師のように優しくて穏やかな人になりたいと思っていた。だから彼がどう言ったかを思いだして、まねるのだ。でも、本当はいくら他人の相談に乗っても、優しい言葉をかけたとしても、きっと彼のようにはなれないと分かっていた。
「はたまに気味が悪いくらいに優しいよね。」
神威はその澄んだ青い瞳で見透かすようにに言う。
「そう、かな。」
「うん。人の相談を受けてる時のって、気持ち悪い。」
歯に衣着せぬ物言いはいつも通りだが、には思い当たる節がありすぎて、ぐさっと来る。
知識量のあるに、相談に来る団員はやはり多い。税金からぐれていたり厄介な家族への対処方法など相談内容は様々だがそれには大抵的確な答えを返すので、定評がある。それを元に第七師団を掌握した経緯もあるほど、は頼りにされていた。
だが、神威はが相談を受けるのが嫌いだ。
そのため彼が第七師団の団長になってからは情報収集の意味でも目安箱のような物を置いて、そこに投稿されている質問や相談に一週間に一度、答えを必要とする物に関しては回答を公表するという形をとっていた。
「なんでとか、どこがって聞かないんだね。」
神威はいつも通りの読めない笑顔でに言う。
要するに言外に自覚があるんだろう?と問うているのだ。まさにその通りで、は困ったように小首を傾げて目を伏せるしかなかった。
助言するときにいつも思い出すのは、かつての自分の師だ。
彼ならなんて言っただろうと、いつも思って助言をする。彼ならきっと相手のためを思って心からの助言をしていただろう。だがは結局の所その情報を利用する。それをよしとしない自分の心が確かにあって、辛い時もある。
だから、面と向かって相対するより、紙切れ一枚で回答する方が正直気が楽だった。
「たまに、自分の心にある言葉をくれた人みたいに、いつかそんな言葉を誰かにあげられる人になれたら良いのになって思うんだけど、出来ないなって思い知るから、かな。」
はよく分からない自分の素直な答えを彼に返していた。
松陽が残してくれた沢山の言葉は、今もに残り続けている。あの人のように、心に残る言葉を他人に言って上げられたらとたまに思うけれど、それを出来ないと知っている。何が望んでいる言葉なのか、よく分からない。
そんなことを考えながら相談を受けたり、助言したりしているから、神威に気持ち悪いなんて言われるんだろう。
そう思えばなんだか自分がおかしいような気がして、苦笑するしかなかった。
「は、誰にもなれないし、ならなくていいよ。」
神威はその青い瞳でをまっすぐ映しながら、なんの迷いも無く言う。
「俺はおまえが良いよ。」
あまりにも率直で、愚直で、なんのひねりもない。彼は深く考えていないだろうし、なんの飾りもない。だがその言葉は、何よりもを救う物だった。
己が言葉で