久々に入ったの部屋は何故か小さいのから大きいのまで黄色いひよこで満たされていた。
「なんじゃこら。」
青峰はぽかんと口を開き、呆然としての部屋を見渡す。
見慣れた小さな机に、二人がかけられる程度の小さな緑のソファーベッド。その上に大小大量のひよこ。前は別に乙女チックではなく、いぶしたような色合いの本棚と同じ色の机、緑色のソファーベッドと落ち着いた男の部屋の雰囲気だった。
なのに、ひよこの効果なのか、今は女の子らしい。部屋に大きなグランドピアノがあるのは、彼女が長らくピアノを習っているからだ。
「座ってください。勉強しないとだめですから。」
「どこに!」
ソファーの上はひよこで埋め尽くされている。どかして良いのかと青峰は手を伸ばしたが、は首を横に振った。
「カーペットの上、」
「・・・俺はひよこ以下かよ。」
「え?どうしてですか?」
「もう良い。」
青峰はばからしくなって、カーペットの上に鞄と足を放り出す。彼女の部屋は双子の兄・黒子テツヤの部屋より大きいが、それはグランドピアノがあるからで、大きなそれは彼女の部屋の大部分をとってしまっていた。
「おまえまだピアノやってんのかよ。」
「やっていますよ。来月コンクールに出ます。」
身体が弱く、運動が出来ない代わりに、昔から彼女はピアノが得意だった。バスケ馬鹿で、それ以外は何もわからない青峰でも彼女の弾くピアノは嫌いではなかった。赤司と連弾をしているのを見た時は殺意を覚えたが。
「黄瀬君は六時くらいに終わるんですって、バスケ部らしいですね。」
は近くから小さな組み立て式のテーブルを持ってきて、カーペットの上に広げる。
「あぁ?二時間後じゃん。部活停止じゃねぇの?」
「ミーティングみたいですよ。」
「真面目だねぇ。俺やる気でねぇわ。」
最近練習もミーティングもサボりがち、元々入学の時も勝っているならば何でも許されるのが条件だったので、文句を言う奴はいるが、無理矢理引きずることは誰も出来ない。ごろりとカーペットの上に転がると、は目尻を下げて悲しそうな顔をした。
「笑えよ。笑うとこだろ。」
青峰は素っ気なく言って、の頭を軽く押した。
そういうの顔が嫌いだ。泣きたいのに我慢するように目尻を下げて、物言いたげだが何も言わない、その表情が嫌だ。映画の予告編ですら泣くくらい日頃は涙もろいくせに、そうして我慢するのはカウンセリングをしている時と同じ。
泣けよ、と言うことは出来ないけれど、そう思う。
「貴方も笑わないのに、」
は絞り出すように声を出した。掠れた声音はすぐに部屋に消えていく。
「笑ってんだろ。」
のど元でクツクツと笑っていたが、彼女が言う意味は理解していた。は何も言わず、そっと青峰の髪を撫でる。その白い手の感触が温かくて、青峰は目を閉じた。
後悔を飲み込んで