『・・・・・・わ、わたしは、貴方なんて見たくないです。もう。』
他人行儀過ぎる、の言葉に、引き裂かれたような痛みを感じる。
「結局おまえにとって、俺も他の奴らもおんなじかよ。」
青峰は嘲るように唇の端をつり上げた。
彼女にとって青峰もカウンセリングされる側の、大多数の第三者でしかなかった。特別だなんて思っていたのは、自分の思い上がりだった。確かに彼女が自分を好きだと口にしたことはなかった。ただ彼女は優しく自分を包み込んでいただけだった。
だが意に沿わぬことをされれば、話は別だろう。会いたくないに違いない。
「ま、そんなこたぁどっちでも良い。」
仮にそうだとしても、青峰にはもう後戻りなど出来ない。手の中に残っているのは、彼女だけなのだから。
それに恋愛とバスケは別の話だ。仮に彼女が青峰のバスケにしか興味がなくてつきあい始めたとしても、カウンセリングをされる側だったとしても、特別でなかったとしても、彼女が自分のものであることに変わりはない。
とっくに彼女に憎まれる覚悟はしている。それでも良いから、あんなことをしたのだ。
「テツに怪我させたくなかったら、来いや。」
ぎろりと双子の兄の名前を使って睨むと、は初めて顔色を変えた。本気であることを、彼女も理解したのだろう。
青峰はすでにの腕を掴んでいる。は身体が弱いので走ることは出来ないし、女なので力も弱い。ここから逃げだとしても足の縮尺も、運動能力も違うので、逃げられっこない。だが彼女が答えを返す前に黄瀬が口を差し挟んだ。
「ちょ、ちょっと、青峰っち!っち連れて行くのだけはマジ勘弁!中間落ちてて、俺、勉強しないと実力赤点とったらレギュラー落ちなんっスよ。マジで。」
今日、黄瀬がを呼び出したのは自分の成績があまりにも悪く、テストで赤点をとると部活停止+レギュラー落ちになるからだ。黄瀬にとって昔から頭の良いは頼れる唯一の存在で、今連れて行かれれば赤点必至だ。
それは恋愛感情云々の前に死活問題になる。
「そ、そうだよね!やっぱテストって大切だし、うちも実力テスト近いしねっ!!」
桃井がうわずった声で黄瀬に賛同して、必死で青峰を宥める。成績と状況は本来なら黄瀬と全く同じはずで、青峰の方も相当成績が悪かった。
「そ、そうだよ!青峰くんも一緒に勉強したら良いじゃない!」
「はぁ?」
話を邪魔された青峰はの手を離して、今度は桃井の方を睨む。
「青峰くんも相当成績悪いじゃない!私のノートを見て、いつもに教えてもらってぎりぎりだったし・・・そうだよ!これからテストまで毎日ここで勉強したら良いんだよっ!」
名案だよね!と桃井はの手を掴んだ。それで彼女の手が酷く震えていることに気づいた。
「?ど、どうしたの?」
「あ、はい。あ、あ、そうだった。実はわたし海常の笠松さんから、買収されているんで、黄瀬くんの成績を見ないわけにはいかないんです。わたし。」
怯えを見せていたははたっと突如真剣な顔で青峰を見上げる。先ほどの怯えは見せず、顔色も戻っていた。
笠松は黄瀬の先輩で、常に黄瀬の成績について頭を悩ませている。特に中間テストはひどい状態だった。そのため黄瀬がに頼む前から、が賢いと聞いて目をつけていたのだ。元々帝光時代に彼の勉強を見て赤点を防いでいた実績もある。
「え?っち、何それ。きいてないっすよ。笠松先輩とお友達だったんっすか?」
黄瀬はきょとんとした顔でを見る。
「はい。この間監督と一緒に行ってきましたのでお会いしました。たまに相談されますよ。ちなみに笠松さんが大きな黄色いひよこくれるって。」
何に買収されているんだ、こいつは。そう思いながら、勢いをそがれた青峰はため息をついた。
過去と同じ色合いで