桃井から勉強の出来る中学時代の同級生がいるという話をすると、青峰の先輩である今吉が飛びついた。





『えー、丁度えーやん。俺もその子に黄色い鳥あげるわ。だから、おまえも勉強教わっといで。』






 青峰の成績の悪さに困っていたのは今吉も一緒だった。 

 彼は彼女が実際に中学時代には青峰と黄瀬を教え、常に二人を赤点から守っていた実績もあると知ると、桃井から電話とメールアドレスを聞き出し、あっさりとを買収することを決定した。正直青峰は欠点になっても課題を自分でしない。

 それに巻き込まれる時間を考えれば、彼女にひよこのぬいぐるみを渡して買収した方が良いと判断したのだ。

 結果的に近所の図書館で、中学時代と何ら変わらぬ勉強会が開かれることになっていた。




「ねー、っち、これわかんないっす。何この“えしい”って。」

「それ、“えしい”じゃなくて、“とぼしい”って読むんですよ。それ、“え”じゃなくて、“乏”って漢字です。」




 黄瀬の質問に、は目尻を下げて悲しみともつかない表情で言う。

 学力の低さは理解しているが、あまりに酷すぎて頭痛がする。それでも今回の実力テストで何とか点数をとらさなくてはならない。




「なぁ、。“てふてふ”は“てふてふ”って読むんじゃねぇの?」





 青峰は退屈そうに国語の問題を眺めていたが、くいっとの服の袖を引っ張る。




「ちょうちょうって読むんですよ。それ。」





 こちらも根本的な問題すぎて頭痛がする。

 黄瀬、青峰ともに、驚異的な成績の持ち主だ。それは中学時代からで、バスケ一本だった二人も、テスト前は赤司指示の元、による“赤点回避特別補講”をしていた。でなければ彼らは見事に一桁の点数を成績表に並べ、試合に出られなくなるからだ。

 は勉強能力という点で赤司に遙かに劣るが、持ち前の人間観察と感情の機微を読み取る能力で、山を張るのが誰よりもうまかった。またすぐに退屈して勉強しない黄瀬、青峰ふたりに者を教えるのも非常に上手だった。

 一時は監修の“定期試験山”が高価格で出回ったほどだ。おかげで平均点が20点上がったテストもある。





「こんなん勉強してなんになるんっすかー」




 黄瀬はすでに退屈してきたのか、シャーペンを回す。




「その点では同意だ。」





 青峰も退屈は同じらしく、自分の髪をくしゃりとかき上げてため息をついた。それにはもはや呆れを通り越して哀れみすらも覚える。そもそもバスケ馬鹿の彼らは心のどこかで勉強は出来なくても良いと思っているのだろう。




「確かに赤点をとり続ければ、高校にずっといられますよ。そうすればずっと高校バスケができますね。」





 はにっこりと笑って、参考書を指で叩く。さらりとした嫌みながらも現実的なそれに黄瀬と青峰はひくりと頬を引きつらせる。


 留年というのがあるのが高校だ。






「たまにっちって、黒子っちに見えるんだよね。」

「もちろん、双子ですから。」

鏡面