は目の前にある惨状に腰に手を当てたまま固まるしかなかった。




「…」




 そこは宇宙船の動力まで置いてある格納庫で、収納のために壁やらあちこちに扉がある。鉄やプラスチックの扉は全部ねじ曲げられるか、破壊され、引きはがされて中身や機械が露出。挙げ句の果てに全く違うパイプなどから煙やら蒸気が出ていた。




「何したの…神威。」




 は目の前でにこにこ笑ってる神威に尋ねる。




「かくれんぼ?」

「こんなにあっちこっち引きはがしちゃったら、隠れる所なんてないじゃない!!」

「だって俺が鬼なんだよ。まだアズマ見つからないし。」





 神威は珍しく少し悔しそうに笑いながら、言い訳をした。

 どうやらが書類をやっていて構わない間に、暇な神威はの連れ子で今年で4歳になった東とかくれんぼをしていたらしい。



「姉御、どうしますか…」




 困った顔での副官をしている赤鬼が尋ねる。

 神威が東を探そうと思って引っぺがし、傷つけた場所に船の動力を中央に送り込む管があり、突然緊急停止したと報告があったのだ。船の中でも一番の強度を持って作られているはずなのに、何があったのか、敵襲かと慌てただったが、犯人が神威とあれば誰もが納得だ。





「ひとまず傷ついている場所を確認して。多分動かないと思うけど。どちらにしても近くで緊急着陸だわ。」




 は赤鬼に指示をして、腰に手を当ててもう一度神威を睨む。




「そんな怖い顔しないでよ。知らなかったんだよ。動力パイプなんて。」

「そういう問題じゃなくて、勝手に壊すんじゃない。」

「だってアズマが見つからないんだよ。」




 神威はまだ東が見つからないことが悔しくてたまらないらしい。いつものにこにこ顔が笑っていない。子ども相手に何をやっているのかあほらしいが、神威としては本気だろう。





「…ここまでしていないんだから、貴方の負けでしょ。」

「嫌だよ。」

「嫌だよじゃないよ。もうかくれんぼおしまい。これ以上船壊されたらたまらない。わたしは船と一緒に沈みたくないよ。東!どこにいるの?!」




 は声を張り上げた。ぐしゃぐしゃになっている格納庫の中でのよく通る高い声が反射して響き渡る。






「まま。」





 天井のダクトがぱかっと開いて、顔だけがひょこっと出てきた。




「…なんてところから。」




 は額を押さえる。4歳児がどうやって天井に上ったのかと思ったが、近くにあった段々ばしごの残骸を見て納得した。確かに太いそのはしごは4歳児でも登れるだろう。

 だが、普通はその年で天井裏に隠れようだなんて、そんなこと考えない。




「はがすなら天井だったのか。」




 神威は腕を組んで、納得したように一つ頷くから、はそのみぞおちに肘鉄を食らわせて、顎に手を当てる。




「はしご、持ってこないと。」




 天井は高いが、はしごは何を考えたのか神威が隔壁と一緒に取り外してしまってぐしゃぐしゃの残骸だけしか残っていない。そのため、東は完全に降りられなくなっていた。当然の身長では全く東が隠れている天井まで届かないので、助けられない。




「必要ないよ。」




 神威は準備運動をするように軽くはねてから、天井に向かって大きくジャンプすると、がしっと片手でうまくダクトの端っこを掴んでぶら下がった。




「おいで、アズマ。」




 もう片方の手で器用に神威は東の首根っこを掴んで抱くと、地面に下りて来た。




「むい。はんそく。」




 東はダクトの中からどうやら神威が東を探して壁をその怪力ではがしていくのを見ていたらしく、抗議するように神威の腕を叩く。




「反則なんてないよ。勝負事は勝ってなんぼだよ。おまえも男なんだから。」

「ぼく、かったも。」

が止めたから、引き分けだよ。」

「みつからなかった、から、ぼくのかち。」

「引き分けだよ。」





 大人げなく子どもに向かって真剣に言う神威を見ながら、はどちらが子どもか分からないなと小さく息を吐いた。





「…どっちでも良いけど、宇宙船の修理代はどうしてくれるんだ…」

が適当に誤魔化してくれるでしょ?」

「…宇宙生物が勝手に乗ってて暴れましたとでも報告するよ。」





 神威が壊したと言えば大事だ。どうせ原因を知っているのは阿伏兎とと、の副官と当事者たちだけなので、予算のためだと言えば口を噤んでくれるだろう。






「俺はアズマが怪我をしない安全な遊びを選んだつもりだよ。」




 いつもの感情の読めない笑みで、神威は一応言い訳を口にする。

 確かにかくれんぼならば無駄に走ることもないし、四歳児の東が怪我をすることもない。神威が東を見つけても、追いかけることがないので転ばない。

 だがあまりに飛行船への被害が甚大で、は閉口するしかなかった。



かくれんぼ