のことが好きだった。

 ふわふわ浮いたような空気。自分とは全く違う色合いの長い髪。双子の兄に似た小作りな顔立ちと、丸い瞳。病弱故に小柄な体躯、細い手足とそれに不釣り合いなふくよかな胸。そして控えめながらも人の話を聞き、人を和ませてくれる優しい性格。

 どんな力のない部員であっても、3軍であっても彼女は話を聞き、心を前向きにする。


 誰に対しても真摯に対応する彼女が、気づけば好きだった。


 初めての経験だったため、青峰もどうやって自分の感情を表現すれば良いのかわからず、彼女に意地悪を言ったり、ちょっかいを出したりして逃げられてばかりだった。それでも仲良くなれたのは、青峰の相棒である黒子テツヤが彼女の双子の兄だったからだ。


 告白を受けてくれたのが、今でも何故だったのかはわからない。

 プライベートでも彼女は性格的に優しいが、少し自虐的で、感受性が強くて映画などでは予告編ですらもぼろぼろ泣く。それに驚かされたりもしたけれど、柔らかくて優しいその性格が一緒にいてやはり楽しかった。


 彼女が壊れ始めたのは、チームが壊れ始めたのと同時期だった。


 勝つためになんとかメンタルを守ってきた彼女は、もうキセキの世代のメンタルを勝利以外のどこに持って行けば良いのか、途方に暮れていた。

 正直、青峰も辛かったが、多分彼女も限界だった。どんどん元気がなくなって、楽しそうに見守っていた練習を悲しそうな目で見るようになっていた。試合への執着などすでに失って久しく、正直全中が終われば彼女の悲しそうな顔を見なくてすむから、早く終わってくれれば良いなとすらも思っていた。


 だが最後の試合が青峰とに決別を突きつけた。


 遊びほうけて1で並べた試合。その時のチームに昔の黒子と、彼女の友人が混じっていたと聞いたのは、随分と後のことだった。彼女は真っ青な顔をして、泣くことも出来ず呆然とした面持ちでベンチに座っていた。

 すべての勇気も、決心も踏みにじられたかつての友人を、ただその丸い瞳で見ていた。

 どうしてそんなことをしたのかと、疑問を投げかけてきた彼女と黒子に、確かに全員が冷たい言葉を投げかけた。強者が遊んで何が悪いと。彼女は座る黒子の隣でうつむき、声もなく泣いていた。彼女がカウンセラーとして接していた部員に見せた、初めての涙だった。





「ごめんなさい。ついていけない。別れましょう。」




 悲しそうな顔でがそう言い出したのは、その夜だった。思い詰めたようなその丸い瞳には、迷いはなかった。決然としたその色合いは、冗談などではなく真剣に自分との別れを望んでいて、それはもう取り返しのつかないものだと理解できた。




「ふ、ふざけたこと言うんじゃねぇよ。」




 青峰は彼女に声を荒げた。

 自分でも声が震えたのがわかった。何をしていても、バスケと彼女は関係ない。彼女を大切にしているのだから問題ないとすら思っていた。でも多分自分にそう言い聞かせていただけだった。

 友達も、仲間と呼べる者はすべて失われていた。

 だからだけは離れたりしない。彼女だけは傍にいてくれるはずだ。そう思って真綿にくるむように優しくして、その反面自分はに怯えていたのだ。彼女がどこかに行ってしまうことを。




「おまえまで、おまえまで離れるって言うのかよ!」





 チームメイトはすでに仲間ではなくなっていた。黒子テツヤという相棒すらも失ってしまった。その中で彼女は自分に残った唯一の戻れる欠片でもあったのだ。それを手放すなんて恐ろしくてたまらない。だが、もうどうやって仲間を繋ぎ止めれば良いのか、忘れてしまった。

 そこから自分が彼女にしたのは最悪のことだった。


太陽が膨張し