自分の上で腰を振っている人は誰なのだろう。
「っ、っ、」
自分の名前を呼ぶ彼の声音は掠れていて、吐息も熱い。彼が動くたびに規則的に粘着質な粘膜をすりあわせる卑猥な音と、ベッドが軋む音が響く。耳をふさぎたくても両手ともに彼に押さえ込まれているためどうしようもない。
回数を重ねれば痛みは薄れ、ただ自分の中を行き来する感覚だけが明白で、違和感ばかりが身体を支配する。それでも男の人は気持ちが良いのか、青峰は何度も行為を望む。
それがを繋ぎ止めていると、確かめる唯一の行為であるかのように。
「うぅ、んっ!」
とはいえに余裕があるわけではない。
元々体力のないにとって、彼のペースでの行為は非常に苦しく、うまく空気が吸えず、酸欠寸前で気絶することもあった。それに回数も何度も繰り返されるので、生理的にも肉体的にも精神的にも削られていく。
中をすごいスピードで行き来する大きな質量に、息が詰まる。苦しさのあまり彼に縋りたくても、両手は彼に押さえ込まれているのでどうすることも出来ない。
「っぐぅ、」
苦しそうな声を上げて、彼はの中で何度目かの吐精する。倒れ込んできた彼の身体は重くて、ただ終わった事への安堵だけが強く心を支配した。
「、」
縋るように腕が伸びてきて、強く身体を苦しいほどに抱きしめてくる。今となっては彼の方が背も遙かに伸びてしまったため、そうされればすっぽり彼の胸に身体がおさまってしまうし、力で敵うはずもないので、抵抗など出来ない。
『今度俺の呼び出しに応えなかったら、こればらまくぜ。』
彼に犯された時の写真を撮られ、それをネタに脅されているため、彼が望む限り、三日に一度ほどは必ず青峰と会うことになっていた。彼は練習をさぼっていることが多いらしく、大抵は学校帰りに呼び出され、出かけることもあるが、抱かれることが多く、もうそれにも徐々に慣れてきてしまっている。
身体は未だに恐怖で震え、動くことも出来ず、抵抗は無意味だ。力で押さえつけられてすべてを受け入れていくたびに、心が削れていく。
今となっては青峰にとってはさぞかし自分の言いなりになる都合の良い女なのだろう。そう思えば酷く悲しい。早く別れた方が良いとわかっていたけれど、多分は恋人としての青峰を過大評価していたのだ。
彼はいつも優しかったから、バスケの時のようにすべてを力でねじ伏せることはないと、信じたかっただけなのかもしれない。
「俺から離れていくなよ。」
行為が終わると、彼はいつもそう言って、に縋る。
脅迫の原因になっている写真のことは、あれ以来一度も口にしたことがない。彼が寝ている間に彼の携帯を見たが、該当する写真はもうなかった。消したのか、それともパソコンにうつしたのかはよくわからない。
少なくとも脅すような形ではなく、今はただ、感情だけでに訴える。その姿だけは、彼が仲間と歩き、穏やかに笑っていた頃と一緒だ。
はそっとその背中を撫でながら、目を閉じる。
「・・・」
貴方は本当のわたしを望んでいるの?それともカウンセラーとしての理想を求めているの?
聞きたい言葉を聞くことは出来ないから、ただは目を閉じて、温もりだけを感じることにした。そうすれば自分を大切にしてくれていた彼を僅かでも思い出すことが出来るから。どちらにしても泥のように疲れているので、はすぐに眠りに落ちた。
悲しみを塗り重ねる