第七師団で節分が行われたのは、たまたまがそういう地球の文化を話したからだった。



「おりゃー!」



 豆を他人に元気に投げつける団員を見ながら、は軽く首を傾げる。

 既に食堂はカオスな状態で、口に巨大な恵方巻きをそのまま咥えている団員もいて、なかなかワイルドな光景だ。鬼役も作っていないが、鬼の姿をした天人の団員が豆を頻繁に投げつけられているのはご愛敬だろう。

 乱闘も基本的に宇宙船を破壊しない程度ならば、体力の有り余っている上、宇宙船の中で退屈で仕方がないとは思っている。

 ただは参加したくないので、食堂の端にあるソファーの上で座ってそれを見ていた。の膝の上に座っている息子はまだ大豆を食べられないので、代わりに柔らかい甘納豆を食べている。



「すげぇなおい。」



 阿伏兎はの隣にやってきて、近くのソファーに座る。



「うん。みんな食い意地はりすぎだよね。あなたもだけど。」



 は恵方巻きを咥えている阿伏兎を見て呆れた口調で言った。




「うるせぇよ。アズマ、おまえ何くってんだ?」

「なっとう、」

「良いもん食ってんじゃねぇか。おいちゃんにもくれよ。」

「いーや!」




 東は元気に言って、阿伏兎の申し出を拒否する。

 坂本からの贈り物で、10種類ほどの甘納豆が箱に詰まっている。大きな豆から小さな豆まで色も様々でなかなか高級品らしく木箱に入っているものだ。東としては阿伏兎にあげたくないのだろう。



「ちきしょー、団長に似て、食い意地張りやがって。」

「仕方ないよ。神威が育ててるみたいなものだから。」



 日中書類仕事ばかりで執務室にこもりきりのよりも、任務だけしか外に出ず、書類仕事は全くしない神威の方が時間があるため、最近東の面倒は神威が見ることが多かった。

 継子な訳だが、彼は東を普通につれて歩いている。

 流石に任務や人殺しに連れて行ったりはしないが、第七師団の母艦にいる限りは一緒に歩いていることが多かった。



「失礼だね。阿伏兎。」



 満面の笑みで神威がやってきて、阿伏兎に言う。腕にはいくつも恵方巻きを抱えている。さすがだ。



「聞いてたのかよ。」

「丸聞こえだよ。悪口は陰で言わないと殺しちゃうぞ。」

「陰でなら悪口言っても良いのかよ。」

「聞こえないなら言われてないも一緒だろ。アズマ、甘納豆頂戴。」

「ん。」



 神威なら良いのか、東は素直に一番大きな甘納豆を神威の手のひらにのせる。彼にとってこんな小さな菓子は砂粒ぐらいのものだろうが、神威も別段文句を言わなかった。



「おいおい、団長は良いのかよ。」

「むいはすき。」

「俺は嫌いなのか。」



 阿伏兎はあまりにあっさりと返す東に悪態をつく。神威はそんな阿伏兎など全く介さず、素知らぬ顔での隣に座った。



「みんな宇宙船の中じゃストレスたまるんだね。すごいはしゃぎよう。」

「これをはしゃぐって表現するもどうかと思うよ。」



 既に乱闘状態で、怪我人も出ている。先ほど医務室に運ばれた団員もいたが、生憎医務室勤務の業円も今日は乱闘に参加しているので、治療されるのはずっと後のことだろう。まぁ命に関わらないのでご愛敬だ。



「次の星に着くのはいつ?」

「明日、今回の任務場所はまだ4日かかるよ。」



 任務があればストレス発散にもなるが、任務地まではまだまだ長い。が第七師団で采配を任されるようになってから、団員のストレス解消のためにも任務の星まで時間がかかるときは、時間が許す限りは途中の星に降り立つことになっていた。

 団員のストレスが減れば、宇宙船を壊される可能性も減る。



「次の星は結構大きいところらしいじゃねぇか。」



 阿伏兎はぼんやりと団員たちを眺めながらに言う。



「俺、噂の闘技場とやらに行きたいんだけど。」




 その星は勝ち抜きの闘技場がある事で有名だ。それを神威も聞きつけたのだろう。




「んー調べとくよ。わたしは神威に賭けて一儲けしようかな。」



 夜兎とは言え、神威の見た目はひょろいただの男だ。屈強な男ばかりの中で、誰も彼に賭けようと思わないだろう。




「だからが好きだよ。」



 神威が笑ってを東ごと抱きしめる。

 神威とがどう考えているかはともかく、それがどういう意味のものであれ、互いに互いに対する好意を二人は隠そうとはしない。だから、こんな食堂でも抱きしめ合ったり、キスをしたりする.それを見れば、他の団員はを神威の女だと思って触れない。

 そんな可愛らしい感情で繋がっている訳ではないが、それを知っているのは阿伏兎ぐらいだ。




「のろけですか、こんちくしょー。独り身には辛いぜ。」



 阿伏兎は目じりを押さえていう。

 恋愛感情など二人とも全く分かっていないだろう。それでも少なくとも事情を知る阿伏兎から見ても、なかなか目に痛いカップルだった。

豆まき花巻