はコートの近くのベンチに座ると、ボールをぽんぽんとつく。目の前には裁判官のようにこちらを見下ろす背の高い青峰がいて、喉が粘つくような感覚がする。

 だがそれを言わないという選択は、すでにの中にはなかった。




「性格的な話をすると、紫原くんは困ったさんですね。」

「は?」





 青峰は予想しなかった言葉に目を丸くする。





「だって、本当は好きなことを面倒くさいって言うのはひねくれてて、でも、困るくらいですね。」






 が人に対する評価をはっきりと口にするのは初めてだったが、彼女の意見は確かに的を得ていた。紫原はどちらかというと子供で、面倒くさいとはいいながらも、やることはやっていた。要するに口だけだった。

 のお菓子が食べたいからだと理由をつけつつ、練習にはちゃんと出ていた。確かに心根は変わっていったのかもしれないが、それでも彼はバスケが好きではないわけではなく、ただ面倒くさいと言って、素直に言うのを避けていただけだ。

 今もケーキが食べたい、送ってこいとよくに電話してくるが、その実学校や何かでうまくいかないことがあり、それを相談したいだけと言うこともよくあった。




「緑間くんは、性格的にも問題ないですし、情も厚いんですが、なんだかわたしとあいません。わたしもA型だからですかね。」





 彼もまた素直でないと言う意味では紫原と同じだと思う。

 緑間はよくB型の自分とA型の黒子は相性が悪いと言うが、それは双子で血液型が一緒のも同じだ。そのくせに何かと連絡してくれるので、ツンデレだなといつも笑っていた。




「正直言うと、黄瀬くんが今は一番性格的にはしっくり来ます。バランスも良いし。特に親しみやすいです。一緒にいても一生懸命で楽しい。」




 元々帝光時代から仲は良かったが、学校で再会してからはなおさらよく連絡を取り合うようになった。

 今でも頻繁に連絡を取り合っているのは彼のあの明るい性格がぴたりと合致する部分があるからだ。彼もそれは同じらしく、何かとに連絡してくる。相談事がなくても、日常の話なども頻繁に電話でしている。

 最近は黄瀬もカウンセラーとしてのではなく、もはや友人と言うよりそのあたりでよく会う井戸端会議の相手といった感じだ。




「赤司くんは論外、」





 昔の彼なら共感を持てたかもしれないが、もう一人の彼の考え方は大嫌いだ。力でねじ伏せ、服従させる、強調や和を好むの思想からは最も遠いところにいる。

 それでも赤司は人を率いる上で思うところがあるのか、たまに意見を求めにに連絡をくれる。





「俺はどうなんだよ。」





 青峰はじっと静かにを見下ろす。それが彼にとって一番聞きたかった所なんだろう。




「・・・昔は好きでした。でも今は赤司くんと一緒、ですね。」




 は目を閉じて、彼の姿を思い浮かべる。

 楽しそうにバスケをする彼が好きだった。自分には絶対出来ない事で、がむしゃらに強さを求める彼を憧れとともに見つめていた。彼を見ていると自分がやっているように楽しくて、彼のプレイに引き込まれるように彼を好きになっていた。

 今の彼のプレイを見ても、は何も感じない。すごいんだな、それだけだ。

 ボールをついていた手が震えたのか、ころころと別の方向へと転がっていく。かつては一緒にあったものも、遠くなってしまう。手が届かなくなる。




「今は好きじゃねぇって事かよ。酷いこと言ってくれるねぇ。」





 青峰はぐいっと顔を近づけて、に笑う。だがその青みがかった瞳の奥に潜む悲しみと絶望の色、そして何を切望しているかをは知っている。





「すぐに負けますよ。」

「てめっ、あいつらが勝てるとでも思ってんのかよ。この間の試合、見たんだろ?」

「見ましたよ。でも、火神くんも、テツも、そして黄瀬くんも、必ず貴方に勝ちます。」




 は顔を上げ、まっすぐと青峰を見て立ち上がる。





「わたしは信じています。貴方に勝つ人なんてすぐに現れる」






 兄を、火神を、そして今の誠凛高校のバスケ部を支える先輩たちを。

 彼らは心からバスケが好きで、だからこそみんな一つになって勝利を求めている。それは今の青峰とは全く相容れないものだからこそ、きっと青峰の傲慢を打ちのめしてくれるだろう。は心の底からそう思っている。信じている。




「良いじゃねぇか。あいつらが勝ったら、別れてやっても良いぜ。」




 心底馬鹿にしたように、青峰はの腕を掴む。




「でもそれまではおまえは俺のもんだ。」





 もう彼は、力でねじ伏せる以外の方法を知らない。だから、力でねじ伏せられる以外、止める方法はない。そしてそれを出来るのはではなかった。彼はもしに本気で拒絶されれば、と心中する道を選ぶだろうから。

 彼がどれほど傷ついたとしても、きっとそれ以外方法はないのだと、は言い聞かせた。





太陽が落ちることを願う