「あ、ちゃんだぁ。」
幼馴染みの桃井さつきが顔を上げて、少し向こうのコートで練習している二人の横で笑っている少女を見て言う。
インターハイの予選が行われるこの会場近くには小さなコートがいくつかついている。
そこにいたのは青峰の恋人であると双子の兄の黒子テツヤ、そして誠凛高校のエースである火神大我だった。青峰は歩を止め、三人のやりとりを食い入るように見る。そこには自分が失ってしまった、心から笑う彼女がいたから。
「おまえ、めちゃくちゃ賢いんじゃねぇか。実力テストトップなんて。」
火神はボールをくるくると回しながら、に言う。
「はい。昔から勉強だけは出来たんです。帝光時代も赤点回避補講とかしていましたし。今回も買収されて青峰くんと黄瀬くんの勉強を教えましたよ。」
「んなの早く言えよ。そしたら先輩たちじゃなくて、に教えてもらやぁ良かったのによ。」
火神が少しむっとしたような顔をしてを見下ろす。彼との身長の差は大きいため、彼女は思いきり彼を見上げるようにして、話していた。
「僕もおかげで実力テストは100番以内に入ることが出来ましたしね。の山は外れないです。」
黒子は満足そうに妹の頭を撫でる。
黒子は妹の山のおかげで今回の実力テストをなかなか良い成績で突破したらしい。勉強は基本的に平均だが、ある程度山を張れば点数はとれる。帝光時代から、妹の『山』のおかげで黒子の成績はすこぶる良かった。
「も一緒にやろうぜ。」
火神はとんとんと何度か地面にボールをついてから、彼女がとれるようにゆっくりボールを投げる。は驚いた顔をしながらも、ボールを何とかとった。
「え、でも。」
「シュートぐらいできんだろ。」
火神とて、の身体が弱く激しい運動が出来ない事は知っているのだろう。風邪も引きやすいので学校も休みがちだが、それでもシュートを少し打つくらいは出来るはずだ。
「うーん、入りますかね。」
はボールを持って軽く首を傾げてから、正面に立つ。慣れていない人間は逆に横から入れるのは難しい。特には背が小さいので、ぽんぽんと二度ほどボールをついてから、正面から大きくのびをするようにボールを放った。
そのフォームはいつもバスケ部の試合を見ていたせいか存外綺麗で、ボールは吸い込まれるように入った。
「すっげぇ!入ったじゃん!でももうちっと伸びるともっと後ろからでも入んじゃね?」
火神は落ちたボールをとって、の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「おまえよりうまいかもしんねぇな。黒子。」
「そんなことないですよ。」
火神に言われて、少しむっとした顔で黒子が返す。は髪の毛がぐしゃぐしゃになったのでなおしながらも、瞳を何度か瞬いたが、にっこりと楽しそうに笑った。
「火神くん、ボールかしてください。もう一回いれてみます。」
「おぉ!もやる気んなったじゃねぇか!」
「、あまり無理は・・・」
火神は楽しそうににボールを渡したが、黒子はやる気のの体調を心配し、あたふたとする。
――――――――――――――も一緒にやろうぜ!
昔、黒子の練習を見に来ていた彼女に、自分もそうやって笑いかけ、戯れにシュートを教えてやることがあった。いつも黒子はの体調を心配して過保護だったが、は楽しそうに笑っていて、自分も楽しくて。
今となっては青峰にはもう見せてくれなくなった笑顔が、そこにはあった。
太陽の傍で笑う月に焦がれた