全中が終わってから、黒子哲也に会うのも随分と久しぶりだったが、何よりもと一緒に黄瀬に鞄を取りに行かせたことの方が青峰にとっては不快だった。





「ちっ、」






 舌打ちをしても、この不快感は消えない。それが嫉妬という感情だと言うことも青峰は重々承知だったが、それでも不快感を隠すことが出来なかった。元々黄瀬が異常なほどに懐いていたこともわかっているからなおさらだ。




 ――――――――――――ごめんなさい。ついていけない。別れましょう。





 あの夜言われたことを、青峰は覚えている。

 そのときの絶望と衝撃はたまらず、どうすれば良いかわからなかった。自分がパスを必要としなくなって、仲間と呼べる人間は存在しなくなった。それと同時に彼女が嬉しそうに笑って自分を見ていたその目すらも、失われていった。

 弱くなることが出来ず、仲間を取り戻すことは出来ない。そして同時に、彼女の優しい表情も笑い声も、求めれば求めるほど遠ざかっていった。

 そしてあの夜の拒絶を受け入れられるほど、青峰の心は余裕がなかった。


 何故自分のこの鬱屈とした気持ちを理解してくれないのかと苛立ちを覚えると同時に、別れを切り出した彼女を憎みすらもした。特別になりたいと思いながらも、万人に優しく、カウンセラーとしていつものように優しく受け入れてくれる都合の良い彼女を求めた。






「・・・青峰くん、に何をしたんですか?」








 黒子が射貫くような冷たい目を青峰に向ける。




「何が、だよ。」

「あの日、赤司君があのことを送ってきてくれました。」

「じゃあ赤司がなんかしたんじゃねぇの?」





 青峰は誤魔化すようにそう言った。

 あの夜、自分のしたこととどうにもならない感情に狼狽し、困惑し、あの場から逃げ出した青峰は、ひたすら泣きじゃくっていた彼女があの後どうなったのかは知らなかった。多分赤司が見つけて、どうにか宥めて家まで送り届けたのだろう。





「そんなこと、ないでしょう。あの子は髪もばっさり切って、青峰くんに連絡もしなくなった。」





 青峰はなんだかんだ言っても、部活をサボるようになっても、律儀にには連絡を入れていたし、もその答えを返していた。それを黒子も横目で常に見ていた。だが、それもあの日からぱたりとなくなった。


 すべてはあの日から。桐皇に行かず、黒子と同じ誠凛を受けると言い出したのにも驚いた。





「俺は、連絡は入れてたさ。」





 青峰は越しに手を当ててため息をつく。

 あの日の後も、青峰は頻繁に連絡をしていた。だがまさに音信不通の状態で、連絡先を変えたのかと思ったほどだ。桃井に聞けばメールも電話も返ってくると言うが、彼女からの返事は一度もなく、電話は青峰だとわかった途端にすぐ切られた。

 直接会って謝りたかった。なのに、彼女は連絡すらくれず、逃げるだけだった。




「・・・酷いこと、したんですね。青峰くん。」






 彼女と同じ無邪気で、真実を写す水色の瞳が青峰を射貫く。





「んなこと、しってら。」





 青峰は自嘲気味に笑った。

 自分の欲望と感情にまかせて、酷いことをした。徐々に彼女の心が離れていくのを感じて、どんな方法でも良い、彼女を自分のものにしておきたかった。だから1年もつきあって、大切にしていた彼女から、すべてを奪った。

 自分で、大切にしていたものを壊したのだ。





「それでも俺はあいつを手放すつもりはねぇんだよ。」







 もう自分には何も残っていない。だから、どんな方法を持って繋ぎ止める。それが例えそこにこだわる以外の方法を、すでに青峰は放棄していた。






転がる月を追う太陽