第七師団会計役兼参謀役であるの元には、多数のお悩み相談が寄せられていた。




「どうやったらもてるようになりますか。女性はどんな男性が好きなのでしょうか。だって、あはははは。」





 神威はが設置した目安箱に入っていた沢山の手紙の中の一枚を見ながら、思わず笑う。

 は一週間に一回目安箱の中に入っていた質問や困りごとに対して回答を発表している。目安箱は無記名可能なので、様々な意見が寄せられていた。





「真面目な質問だと思うけどな。だって、童貞だって書いてあるし。」

「ふぅん。これへの答えはなんて書くの?俺、興味あるな。」

「え?将来性がある男性が好きなのではないでしょうか、童貞を脱したいなら遊郭に行ってくださいって答える。」

「あはははは、確かにね。俺は将来性あるの?」

「うん。わたしがかつて見たことがない方面に、ね。」







 戦闘狂で、夢が海賊王にでもなろうかなんていう男は聞いたことが無い。挙げ句の果てに強い女が好きで、いつか自分に子どもを産ませた後で殺すと言う。そんな男はなかなかいないだろう。強いという点では将来性はある。かつてない方向に。





「そっかーじゃあ俺はが主張する女の好みにあってるって訳だ。」




 神威はの答えが満足だったらしく楽しそうに声を上げた。




「すごいじゃねぇか、この数。たった一週間だってのにな。」




 阿伏兎も沢山着ている質問などを見ながら、思わず嘆息する。だが一番すごいのはこれに律儀に一つずつ答えを返すだ。

 おかげで神威が第七師団の団長になってから、第七師団団員との関係は頗る良かった。





「あ、阿伏兎の髪の毛がうざいのでスポーツ刈りにした方が良いと思います、だって。」





 神威はぴらっと一枚の紙を取り出して、ケラケラと笑う。





「削って上げようか、頭。」

「おいおいおい、勘弁してくれよ。おまえさんじゃ、俺の髪じゃなくて頭が削れるわ。」

「神威、やってあげなよ。シラミが湧いたこともあるんだし、軽い頭をお持ちなんだから。半分ぐらい削れても大丈夫でしょう。」






 は辛らつな言葉を吐いて、沢山投稿されている紙を整理していく。

 沢山の質問や相談の他に、不満や文句も書かれている。時には隣の人間が他の師団と内通している可能性がある、など様々な意見が書かれている。他にも他の師団に行った時の愚痴や噂なども書いてある。

 それはにとって、団長である神威を守る上で重要な情報だった。





「わたしは人生相談受けられるほど立派な人間じゃないんだけどな。」





 ここまで相談が集まると、も苦笑してしまう。

 ろくでもない人生を歩んできたから地球で指名手配をして、若くして子どもまで産んで、宇宙海賊春雨なんかで働いているのだ。この第七師団の中では確かに賢いかもしれないが、そんな良い人生を歩んできてはいないからここにいる。





「そう?ある意味女だてらに地球で指名手配犯になっていながら子ども出産して抱えてても生きてるんだから、立派な人間じゃないの?」




 神威はどうでも良いとでも言うように軽い調子で言う。





「…立派って言うの?それ。」

「強いって証拠だろ。」







 神威にとっては強いと言うことの方が重要だ。強いことが立派であり、価値がある。

 は神威が知る腕っ節の強さも、恐ろしいほどの賢さという強さ、そして恐怖を押さえ込み、他者を凌駕する心の強さを持ち合わせている。

 神威にとって、それがあれば十分だ。





「確かにな。女だてらにそれだけ生き抜いてくるって事は人生成功してるとも言えるじゃねぇか。」





 阿伏兎もふむと一つ頷いて神威が寝転がっているソファーの反対側に腰掛ける。





「どうやったらどこでも生きていけるようになるのかねぇ。」

「どうやったらって、」





 確かには地球でも宇宙でも同じように生き抜いている。






「んー、なんでだろうね。運が良かった、からかなぁ。」

「運が良いだけでそんだけ男張りの波瀾万丈の人生を子どもつきで生き抜いてきたなら、余程強い座敷童がくっついてるんだろうね。」








 神威はの答えにけらけらと楽しそうに笑って見せる。






「半分は、お兄のおかげ、かな。」

「ふぅん。後の半分は?」

「…先生のおかげ、だよ。剣術も勉強も教えてくれたのは先生だし。」






 神威の質問には懐かしそうにその漆黒の瞳を細める。





「先生?おまえにも師匠がいたのか?そりゃ興味深いねぇ、おい。」





 阿伏兎はふむと一つ頷いてに話を促す。

 女に学はいらないと言われるにも時代だったにもかかわらず、女に剣術と勉強を教え込んだ師とやらがいるなら、さぞかし優秀な人物だったのだろう。






「そうだね。侍としての道も、心意気も、基本的なことは、全部教えて貰ったね。最後まで、守って貰ってばっかりだったけど。」







 最後まで、彼はを自分の教え子の一人として守ってくれた。兄や晋助、小太郎だってそうだ。はいつもは一人で生きていると思っていたけれど、実際にはいつも守られてばかりだった。

 それに、彼らから離れて初めて気がついた。





「要するに良い師に学べってことかよ。そりゃそりゃ難しい。」

「まぁでも地球の中ではほぼ全員指名手配犯だけどね」





 はころりと軽い調子で言って、笑い話にする。だが神威の目はの目じりが下がっていること見落としてはいなかった。

経験の代償