は読書家だ。

 日頃の馬鹿みたいな喧嘩が見せかけかと思うほどに、彼女は様々な言語、宗教、習慣、そしてジャンルの本を読む。神威にはさっぱり分からないし、本を読むことが楽しいとは思えない。まだゲームの方が理解できるという物だ。

 だが、たまにがそんなに必死になって読んでいるのが何なのか気になるときもある。





「何読んでるの?」




 神威はベッドで東とごろごろして遊んでいたが、椅子に座って本を読んでいるに目を向けて尋ねる。





「ソフォクレスという天人のオイディプス王って小説。」




 は短く答えたが、目線は小説のままで神威に目を向けない。

 地球人の癖に、は天人の文化や宗教に詳しく、天人の言語も沢山話す。だから天人の物語を読んでいても全くおかしくなかった。

 神威には正直表紙に書いてある文字すらも読めない。






「ふぅん。どんな話なの?」

「珍しいね。本の内容を聞くなんて。」

「暇つぶしだよ。アズマも退屈してきたよネ」

「たいくつ?」







 まだ2歳の東は退屈の意味が分からなかったらしいが、宇宙船の中ですることなんてそんなにない。神威とごろごろしているのは退屈だろう。夜ももう遅いので、テレビ番組も終わってしまっている。





「子どもが聞いて面白い話じゃないよ。ってか、父殺しの話だから、多分東にはわからないし。」





 東は父親という存在を理解していない。生まれたときから母であるしかいないからだろう。だから神威のことは“神威”としか認識していなかった。

 母しかいないのは事実だし、別に話す必要性がないので、父親について話したことはない。





「父親殺しねぇ。よくわかんないけど、殺しに来るのかなぁ。」





 神威は楽しそうに自分の腕の中にいる東を見つめる。

 彼は神威の実子ではないけれど、強いの息子である。そしてそのが選んだ男の息子だ。いつか神威がそうしたように、彼も神威を殺しに来るかも知れない。

 氏より育ちという。






「楽しみだね。」




 神威はにこにこ笑って、まだ小さくて黒い瞳をした無邪気な子どもを眺めた。







オイディプス