追試で一緒になったのは、最近会った影の薄いバスケ好きの少年にそっくりな少女だった。

 よくよく思い出してみるとバスケ部で活動している時に、視界の端にとらえることはあったが、マネージャーでもなくおっかけでもなく、ただバスケ部員と話しているだけ、監督と会話しているだけだったので、何故か気にとめなかった。

 だが、目にとまるとやはりすごく気になる。

 少し雰囲気が薄いというか、儚げというのかよくわからないが、大きくて丸い瞳とか、そつなく整っていて可愛らしい顔立ちとか、よく似ている。色素の薄い、長い髪がさらりと揺れて、自分が彼女を見ているのに気づくと、彼女は青い顔をして頬を引きつらせた。

 あまりにガン見しすぎたらしい。そういうときの鋭い表情がやくざばりに人相が悪いと言い出したのは、腐れ縁の幼馴染みだったかもしれない。おかげで結果的に彼女は青い顔で追試の間中こちらを視界に入れたくないとでも言うようにじっと本を睨み、それを良いことに、時間中問題も解かずにずっと彼女を見続けていた。


 追試が終わったら話しかけてみよう。


 そう思っていたが、彼女に話しかける前に、がらりと扉を開けてやってきた黒子テツヤがこちらに話しかけてきた。




「あれ?いつも通り追試なんですか?」





 彼はこちらに何とも言えない無感情な瞳を向けると、酷く目尻を下げて、嫌みともとれる言葉をあっさりと言った。





「うるせぇよ!」





 バスケの才能に反して、成績は確かにきわめて悪い。いつも赤点と追試を繰り返しているような状態で、幼馴染みのさつきのノートを借りてはいるが、赤点を免れる確率は五分五分と言ったところだった。

 勢いのまま怒鳴りつけても、黒子はあまりぴんとこなかったのか、軽く首を傾げてから、気にした様子もなく、とある少女に目を向けた。

 それは先ほどまで、ガン見してしまった、黒子によく似た少女だ。




「貴方までまさか追試なんて災難でしたね。」






 黒子は当たり前のように彼女の荷物を持ってやると、柔らかに笑う。




「そもそもテストが受けられなかったからですよ。」





 少女はのんびりとした口調で返す。

 何やらふんわりとした空気がそっくりで、それでいて感情の行き来がよくわからないのも似ている。黒子がいつも存在感が薄いのは普通だが、何やら彼女も柔らかいのも薄い。同じような空気を持っている人間が二人もいると、なんだか不思議だ。




「そいつ、誰なんだよ。」




 小柄な少女を指さして、黒子に尋ねる。




「あ、」




 少女はびくっと肩を震わせて、黒子の後ろに隠れる。黒子よりも背が一回り小さいのでそうすれば少女は簡単に隠れてしまい、影が薄いのもあって気配すら感じられない。





「どうしたんですか?」

「・・・その人、ずっと追試の間中こっちを睨んでいて、怖かったんです。」





 こそっと彼女が耳打ちをするが、部屋にはすでに三人しかいないため丸聞こえだ。むかついてぎろりと睨み付けると、彼女は「ひっ、」と怯えた声を上げて今度こそ視界から消えた。見えるのは黒子だけだ。





「あぁ、この人は強面で乱暴そうに見えますけど、怖い人ではないです。」

「おいおい、全然フォローになってねぇぞ?」





 不満を口にするが、何故か黒子は楽しそうに笑う。




「前にもお話ししましたよね。。」




 少女が黒子の顔を窺うように僅かに彼の肩から顔を出す。その不思議な色合いの瞳は黒子に促されるように、こちらに向けられる。




「彼が青峰くんですよ。」




 少女の不思議な色合いの瞳が、青峰をまっすぐとらえる。

 ただ人の本質を静かに写す、無邪気で美しい彼女の薄い青色の瞳が彼女は世界で一番好きで、同時に世界で一番憎んだものでもあった。





双月に焦がれる太陽