あの夜から、彼と二人きりになるのは初めてで、黄瀬にも心配されるほど震えていたが、全力で逃げてもどうせ青峰に捕まえられるだけだ。覚悟を決めて家まで一緒に帰るしかなさそうだった。

 市立図書館を出てから、自分の家に向かってぽてぽてと歩く。隣で並んで歩いている青峰はに歩調を合わせているのか、いつもよりゆっくり歩いていた。だが、完全な無言で、足音だけが響き渡る重々しい帰り道。口を開くのも躊躇われて、は目尻を下げたままとぼとぼと歩くことになった。





「なぁ、。」






 公園の前まで来たところで、ふと突然青峰が沈黙を打ち破る。




「おまえ、本気で別れたいのかよ。」

「・・・別れたい、です。」




 は彼の質問に重々しく掠れる声で答えた。

 黄瀬の言うとおり、自分は多分まだ彼のことが好きだ。昔の彼に戻ってくれるのではないかとすら期待しているのだと思う。でも今の彼を見ているのが辛いからこそ別れたい。どうせどれほど嫌だと言われようと学校は別だし、このまま気をつけて会わないようにすれば、離れることが出来る。

 は安易に考えていた。彼がそんなに酷いことはしない、とまだ心の中で信じていた。彼はいつもにだけは優しかった。バスケ部が壊れ初め、彼が練習をサボるようになってからも、にだけは優しく笑いかけてくれた。だから、だから、

 手を強く掴まれ、彼の顔がこちらに下りてくる。ぐっと引き寄せられると同時に、唇に温かいものが重なった。





「ふっ、」




 一瞬どうしたらよいかすらもわからず目を見張ることしか出来なかったが、慌てて彼の肩を押す。だがびくともせず、逃げるように身体を引くと、ぐっと後頭部を大きな手に押さえられ、逃げられなくされた。彼の大きな手がの手を押さえれば、動かそうとしてもびくともしない。




「やっ、あ、」





 一瞬唇を離され、また重ねられると同時に舌が入ってきて、ぎゅっときつく目を閉じる。だが遠慮は全くなく、空気すらもすうことが出来ず、いつの間にか拒絶しようとして彼の肩に伸ばしていた手は、彼の服を握りしめることしか出来なかった。





「おっと、ぶね。」






 膝が崩れた途端、青峰が少し慌てた様子での身体を支える。涙でぼやける視界に彼を見つけると、彼は凶暴な笑みを浮かべた。



「俺はどんなことしても別れねぇ。」





 声だけは、泣いているようだったが、それはあの晩、が見たものと同じだった。

 どんなことをしてもバスケは勝てなければ面白くない。恋愛も一緒だ。どんなことをしても、すべてを自分のものにしてしまわなければ満足できない。誰か他人のものになるくらいならば、壊してしまった方が良い。

 笑わなくて、泣いたままでも良い。自分の傍に繋ぎ止められるならば。





「あ、あお、峰、くん?」





 身体が恐怖を思い出して凍り付く。が掠れた声で言って彼を見上げると、青みがかった黒の瞳が残酷な光を宿したのを確認して、やばいと思ったが、それはもう遅すぎた。



貴方に恐怖する