青峰が自分の高校の部活にを連れて行ったのは、今吉に言われたからだった。
「実際見るとちっさいし、確かに似てるっちゃあ似てるかもしれんけど、結構美人さんやな。」
今吉は電話でこそのことを知っていたが、実物を見るのは初めてだったため予想していたより可愛いなと思った。
確かに薄い雰囲気や仕草はよく似ているが、やはり男女だけあって双子と言っても少し違う。もちろん黒子がそれほど背が大きくないことは調べでわかっていたが、特には病気のこともあって胸は大きいが小柄だった。
ただくるりとした瞳と感情が抜け落ちたように少し乏しい表情は似ている。
「あーこれこれ、この間約束した黄色いひよこのぬいぐるみな。助かったわー。」
今吉は手のひら大の黄色いひよこのぬいぐるみをに渡す。途端に彼女の瞳に嬉しそうな色合いが宿り、口元に小さな笑みが浮かぶ。ぱぁっと彼女が纏う空気が明るくなった。
「そんなの欲しいのかよ。それ。」
青峰が呆れたようにげんなりした表情で言う。どうやらこの丸くて黄色いひよこが可愛いと思うのことがよくわからないらしい。
「25匹すでにいるんです。」
「はぁあああ?!何でそんなことになってんだよ!」
少なくとも青峰がつきあっていた頃のの部屋にはそんなにたくさんのぬいぐるみはいなかったはずだ。
「卒業式の時に、赤司くんにもらってから、はまっちゃったんです。」
彼がどういう気持ちでにひよこを贈ったのかはまったくわからない。
ただそれがの壺に入ったことは間違いない。目にとまれば買うようになってしまった。おかげでいつの間にか皆がをひよこで買収するようになっている。特に高校からの友達は全員だ。ついでに相談にのってあげるとくれる人もいるので、いつの間にか25匹もたまっていた。
「ちゃんの山のおかげで、青峰は欠点免れるし、一年は上々の成績やったし、良いことづくしやったわ。」
今吉はにっと笑った。
は桃井のノートと教科書で桐皇学園の一年のための“出題予測”を作っていたのだ。それはだいたい一教科につきノート3,4枚程度だったが、それをすべてやったという桃井は、今回90点を軒並みマークする高得点。他の部員もある程度それを覚えていたのか100位いないという優れた成績を収めた。
彼女の張った“山”は非常に良く当たっていた。
「まさか青峰の彼女がこんな子とはな。」
どちらかと言われると、彼女は内向的っぽい子だ。噂でカウンセラーをやっていたと言うが、それには他人の嫌なところを聞くのだから、強固な精神力がいる。だがそれを持ってそうには見えない、穏やかそうだ。
人の感情の機微をよく見ている、賢そうな、子。
「ありがとうございました。では失礼します。」
彼女はぺこりと頭を下げると、すぐに踵返した。あまり桐皇にいるのは好きではないらしい。それが態度に出ていて、今吉は思わず苦笑した。
「おいおい、おまえ今日俺んち来いよ。お袋いないし、」
青峰はすぐに彼女の手を掴んで言う。
「え?」
そのつもりが全くなかったのか、心底戸惑ったように、彼女が返す。それが彼女と青峰の距離感を物語っているようで、今吉は目を瞬くしかなかった。
かみ合わない