神威は根本的にドSだった。



「ほらほら、ちゃんと咥えてよ」




 彼のものに舌を這わせるの頭をぐっと掴んで、彼は容赦なく喉に深く自分のそれを押し込む。




「ぐっ、けほっ。」




 はうまく空気を吸うことが出来ず、むせるが、そんなことはお構いなし。が逃れようと手を使おうとするとそれを阻むようにの手を捕らえた。



「だーめ、」



 可愛らしく言ってみせるが、やっていることは相当酷い。



「っ、出す、よ。」



 僅かに声を荒げて、彼はの頭を押さえる。おかげで喉の奥に出されたそれには吐き気がして、すぐに枕元にあったティッシュをとろうとした。しかしそれすらも阻まれる。



「飲めよ。」

「くっ、ん、ぅ、」



 は渾身の思いで神威を睨むが、逆効果だったようで彼は楽しそうに笑っての顎を掴む。




「けほっ、」




 何とか飲み込んだが、気持ち悪さには思わず咳き込む。だがあまり咳き込むと今飲み込んだものまで出てきてしまいそうで、自分を落ち着けるように何度も唾を飲み込んだ。



「あはは、可愛いねぇ。」



 神威はの顎に伝い落ちた唾液と自分のそれを指で拭っての口に指ごと突っ込む。




「うっ、神っ」

「噛んだら怒るヨ。」

「ひどっ、」




 抗議の意味も含めては神威の腕を強く押すが、相変わらず彼はびくともしない。いつもにこにこしているが、こういう時の彼は心から楽しそうで、目も楽しそうに細められている。



「ベッドに上がりなよ。」



 床に敷かれたカーペットの上で座り込んでいたの腕を掴み、神威はベッドの腕に引き上げる。向かい合う体勢になり、が彼の青色の瞳をのぞき込むと、それはすぐに弧を描いた。



「エロいよね。いつもは澄ました顔してるのにさ、」



 の着物を脱がすのも面倒なのか、襦袢の足下だけをはだけさせて、神威はの秘部に手を触れる。軽く周りを撫でると、ぬるりと手が滑る感触がして、は頬を染めて顔をそらし、神威の肩に自分の頬を埋める。



「俺の舐めながら濡れてたんだ?想像してたの?」

「ち、ちがっ」

「嘘だぁ。すごい濡れてるよ?」



 神威は言って、の中に指を滑り込ませる。彼の言うとおり濡れていたのそこは、なんの抵抗もなく彼の指を受け入れた。



「ぁ、ひっ、うぅ、か、神威、」



 神威の指が性急にの中をほぐし、虐めるようにの感じる場所をかすめる。は膝だちになっているため、そのまま座り込んでしまいそうで、必死に神威の肩に頬を押しつけた。

 神威の背中に回した手に、勝手に力がこもる。



「あぁ、この体勢は顔が見えないから嫌だな。」

「わ、わたし、はっ、ん、良いっ、」



 は口から出てくる嬌声を押さえながら言う。

 顔を見られるのは恥ずかしい。だが神威はその答えが気に入らなかったらしく、の体をベッドに押し倒して、足を開かせた。



「やっ、やだ、神威っ、」



 この体勢では自分の恥ずかしいところも、顔も全部見られる。顔だけでも隠そうと近くにあった枕に伸ばした手を、神威に掴まれた。



「だめでしょ?ほら、」




 神威はの中をまた指でまさぐって、ついでに上の突起を親指で擦る。



「ひっ、ぅ、ぁあ、」



 はびくりと体を震わせて、その手から逃れようと身を捩った。体が痺れるような強い快楽に、頭が麻痺する。




「もう良いかな。入れるよ。」




 性急に神威は自分のそれを取り出して、の秘部にすりつけた。ぬるりとした感触は、が感じていることを示していて、恥ずかしさでどうしたら良いか分からず顔を背けると、顎を掴まれた。




「だめだって言ってるでしょ。顔見せてよ。」




 神威の澄んだ青い瞳が自分を映して細められる。何も知らないような無邪気な瞳は、乱れきったを映していて、いたたまれない。

 だがゆっくりと神威が中に入ってくれば、それを考える余裕もなくなる。




「ぁっ、んっ、」

「痛い?濡れてるけど。」

「ん、ちょ、と、ひゃっ、うぅ、」

「浅いところ気持ちよいでしょ?」 




 の中が十分にほぐれていないのが分かったのか、神威は浅く自分を入れてから、蜜を絡めるようにそこで小刻みに動く。




「はっ、ぁ、ん。」

「良い?」

「うぅ」





 尋ねられても素直に言うのは恥ずかしくて、は目を開けて神威を見た。




「その目、すごい良いね、」




 一体自分はどんな顔をしているのだろうか。彼は欲を煽られたのかにぃっと唇の端をつり上げて、一気に奥へと自分のものを差し入れた。




「ぁあ、うぅ、」




 それと同時に痺れるような衝撃と、僅かな痛み、そしてそれが気にならなくなるほどの快楽が体を満たす。




「ひっあぁ、」





 ぐりっと神威のそれがの奥を抉るので、は悲鳴を上げた。だがそんなをお構いなしに神威は自分の快楽を求めて激しく動く。

 神威はいつも自分本位だ。

 だからといってに快楽がないわけではない。ただ単に気遣ってくれないし、がイったとしても、自分がいくまでは止まらないし、やめない。だから気持ちよくて、苦しくて、痛くて、何が何だか分からなくなる。

 乱れて訳が分からなくなる自分が、恥ずかしくて情けなくて、快楽を追う自分が浅ましく彼のものを深くくわえ込むのを感じて泣きそうになる。




「っ、気持ち良い、」




 神威は顔に笑みを浮かべる余裕すらあるのに、には当然そんな余裕はあるわけもなく、ただ彼を見上げるしかない。




「うぅ、あ、か、」




 イきそうで、不安で、神威、と名前を呼んで、手を伸ばすと何となく意図を理解してくれたのか、優しく額にキスをしてくれた。だが動きは止めない。挙げ句の果てに敏感になっているの、陰核に神威は無遠慮に触れた。




「やっ、だぁっ!神威っ!」




 直接的すぎて痛いほどの快楽が頭を焼いて、目の前が真っ白になる。半狂乱になって止めようと、体を捩り、手で神威の肩を必死で押し返す。




「あはっ、…ほらほら、逃げるなよっ、」




 神威はの必死な様子を見下ろして、楽しそうに笑う。

 全くやめる気は無いようで、汗ばんだ神威の手が止めようとするの手を簡単にまとめてシーツの上に縫い止めた。



「うぅ、っ、イく、っ、怖いっ、」




 いつもとは違う、頭のすべてまでもって行かれそうな感覚に快楽よりも怖さが勝る。自分の意志と反してぼろぼろ涙がこぼれて、目にしみて痛い。だがそんなものは目の前に見えた快楽を誤魔化すものには全くならない。




「あ、んっ。俺も、」




 神威はもう一度、今度はの唇にキスを落として、にっこりと安心させるように笑った。それ以上に残酷な笑みを、は見たことがなかった。



ドS協奏曲
「あははは、潮吹くなんて、そんなに良かったの?」




 神威は楽しそうに笑ってを見下ろす。




「…うるさい。」




 はベッドに裸で横たわりながら、毛布にくるまって枕に顔を隠した。

 疲れと恥ずかしさと苛立ちがごちゃごちゃになって、どうして良いか分からない。あの後も潮を吹いたが面白かったのか、それとも泣きじゃくって逃げようとするが面白かったのか、まぁどちらにしても神威は散々を抱いた。

 おかげで時間はもう朝方で、たまたま昼に昼寝をしていたもあまりの強硬な肉体労働にぐったりだ。対して神威は色々すっきりしたのか、非常に清々しい表情で、裸のままベッドに座って笑っている。


 基本的に、神威は本能に忠実で、セックスも好きだ。

 ただ非常に気まぐれで、一週間まったく何も求めてこないときもあれば、三日ぐらい部屋にこもってやり倒すこともある。

 しかもとんだ絶倫で、一度始めると自分が満足するまでを離さない。

 夜兎の神威の体力は軽くを凌駕しているので、神威が満足する頃には日頃運動しているですらぐったりするほどだった。




「すねるなよ。」




 神威は黙っているの額に軽くデコピンを食らわせる。




「だって、」

「すごく良かったよ。」

「…嬉しくない。」

「あれれれ?本当に怒ってるの?気持ち良かったんでしょ。なら良いじゃない。」

「良いのかな。」

「お互い気持ち良ければ、それで良いじゃない。そのためにやってるんだから。」

「…」



 恥ずかしいというの気持ちも神威にとってはどうでも良いらしい。確かにセックスなんてそんなものかも知れないが、恥じらいは捨ててはいけないのではないかとはどうでも良い葛藤を心の中で繰り返した。




「こりゃ明日は休みだね。」




 神威は一つ欠伸をして、の隣に横たわる。はせめてもの抵抗で逆方向を向こうかと思ったが、すぐに神威の腕が自分の上に置かれてしまって出来なかった。

 とかれた神威のオレンジ色の髪がベッドに広がっている。



「わたしは休みだね。」



 流石に疲れているし、今から眠ったとしても、いつもの出勤時間に間に合わせるならば4,5時間しか眠ることが出来ない。

 疲れているは休む気だったし、仕事もそれ程多くないから、きっと阿伏兎がどうにかしてくれるだろう。勘の良い阿伏兎のことだから、理由もすぐに分かるはずだ。すっきりした神威が清々しい顔で歩いていれば。



「俺も休むー。」




 神威はを自分の方に抱き寄せて、子どものように主張した。困ったことに、彼はいつも困ったことによく逃げ出す。サボる。仕事は気が向かないとしない。




「もう、また?」

も休むんだし、俺もね。」

「不真面目だね。団長様。」

「団長なんてどうでも良いよ。」





 団長になっても、結局神威は神威で、全く変わっていない。昔と変わらずシンプルで、単純で、戦いが好きで、ぐだぐだ複雑なことを言わない。分からない。それが神威だ。

 が大人しく彼の腕の中でぼんやりまどろんでいると、神威はぽんぽんと子どもにするようにを毛布の上から軽く叩く。

 妹がいるという彼はたまにこうしてを寝かしつけるようなそぶりを見せることがあった。



「神威は宇宙に出る前は何をしてたの?」



 は疲れもあって、ゆっくりした声音で尋ねる。




「毎日雨の降る星で、ぼんやり生きてたよ。」




 雨ばかりの暗くて薄汚い、流れ者ばかりがいる街。そこで神威は父母と妹と一緒に暮らしていた。つまらない場所だった。ごろつきは皆弱く、妹を産んでから病弱な母、エイリアンハンターで家を長く空けることの多い父。

 妹だけが神威にとっての遊び相手だった。




「俺はね、親父を殺そうとして返り討ちにあったんだ。まぁ宇宙一のエイリアンハンターの腕一本とったのは結構やったなって思うよ。」

「…どうしようもない親子喧嘩だね。」

「だろ?殺し合い。でもそれが夜兎ってやつさ。」



 神威が明るく離すと、は少し複雑そうな顔をした。

 だが神威にとってはそんなの過去のことで、別に今こだわるべき内容ではない。というかどうでも良かった。いつか首を取りに行こうとは思っているが、父親を殺そうとしたことも、全部捨てて宇宙に出てきたことも、一切後悔していない。



「神威のお父さんかぁ、想像できないな。」

「顔は全然似てないよ。幸い俺も妹も美人だった母親に似たからね。」

「…もっと想像できないよ。」




 神威のような人間を育てた父親というのは、全く想像が出来ない。親と子どもは似ると言うし、夜兎ならばもしかすると怖い人物なのかも知れないが、やっぱり想像できそうになかった。



「そういやもお兄ちゃんいるんだっけ?」

「うん。本当の親は覚えていないな。お兄も覚えていないって言ってたし。先生に拾われた時、お兄はまだ幼子のわたしを抱えてたって。」




 は目を伏せて、昔を思い出す。

 気づいた時にはには兄が、小太郎や晋助が、そして義父がいた。自分に道を示してくれる松陽がいた。



「沢山与えて貰ったのに、全部なくしちゃったけど。」



 義父と松陽はすでにない。兄や小太郎、晋助がどうなったのかも知らない。坂本が小太郎と晋助は生きていると言っていたが、兄がどうなったのか、知らない。でもお互いに図太いから、生きてはいるだろう。

 今は二度と交わらぬであろう道をお互いに生きている。それはそれで、良いと思う。



「ふぅん、じゃあが賢いのは、その先生のおかげって訳だ。」

「まぁそうだね。」

「なら全部なくしたわけじゃないだろ。」




 神威はの癖毛をくしゃくしゃとなで回す。が目の前にいる彼を見やると、彼は穏やかに笑っていた。



「ん?これは慰められてるの?」

「さぁね。俺は陳腐な気休めは嫌いだよ。」

「知ってるよ。」 



 神威は事実としてに過去を尋ねることはあっても、だから今のを可哀想だと思うことも、同情を寄せることもない。

 今のがどうするか、どう生きるかしか興味がない。

 だからこそ、子持ちであり、攘夷戦争においては重要人物だったを、気に入った、の一言で手元に置いているのだ。



「どっちにしても、は俺のだしね。」



 神威はの首筋に顔を埋める。

 愛しているだなどと言い合ったことは金輪際ない。お互いに好ましいと思っているが、愛しているなんて感情、にも神威にもよく分からない。だからそんな言葉を言うことはない。

 だが、お互いを大切に思っているというその気持ちは本物だ。




「くすぐったいよ、神威。のいて」

「嫌だよ。」

「抱き枕にされたらつぶれちゃうよ。」

「潰したことは一度もないけどね。」




 神威はよくを抱き枕にして眠るが、まだ一度も寝ぼけて抱き潰したことはない。と言うのも一応神威にも怪力のコントロールという自覚はあるらしく、あまりの苦しさにが身じろぎすると、無意識ですぐに腕を緩めるのだ。

 でもたまに夜中に苦しさで目が覚めるのは本当だ。それでも神威と一緒に眠る自分は大層物好きだなとも小さく息を吐いて、神威の胸に顔を埋めた。


でもたまに優しい