バレンタインデーなので、巨大なチョコレートケーキを焼くことにした。
「まま、なにこれ。」
「大丈夫。東の分は小さいから。」
じぃっとのケーキ作りを観察していた息子の東は、あまりに巨大な、オーブンに入るぎりぎりのサイズのスポンジ型に目をぱちくりさせる。
現在はチョコレートのスポンジを量産中だ。
生憎第七師団にはほとんど女はおらず、いたとしても料理が出来るような団員はだけ。女に縁の無い物が多いので、気の毒に思ってがバレンタインデーの義理チョコと言う名のスポンジケーキをあげようと思ったのだ。
ちなみに本命である神威のケーキは巨大にするつもりだ。
「くりーむおおい?」
「多くないない。だってこのサイズだよ?」
腕の長さサイズのケーキである。クリームも大量にいるし、間に挟む果物もがっつり多い。団員向けのケーキはただのガトーショコラだが、本命の神威に対してサイズだけ違って内容が同じというのも良くないので、ひとまず頑張るつもりだ。
ちなみに息子の東にも小さいサイズの生チョコケーキをあげようと思っていたのだが、本人が一緒に作りたいと言い出したので今一緒に作っている。
ボールにある大量の白、緑の3色のクリームのうち、緑の方を一番最初の段に塗っていく。
「みどりー。」
「抹茶だよ。」
綺麗に生クリームをのせてから、その上に果物を綺麗に並べていく。それは子どもでも出来る暗いにそれ程難しい作業ではない。だが一応性格なので、きちんと円形にイチゴを並べ、また生クリームを塗ってからもう一段スポンジ重ねる。
「なんこ?」
何段?と聞きたいらしい。
「三段にするよ。」
は息子に言って順調にクリームと果物、スポンジを重ねていく。最後に白いクリームを一気にかぶせて綺麗に整え、果物を並べて完成だ。
「うん。なかなか?」
「うん。まま。」
どうやら東も一応完成させたらしい。なかなかのできばえに頷いていると、ふと東の前に3つのケーキがあるのに気づいた。
「何それ。あれ?」
どうやらが義理チョコ用に作ったもののいくつかをとったらしい。
「なんで3つ?」
「ままと、あずまと、むいのー。」
小さな指でそれぞれを示して言う。一番大きいのを自分のと言っているところが食い意地が張っているなとは我が息子ながら感動した。
育ての親が神威だからだろうか。
「どけよ。邪魔だな。」
落ち着いた神威の声音と対照的に、爆音を立てて厨房の扉が吹っ飛ぶ。それと同時に扉に負けず劣らずひしゃげた団員たちが厨房になだれ込んできた。
「おまえら何してるの?厨房の入り口なんかにたかってさ。鬱陶しいなぁ。」
神威は倒れ伏している面々を遠慮なく踏んで厨房の中に入ってくる。
どうやら厨房を借り切っているたちの様子を、バレンタインデーだと言うこともあり団員たちは気になって見ていたらしい。
「あれ??」
「あ、ちょうど良かった。バレンタインのケーキを作ってたんだ。」
「バレンタイン?」
神威はきょとんと首を傾げる。
「あれ?知らないの?」
バレンタインはもしかすると地球の文化なのかも知れないと今更気づいたは、軽く小首を傾げる。
「えっとね、バレンタインデーって言うのは好きな人にチョコレートをあげるイベントだよ。」
「これ、ケーキじゃないの。」
「だって、大きい方が良いでしょう?」
「まぁそうだけどさ。は随分と沢山好きな人がいるんだね。」
神威はずらっと並んでいるケーキを見て少し不満そうな顔をする。
「いや、最近はね、本命とは別に義理チョコって言ってお世話になっている人にも渡すんだよ。神威のはこの一番大きいの。」
「そうなんだ。ふぅん。食べて良いの?」
「良いけど、じゃあ今から切るね。」
は笑って、電気ケトルのボタンを押してお茶を沸かしてから、大きなケーキを切っていく。まぁ彼のことだから、これくらいのケーキはあっという間に平らげるだろう。
「もうラッピング面倒かな。」
神威のケーキと東が作った3つのケーキを確保してから、は呆然と見ている団員たちを見て腰に手を当てる。
「みんな1つずつ、もって行って良いよ。」
「まじっすか!」
「さん!ありがとうございます!!」
団員たちは口々に言って、が作ったケーキに手を伸ばした
バレンタイン