勉強をしている黒子と黄瀬涼太が、青峰大輝と桃井さつきにばったり会ったのは、まさに偶然だった。





「あっれー!ってば久しぶりじゃない!なんで連絡してくれないの?!デート!?」

「ちょっ!桃っちぃ!?」





 それが完全に禁句だったことに黄瀬に止められて気づいた桃井は、顔色を変えて隣に立っている青峰を見る。彼は完全に負のオーラを背負って黄瀬とを睨んでいたし、は椅子に座ったまま俯いてシャープペンシルを握りしめていた。





「あ、あはは、勉強教えてもらってるんっスよ。」





 黄瀬は何の関係性もないとでも言うように軽薄そのものに返して、山のような教科書を叩いてみせる。





「あ、あっそっかー、。赤司君に続いて勉強できたもんね。」





 桃井は慌てて黄瀬の話に無理矢理乗った。






は今回何番だったの?」

「え、え、う、うん。中間は学年で一番だったんですよ。」






 は青峰が現れたことへの動揺を隠しきれないのか、うわずった声で答える。

 赤司が中学時代は常に学年トップの成績だったが、高校になれば別々のためは一番をとることが出来た。とはいえ、頭が良いのは中学時代も一緒で、赤司に勝てたことこそないが、何度か赤司と同じ点数になったことがあった。

 同じ男の緑間は素っ気なく、ものを教えるには向かないので、黄瀬がいつも頼るのはだった。





「そっかぁ、テツ君はどうだったの?」

「・・・真ん中でしたよ。良くも悪くもなくです。」

「そっかー、テツ君は変わらないなぁ。」




 桃井は懐かしそうに目を細めて笑うが、を見て少しむっとした顔になる。




「もー、ったら卒業してからまったく会ってくれないし!心配してたんだよ?また体調を崩したんじゃないかって。」

「ごめんなさい。」




 は桃井の言葉に申し訳なさそうに目尻を下げた。

 卒業してから、は桃井と会わなくなった。メールや電話こそしていたが、青峰と会うのを避けては桃井と会わなくなった。それを心配してくれていたのなら、申し訳ないことをしただろう。

 桃井もが何故自分を避けていたのか、理由はわかっているので強く出ることが出来ず、取り直すように小さく息を吐くことしか出来なかった。




「おい、おまえちょっと顔貸せ。」




 青峰はぐいっとの腕を容赦なく掴んだ。突然のことには驚いて彼の顔を見上げていたが、びくりと肩を震わせる。手が勝手に小刻みに震えていた。




「この間も言ったろ。なんもする気はねぇよ。話がしてぇだけだ。」





 青峰は言ったが、は動かず。答えない。青峰はその様子に苛立ちを覚えると同時に、明らかに怯えている彼女の様子にやはり狼狽える。

 それでも、ここで黙って帰ることなどできっこなかった。




「おまえ、黄瀬と何やってんだよ。俺は別れるなんて、納得してねぇぞ。」




 確かにあの夜、彼女に酷いことをしたのはわかっている。バスケが好きで、だから懸命に自分たちを支えていた彼女の虚勢を彼女の親友への冒涜という形で戯れに叩きつぶした。感情という面で自分たちを支えていた彼女に、自分が与えたのは肉体的なまさに暴力だった。

 それでも、そのきっかけを作ったのは、彼女の言葉だ。




 ―――――――――――――ごめんなさい。ついていけない。別れましょう。




 彼女を好きで、大切に思う気持ちは、バスケとは別の話だった。だが、全中の最後の試合を見た彼女は青峰の人格すらも疑ったのだ。信じられなくなったのだ。それが裏切りのような気がして、青峰は許せなかった。

 それに、離れていく彼女をどうやって繋ぎ止めたら良いのか、わからなかった。




「・・・わ、わたしは、貴方なんて見たくないです。もう。」



 カウンセラーと言えば聞こえは良いが、人の一番辛いことを聞くのだ。簡単な仕事ではない。でも、それが彼らのためになるから、そう思うから踏ん張って、背中を押し続けた。それは青峰に対しても同じだった。

 だからこそ、あんなものを、あんなチームを守るために、そしてあんな青峰にするために、皆を支えたのではなかった。

 こんな彼を見るために、一緒にいたいと思ったのではなかった。

 だからこそ、そのなれの果てを見るのが、目の当たりにするのが、は嫌だったのだ。




月からの拒絶