『今度俺の呼び出しに応えなかったら、こればらまくぜ。』






 自分の携帯電話でとったあられもないの姿の写真を見せて、青峰が笑う。あの後、公園の芝生の上に押し倒され、無理矢理行為に及ばれ、とられた写真だ。






『や、やめって、』






 自分の乱れた服をかき合わせながら、震える声では懇願する。

 すると彼はそれが欲しかったとでも言うように満足げに微笑んで、携帯の電源を消し、それをポケットにしまうと、の頬に優しく触れる。大きな骨張った手が自分の頬を撫でる優しい感触が、昔自分を好きだと言ってくれた彼を思い出させる。

 だがそれは一瞬だった。





『良いか、二度と別れ話を蒸し返してくんじゃねぇ。』




 冷たく、圧力をかけるように睨まれ、は自分の考えが甘かったのだと知る。本気で青峰は自分を、どんな手段を使っても力でねじ伏せておくつもりらしい。





『・・・』

『返事は“はい”以外にねぇよなぁ?』





 ふわりと力強い腕に抱きしめられ、背中を撫でられる。耳元で囁かれる脅迫と打って変わって、その手は優しく、喜ぶようにの身体をすっぽりと抱きしめる。





『おまえは俺のもんだ。』





 そう宣言する彼に涙が出た。





 ―――――――――――マジで?!やった、これでおまえは俺のもんだ!







 告白を受け入れたに、彼は目を見張り、嬉しそうに笑った。そのはにかんだ笑みをは今でも覚えている。

 バスケが何より好きで、何にでも一生懸命で、無邪気で少し馬鹿で、シンプルで、誰よりも自分を大事にしてくれた。あの頃はまだ楽しそうで、幸せそうで、こんな爛れた関係を、想像したことはなかった。自分の好きな彼を思い出して、涙がこぼれた。

 やっぱり、どんなに変わってしまっても、は彼のことが好きなのだ。それに気づいてしまえば、もう戻れない関係に、どうして良いかわからず彼に縋り付くことしか出来なかった。




「・・・逃げ場所が、ないですね。」





 完全に退路を断たれてしまった。皆がバスケをやっている風景を見ながら、ぼんやりとこれからの自分の行く末を思うと、ろくな事にならない。それでも彼は、どんなことをしてでもを繋ぎ止める気だ。それによってどれほどに憎まれようとも。

 これ以上彼を追い詰めれば、自分とてどうなるかわからない。




「なんか、。元気ないですね。」





 双子の兄の黒子テツヤがバスケットボールをもったまま、心配そうにの方にやってきた。





「最近楽しそうだったのに。お兄ちゃんは心配です。」





 まるで捨てられたチワワのように目尻を下げて言われると、なんだか罪悪感がある。だが言えるような内容ではなくて、は口を噤んで笑い返した。

 最近またバスケ部に出入りするようになり、誠凛高校の部員の話を聞くのがとても楽しかった。特にこの間海常高校と練習試合をしてからはいっそう練習に熱も入り、海常高校の人とも仲良くなり、相談なども入るようになった。

 昔のような、楽しい、上を目指す部員の背中を押せる幸せな学生生活。

 だからこそ、青峰の事を思い出したくなかったのかもしれない。中学時代の暗い思い出を、なかったことにしたかったのかもしれない。否、中学時代があまりに楽しかったからこそ、その続きであるこの場所に縋っていたかったのかもしれない。





「そういえば青峰君と黄瀬君、テストはどうなったんでしょう。もうそろそろ結果が出ているでしょうけど。」






 黒子はが二人の先輩部員に買収され、二人に勉強を教えていたことを知っている。





「黄瀬くんはなんとか全部通ったみたいですよ。」




 は携帯電話をもう一度確認して言う。

 ある程度彼らの学校のノートや教科書を見て山を張ってやったので、赤点は免れたようだった。元々スポーツ推薦なので、欠点さえ免れれば高校側も多くは言わない。進級できれば後はまた大学受験もスポーツ推薦だろう。




「青峰君は?」

「・・・今日で全部返却されるそうです。」





 昨晩電話で話した時に、そう言っていた。だいたい二日に一度ほど、最近は電話がかかってくるようになっている。でないと脅されるとわかっているため、彼が一方的に話すのを聞いていることが多かった。


 逃げ場をどうやって探したら良いか、わからなかった。






脅しと逃げ場所