高校で離れたはずの黄瀬涼太と会ったのは、偶然であり必然だった。

 双子の兄と同じ誠凛高校に入学したは、兄と同じくバスケ部に入り、基本的にマネージャー業務に携わることになった。とはいえ身体が弱いのですべて出来るわけではなく、部員たちに手伝ってもらいながらだ。

 黄瀬が兄の黒子テツヤを訪れた時、は席を外していたが、校門近くでバッタリと会うことになった。




っち〜、相変わらずちっこくって可愛いっスね!」





 突然抱きついてきた彼は、人なつっこい笑顔で言う。身体が弱く、入院もしていたので成長が遅いのは仕方がないが、中学高校とあまり身長の伸びなかったは内心で少しかちんときた。

 中学時代から、何故かは黄瀬に懐かれていた。彼がバスケ部に入ってきたのは2年生からだったが、その頃は帝光中学のバスケ部で選手向けのカウンセラーをしていた。部員の多くは悩みを打ち明けにの元を訪れていたが、彼は楽しい話をいつもに持ってきていた。




「いや〜ちっちゃいのにふくよかな胸!理想的っすよ!」

「全然嬉しくないです。」





 身長が伸びる力を胸にとられたのかと言うほど、は胸だけは大きかった。太っているわけでもないのに、Gカップの胸は若干コンプレックスで、そこをして来されたは黄瀬の頬を思いっきり引っ張った。




「痛い!痛いっスよ〜」




 黄瀬は大げさに泣きまねをして、もう一度思いっきりに抱きつく。




「ねー、っちだけでもうち来ない?カウンセラーとか出来るし、なんかっち見てると冷静になれるんっすよね!ピアノもすごいし、」

「わたしをそんな風に評価してくれて嬉しいです。丁重にお断りします。」

「前と後ろ違うくない!?」




 彼は傷ついた顔をして見せたがある程度予想していたのだろう。仕方ないとでも言うように息を吐いて身体を離した。まっすぐ立てば彼の身長はなどより遙かに大きい。なのに肩をすくめる姿は酷く小さく見えた。




「黒子っちにもふられちゃったんっすよね〜」





 声が泣いているように聞こえて、はじっと彼を見る。

 双子の兄のテツヤが何を求めてここに来たのか、それは自分も同じであるため明確ではないが、理解しているつもりだ。それが勝利だけを求めている黄瀬にはわからないのかもしれない。でも彼にも何か足りていないことはわかっているはずだ。





「テツにふられちゃったんですか?」

「そうなんっすよ。」





 少し傷ついているらしい。そう笑う声は笑っているようには聞こえなかった。は少し背伸びをしてぽんっと高くなってしまった頭を撫でてやる。




「そんなに焦らなくても黄瀬くんは強いですよ。」 





 彼が焦る理由はわかっている。

 他のキセキの世代とは経験という点で力の差がある。だからこそ、不確定要素であるの兄・黒子テツヤをチームに入れて補いたいと考えたのだろう。でも彼はその成長の早さが売りだ。それに、彼はおそらく、キセキの世代の中で一番大切な物を持っている。




「黄瀬くんはひとりじゃないし、一生懸命やってる。誰にも劣ってないですよ。」




 言うと、黄瀬はきょとんとした顔をしたが、目尻を下げて何とも言えない表情で笑って見せた。





「なーんか、いっつもっちはお見通しっすね。」





 身体が弱く、ほとんど学校に来れなかった彼女が、何故すぐにバスケ部に招き入れられたのか。それは部員のメンタル面でのケアが非常にうまかったからだ。





「不思議なんっすよねー。っちって、無性にいつでも会いたくなるって言うか。」





 最初は兄のテツヤについて、バスケ部の面々の話を聞いているだけだったのが、彼女の他人の緊張を和ませ、うまく回す能力を赤司が見抜き、カウンセラーとして試合につけるようになったのだ。とはいえ、全中の前のすさみっぷりはすでに彼女の手を出せる範囲を超えていたが、それでも何とか集まっていたのは、彼女の人望によるところもあった。

 全中が終わると同時に彼女が来なくなると、完全に瓦解したが。




「まさかっちが誠凛に行くとはねぇー。てっきり桐皇か、赤司っちについて洛山かと思ってたッスよ。」






 多分、誰もがさつきが黒子について誠凛へ、が青峰について桐皇に行くだろうと思っていた。また成績が良かったので赤司のいる洛山も考えられた。だが結果的に彼女は双子の兄と同じ誠凛を選んだ。





「約束してたんでしょ?それとも別れたんっすか?」







 黄瀬は少し躊躇いながらも、素直に尋ねた。それはが傷つかないように、相当気を遣いながらも、気になるといった様子で、怒ることも出来ずは目尻を下げた。




「別れた・・・んだと、思う、」




 はそれを絞り出すように口にした。でもそれだけで十分気持ちが伝わったのだろう。




「ごめん。そんな顔させるつもりはなかったんっすよ。」






 黄瀬はの表情を窺うようにのぞき込んで、を抱きしめる。その温もりが酷く心にしみて、泣く代わりには苦笑した。






ひまわりと月