「なんでおまえらこんなに馬鹿やねん。」
一応だけでは大変だろうと言うことで、二日に一度ほどそれぞれの高校の部員が手伝いという名の見張りでやってくる。一人で三人の面倒を見るのは結構難があるし、は長時間の勉強には体調を崩しやすく、誰かが逃げ出してもそれを負うことは出来ない。
今日の見張り当番の今吉はの隣に腰を下ろしてため息をついた。
「それでもみんな10点とれているだけ、成長です。」
「いや、ちゃん。それめっちゃレベル低いで。」
「わかっています。でも、これが精一杯なんです。」
「ちゃん、酷いっす!」
が真剣な顔で頷くのを見て、黄瀬は思わず叫んだ。
「怒鳴ってもしゃーないやん。おまえらアホやもん。いうとっけど、普通欠点なんてとらへんで。」
今吉は容赦なく言って、ため息をつく。
ほどではないが、今吉も比較的成績の良い方だ。その今吉から見れば、彼らは驚異的な馬鹿と言うしかない。
「それにしても、ちゃんの方は大丈夫なん?」
「大丈夫です。これもある意味で勉強ですから。」
は元々目的意識が乏しく、別に勉強熱心ではない。そのため山を張ること自体興味がなかった。だが他人の感情の機微や問題の出し方から次の行動を読み取ることが得意なは、青峰たちのために山を張り、彼らの勉強を見ることによって成績は格段上がった。
元々は人に対してものを教えるのも、アドバイスをするのもカウンセラーをしていたくらい得意だったから。
「っち!いざ答えはあわせを!」
黄瀬が勢いをつけて自分のやったプリントをに渡す。
「すでに最初から違う気がするんですけど。」
は一問目を見て、眉を寄せる。
「え、酷い。酷いっす。」
「酷いのは貴方の成績です。良いですか?」
くるりと鉛筆を回して、プリントの裏側に彼の間違った問題を書いていく。それを見ながら今吉は目をぱちくりさせて口を開いた。
「なんか、ちゃん結構黄瀬には辛辣やねんな。」
「あー、え?俺らには辛辣だけどな。言う時はいうぜ〜あいつ。」
火神は今吉の言っている意味の方がわからないとでも言うように首を傾げる。
今吉は青峰の前にいる、浮かない、今にも泣き出しそうな顔をしていて、あまり青峰と話すこともなければ、当然辛辣な物言いをすることは全くない大人しいしか見たことがない。だが少なくとも黄瀬とのやりとりを見ている限りそうでもなさそうだ。
黄瀬もなんだかんだ言って楽しそうに勉強を教わっているし、もたまに辛辣に口を出しつつ彼を思いやりながら、興味が持てるような教え方をしている。
「ふぅん。そういや今はカウンセラーやってないんやっけ?」
「いや、うちの先輩たちには結構やってるけど、なんかあんまり近すぎると出来ないとかで、俺たちは普通に愚痴ってる感じ?聞き上手はわかるけど、カウンセリングとかよくわかんね。」
火神からすると、カウンセラーだった時のなど知らないし、彼女は相棒の双子の妹でもあるため、近しい存在だ。遠慮というのもよくわからない。彼女は大人しいが、はっきりとものを言うし、よく笑う普通の少女だ。
「やねんて。彼氏の青峰君。」
今吉は少し意地悪く青峰に話を振る。彼はいかにもといった様子で眉を寄せ、不機嫌そうに黄瀬とのやりとりを見た。
焦がれた笑顔に届かない