわ。」
セシリアは思いだしたように言う。
赤毛の上に三つ子なんて早早ホグワーツの中にもいる物では無いから、間違いなくの母たちのことだろう。もちろんセシリアものことを良く兄に話しているので、年の離れた妹の親友への小さなクリスマスプレゼントと言った所だろう。
「可愛いねぇ。とっても綺麗。」
は気に入ったとのか、それをきちんとハンカチで包み直してから、丁寧にベッドサイドの机に置いた。
「あ、トムからのも小さいね。」
トムからに贈られたクリスマスプレゼントも、やはり小さかった。
「開けても良い?」
「もちろん。」
トムは笑って答えて、ソファーに座るを背もたれの後ろからのぞき込む。
「わぁ、綺麗ね。」
それは少し褪せた金色のペンダントだった。古代の紋章なのか、文様がふたの部分に描かれ、中が開けるようになっている。趣味の良いロケットだった。
「気に入ってくれた?」
「うん。すごく綺麗だし、あんまりこういうのもらったことないから、嬉しいかも。」
の容姿が子供っぽいせいなのか、皆がに贈るプレゼントと言ったら人形か可愛らしい服とか、そう言ったものに限られていたので、女性らしいものを贈られることは珍しかった。
実際友人達の贈ってきたものの多くは、大きなテディベアや犬の人形だった。
「それにしてもまさか、君が贈ってくるのがセーターだとは思わなかったよ。しかも結構器用だね。」
チェック模様のセーターを持って、トムは珍しく感心する。
からトムに贈られたのは手編みのセーターだった。
大抵そう言ったものを敬遠するトムだが、まるで買ってきたものかと言うほどに見事なそのセーターは真ん中に一つの編み目の落ちもなく綺麗なチェック模様が並んでおり、結構ファッショナブルだ。
手編みというのはどうしても一色になってしまうイメージがあったが、うまくなればそういうわけではないらしい。
「って本当にうまいわよね。編み物。」
セシリアはフリルのついた縁の、薄手の白いカーディガンをからもらっていた。
彼女は元々背もすらりと高く、年の割に大人びているので、白いカーディガンもよく似合うだろう。
「案外趣味良いんだね。」
「それ、結構酷いよ。トム。」
は言いながら、友人たちからのプレゼントを開けていく。
中には父であるマクシミリアンやテオドールからのものもあった。多くはぬいぐるみだったり、可愛らしい日記帳だったりと、どちらかというと子供っぽいものが多い。
まぁ、大方例年通りの組み合わせだ。
生きている世界は変わっても、が相手に与える印象など欠片も変わらないと言うことだ。
「そういえば、結局、この部屋を覗いたあの女性は君の母親だったのかな。」
トムはソファーに腰を下ろし、暖炉に目をやる。
の叔母エイレーネに似た、赤色の髪の女性。一瞬この部屋をのぞき込んだ彼女はすぐに去ってしまったので分からない。
「・・・お父さんに聞いても、あんまり話してくれなかったし。テオドールも一緒だったね。」
も自分の実母のことが気になり、いろいろと聞いてみたが、二人の答えは曖昧だった。
彼女のことを、誰も話したがらないのはどうしてなのだろう。
「僕、君の家の家系図を調べたんだけど、母親の名前はディケーってなってたよ。」
「ディケー?」
「うん。」
の母親が三つ子だという話は既に知っている。
一人が今のヴィクトリア城に住んでいるエイレーネ、テオドールの母であるエウノミア、そしての母親の名がディケーだという。エウノミアは既に亡くなっており、ディケーは姿を見せていない。
「ふぅん。お母さんの名前、ディケーって言うんだ。」
は何も知らない。
生まれてすぐに神隠しに遭い、消えたと言うが、は違う世界で孤児院に預けられており、気づけば両親はいなかった。引き取ってくれた義母を今も母としたっている。もう、会えるかどうかは分からないのだが。
自分の実母に興味がないわけではない。会いたいとも思うけれど、会ったからと言って何を言ったら良いのか分からなかった。
「今度、兄さんに聞いておこうか?」
セシリアの年の離れた兄が母達と同い年だったということだから、何か知っているかも知れない。もしくは叔母だというエイレーネに話を聞けば分かるのかも知れないが、なかなかは勇気が出なかった。
けれど、は深く考えないことにしていた。
「まぁ、ホグワーツに帰るまでには、答えが出るんじゃないかな。」
「君って本当に脳天気だよね。」
「だって考えても仕方ないことじゃない。わたし、結構馬鹿だから。」
トムは真面目すぎるのだ。
謎や知りたいことがあれば、何に変えても決して諦めずに突き詰めていく。分からないことを放置しておこうとはしないトムの姿勢は、彼の成績が良い原因にもなっているのだろう。だがにそう言った探求心はないに等しい。
元々難しいことを考えるのは苦手だ。
「自分の母親のことだから、きっとお父さんも時期が来たら言ってくれるよ。」
多分、父であるマクシミリアンにとっても心の準備が必要なことなのだろう。
実母のことを見てみたいと思うが、その気持ちは他人の気持ちを壊してまで強いものではまだない。少なくとも、にとっては十分に待てるものだ。
「今はこれだけで良いよ。」
家族からと題されて、父や叔母、そして弟のテオドールからもらったプレゼントを抱きしめながら、はそう思った。
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