頬に伝う血が気持ち悪くて、は自分の着物の袖で拭う。袴にも血がしみこんでいて、足取りがひどく重たい。だが怯むことなく一歩を踏み出し、刀を振るう。目の前にいた巨大な身体の天人を人たちで切り捨て、は息を吐いた。




「なんだっけ、」




 足下に倒れ伏した頭がオオカミの天人にとどめを刺してから、あたりを見回す。立っている団員はそれほど多くはない。今回はかなり厳しい戦いとなったため、随分と団員も死んだ。




「姉御、無事っすか!?」




 部下の青鬼と赤鬼が慌てた様子での元にやってこようとする。ある程度敵が片付いて、しかも上司であるが見つかって、ほっとしたのだろう。だがそれは全て、油断であり、油断は隙だ。敵につけいる隙を与える。

 彼らのその横をの刃が通った。




「え、」




 彼らの後ろにいたオオカミの天人が血をまき散らして倒れ伏す。




「あ、姉御、」




 赤鬼と青鬼は声を震わせた。それは先ほどの警戒と、敵に対する恐怖を思い出したからだろう。



「まだ留めさせてない敵もいるんだから、周りに気をつけなさい!」




 は刀の血を払って、自分の部下に言う。

 生き残っている団員は何人かいるが、同時に死んでいない敵もいる。一矢報いようと最期のあがきで刃を突き当てる敵もいるだろう。




「は、はい!!!!」




 赤鬼と青鬼はそろって背筋を正し、背中合わせになって途端に周りを警戒する。はそれを確認して刀の血を布で拭いた。




「優しいねー庇ったげるなんて、」




 手を真っ赤に染めて、神威はにこにこ笑いながらやってくる。ついでに足下にいたまだ生きている奴らを踏みつぶしている神威を見て、は肩をすくめた。




「真っ赤ね。」

「お互い様だね」



 神威は真っ赤に染まった手で楽しそうにに手を伸ばしてくる。素手で殺すため、彼はの着物に血がつくのも構わず、首に手を回してのフードのついた羽織で手を拭う。




「ちょっと、汚れるでしょ。」

「あははは、でも、血があると手を繋ぐの嫌でしょ?」

「そうでもないよ。」



 は迷わず神威の手に自分の手を重ねる。べたりとした感触がするが、指を絡めてしまえば別に気にならない。刀だったとしても素手だったとしても、互いの手が同じように血にまみれていることに変わりはない。

 血に汚れた手が繋がれる場所なんて、限られているのだから。




指を絡める