帰ったら、恋人と継子が布団から出てこなくなっていた。
「何してんの二人で。」
布団をめくるとそこには銀髪と黒髪というあまり似てない親子のくせにそっくりの顔をした母子が、抱き合って丸くなって震えていた。
「か、神威、」
「む、むい。」
二人揃ってそっくりの漆黒の瞳を丸くして、神威を見ている。そのあほヅラまでそっくりで、神威は軽く首を傾げた。
「なんなの。」
そう言って尋ねると、が震える指でリビングの方を指さした。
そこにあるのは大きめのテレビ、ソファー、そして低いテーブルだった。いつもと変わらないリビングには、ぽんと一つDVDが置いてある。
「何これ。」
神威はリビングに行って、DVDを見やる。だがそれは団員が焼いて貸した物なのか、なんのタイトルも書いていない。中身はDVDコンポの中だ。
「ふぅん。」
神威はリモコンを手に取り、テレビに向ける。電源をつけ、再生ボタンを押した途端に出てきたのは、血まみれのおどろおどろしい女だった。
「……これって。」
最近リメイクされた、死霊のはら○ただ。昔のものは見れる程度のグロさだったが、この間リメイクされた物はあまりのグロテスクさに評価が分かれていたはずだ。
しかも当然18禁だ。
「。」
神威は二人でびびりまくって布団に隠れている自分の女の名前を呼ぶ。
ホラー映画の音声を聞いてか、トラウマになっていると東は同じように布団の中でがたがたと震えていた。
「、おまえ子どもに何見せてるの?」
べろんとと東が隠れている布団をめくって、に笑いかける。
「だ、だって、み、みたいって、」
「見たいってじゃないでしょ?。」
がしっと神威はの頬を掴んで、両手で挟む。
「え、えへ、えへへへ、」
「えへじゃないよ。子どもになんて物を見せてるの?」
「だ、だって、ひとりで見るの、怖いし。」
「じゃあ見るなよ。子どもを巻き込むな。」
「途中で止める予定だったんだけど、どうしても、東が見たいって。」
は流れるテレビの方をちらちら見て怯えながらも、言い訳をする。
「ちゅうまでみたら、みたいぃ!」
東も泣きながら主張した。
どうやら見だしたら東も気になって続きが見たくなり、18禁エリアまで行くことになったらしい。は基本的にごねられると弱いそういう点では駄目な母親だ。そのため東に見たいとごねられればあっさりそれを認めただろう。
は適当なので、見たいのなら見せたら良いかと思ったに違いない。
教育方針などと言う大それた考えはには全くないので、子どもをきちんとしつけたいタイプの神威とはよくぶつかる。とはいえ、教育方針はないので基本的に神威の言いなりなのだが。
「アズマ、おまえも我が儘は言わない。も18禁は子どもが18歳になってから。常識だよ。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさぁい…・・」
何に怯えて謝っているのか、ひとまずいつになく素直に謝罪を口にする東を見ながら、神威は大きなため息をつく。
「それにしても、おまえがホラー映画なんぞを怖がるとはね。」
日頃は澄ました顔で頭脳明晰、挙げ句腕っ節も強くて戦場においては男顔負けで阿鼻叫喚の光景を作り出すが、まさかホラー映画ごときを怖がっているとは誰も思わないだろう。
「む、昔から嫌いなんだもん。」
「嫌いなのに何で見ようと思ったんだよ。」
「途中まで団員が見ていて、わたしも気になっちゃったんだもん!」
「理論が3歳のアズマと一緒なんだけど?」
神威は内心呆れながらも、にこやかにの頬を思いっきり引っ張る。
「いたたたたただだだだだ、」
「今日はアズマは俺と一緒に寝て、にはソファーで一人で眠って貰おうか。」
「むいりりりいいいい、」
恐怖か痛みかどちらにしても漆黒の瞳に涙をためているを見て、神威はにっこりと笑った。その目が、笑っていなかった。
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