桃井さつきが幼馴染み、青峰大輝の彼女である黒子に会ったのは桐皇の校庭のベンチでだった。





「なんか、とちゃんと話すの久しぶりよねー。」

「そうですね。わたしもばたばたしていましたから。」

「嘘ばっかり。」







 桃井はあっさりと帰す。するとは苦笑した。

 桃井とはよく連絡を取り合っていたし、中学時代は親友同士だった。なのに高校に上がった途端、はメールや電話こそするが、桃井と会うことに関しては何かと理由をつけて拒否するようになった。それは青峰が桃井からその情報を得て、鉢合わせるのを防ぐためだ。

 それを理解していたから、友人の嘘を桃井は責めることが出来ない。青峰ならばに会うために桃井の携帯を見るくらいのことはしただろう。




「そういや、きーちゃんは大丈夫?」

「はい。・・・泣いて電話もらいましたから、でももう大丈夫ですよ。次はきっと青峰君に勝つでしょう。」




 は苦笑した。

 試合が終わった途端、こらえ切れなくなったのか、黄瀬から泣きながら電話をもらって、会いに行った。彼はを抱きしめながらぐずぐず随分泣いていたが、ひとまず悔しかったのだろう。




「そっかぁ、きーちゃん、昔からのこと大好きだもんね。」





 桃井は彼らしくて思わず笑ってしまった。

 昔から、は黄瀬を慰めるのが得意だった。黄瀬も昔からに懐いており、雰囲気も良かった。青峰が昔からのことを好きだったのは知っていたが、桃井は失恋だろうなと思っていたから、まさか青峰の告白をが受け入れたと聞いた時は青天の霹靂だった。




「青峰くんが肘のことで出れなくて、さつきちゃんと喧嘩になったのはテツから聞きました。」




 何かあればすぐに彼女に相談が行くため、彼女は自然と事情をすべて知っている。さつきのように積極的な情報収集などせずとも、勝手に情報が彼女の元に集まる。

 帝光時代から、内向的で身体が弱いのに、常に周りに人がいて、他の女子から遠巻きにされたり、嫌われたりしたりと何かともめるさつきと違い、彼女は誰とでもうまくやっていた。それが彼女の持ち味だと言っても間違いない。

 ただそれは、強固な意志がないようにも見えた。でもそれは見せかけだ。彼女はカウンセリングをしているからはっきりと言わなかっただけで、それ以外の時は比較的物事ははっきり決める。

 そして他人をよく見ている。そういう点では黒子テツヤと双子だというのが非常に頷ける。





。最近元気ないってテツ君が心配してた。青峰くん、何かしたの?」

「・・・」







 一瞬彼女の動きが止まる。だがすぐにいつものふわりとした笑みを浮かべた。






「大丈夫ですよ。」






 その笑顔が嘘であることを、もう桃井は知っている。全中の前もそうやって笑っていた。彼女は他の人の悩みも何もかも知っていただろうが、それでも勝つためだけのカウンセリングを求められていた。彼女自身も辛かったはずだ。

 よそ行きの、彼女がカウンセリングをしている時の笑顔だ。そうして彼女は自分の傷も、すべてを隠している。




「ねえ、が、壊れちゃうよ。」




 桃井はの小さな身体を抱きしめる。いろいろなことを背負い込むには、彼女は小さすぎる。




「大丈夫です。今度は、ひとりじゃないですから。」





 はにっこりと桃井に笑う。桃井にとって彼女の笑顔は、まるで黒子のもののように自分をまた、勇気づけてくれるものだった。

 でも本当は、彼女を勇気づけたかったのだと桃井は目尻を下げた。

貴方は強い