電話を受けた黒子テツヤが双子の妹を迎えに保健室に行くと、そこにはかつてのチームメイトが二人もいた。
「あれ?黄瀬君に青峰君?なんでこんなところにいるんですか?が倒れたって・・・」
「そいつの腹筋に当たって気絶した。」
青峰は実に端的な答えを返す。黒子が黄瀬に目を向けると、彼は泣きそうな顔をしていた。
「ご、ごめんっ!本当に!なんかっちが突然出てきて、俺受け止められなくて!」
焦っている彼の説明ですべてを理解することは出来なかったが、要するに妹は黄瀬にぶつかって倒れたらしい。それを黄瀬は随分と気に負っているのだ。昔からなんだかんだ言っても黄瀬とは仲が良く、の身体の弱さも黄瀬は承知だ。何かあるかもしれないと心配しているのだろう。
「なんで、吹っ飛ぶような速度で、走ってたんでしょうね。」
口元に手を当てて、黒子はじっと青峰を見る。
「さ、さぁな。」
青峰は気づかぬうちに彼から目をそらした。黒子は理解して小さく眉を寄せたが、それを明るい声が遮った。
「あははは、大丈夫よ。コンクリート激突も青峰君が防いでくれたらしいし、軽い脳しんとうよ。心配しすぎだわ。」
美人で有名な保険医が真っ青な顔をしている黄瀬の頭を軽く叩いて、笑う。
「?大丈夫ですか?」
黄瀬に声をかける前に、黒子は双子の妹が横たわっているベッドに腰をかけた。少し硬い表情をしているのは、青峰がいるからだろう。ただ体調はそれほど悪いわけではないらしく、黒子は柔らかく笑って妹の額を撫でた。
「起き上がれます?」
「はい。」
「じゃあ家に帰りましょうか。」
の答えを待って、背中に手を当て彼女が起き上がるのを助ける。それは幼い頃からいつもだった。
健康だが、平均的にしか何も出来なかった黒子と違い、彼女はたぐいまれなる才能があった。でも身体が弱くて何も出来なかった。どちらも何かが欠けている。だからこそ支え合うことが当然だった。自分に足りない物を埋めるように。
「うん。」
ほっと安堵した表情で、は黒子の手に自分の手を重ねる。
「本当に良かったですよ。でもぶつかって吹っ飛ぶほど走るのは駄目ですよ。」
は元々激しい運動が出来ず、呼吸器官系に負担がかかるので禁止されている。病気が一応治ったと言っても肺がそもそも小さいのだ。激しい運動には耐えられない。
「鞄はどうしたんですか?」
「あ、まだ部室です。」
「とってきましょうか?」
黒子は妹を心配して目尻を下げる。だがは首を横に振った。
「いいえ、自分で取りに行けます。」
「俺ついて行くっスよ!一応俺のせいだし!!」
責任を感じてか、黄瀬が慌てた様子で手を上げる。
「でも、悪いです。」
「でも俺のせいでもあるっスよ。」
起き上がったに上履きを差し出した。絶対に黄瀬はと一緒に行くつもりらしい。黒子は少し考えたが、青峰の様子をちらりと見て、小さく息をつく。
「じゃあ、僕は待ってます。黄瀬君、お願いしますね。」
「ん。お願いされるっス!行こう!」
黄瀬は問答無用での手を引く。彼女は少しほっとしたのか、笑みを見せて彼の手を握り返した。
「気をつけるんですよ。」
黒子は妹の背中を軽く叩いて送り出す。
二卵性の双子、しかも男女だが、元々黒子自体もあまり体格の大きい方ではない。妹のはなおさらで、幼い頃から身体が弱かったこともあって華奢で小柄だ。激しい運動も出来ないから、楽しそうにバスケをする黒子を見て彼女はいつも嬉しそうに笑っていた。
誰よりも人の感情の機微を理解できる妹が選んだのは、やんちゃだったが何よりもバスケが好きで、楽しそうにプレイをする青峰だった。無茶ばかりする人だと言いながらも、はいつも彼を目で追っていた。彼を選んだ理由は、どこかで黒子と同じだったのかもしれない。
それでも思ってしまう。何故彼だったんだろう。彼でなければならなかったのだろう、と。
憂月