細くて白い指が自分の短い髪を梳いていく。ぼんやりと寝転がったまま彼女を見上げると、目尻を下げてやはり悲しそうな顔をしていた。

 笑っている彼女が好きだった。なのに今となっては青峰の隣で彼女が笑うことはない。

 全中の決勝が終わったあの日、別れようと言われ、激高し、結果的に彼女を無理矢理犯した。今も写真をネタに脅して呼び出しているのだから、彼女が青峰の傍で笑わなくなったことも仕方がないのかもしれない。

 ゆっくりと身を起こして、の頬を撫でる。少し怯えるように彼女はびくりと身体を震わせた。




「・・・」




 無理矢理抱いてから、は青峰と二人になると怯えを見せる。当然のことだろう。自分を力でねじ伏せ、犯した相手に恐怖を感じずにはいられないのはあまりに当然だ。ただ傍にいるだけでも、きっと恐怖を思い出すのだろう。

 どんなに優しくしても、多分恐怖は消えない。

 彼女の後頭部に手を回すと、彼女の身体は小刻みに震える。そのまま引き寄せるように額を合わせる。

 純粋に好きなまま笑っていられれば良かった。無邪気にバスケが好きだった。でも、その感情は歪んでいく。同じように笑う彼女が好きで、たまらなかったはずなのに、笑わない彼女でも傍から離れていくのが嫌で、嫌いになることも出来ず、歪んだ感情のまま彼女を留めている。




「なぁ、やって良い?」




 彼女の顔をのぞき込み、頬を撫でながら青峰は尋ねる。

 黄瀬が来るまでに時間はある。隣の部屋の黒子もまだ帰ってきておらず、家族もいない。彼女の部屋だし、問題ないはずだ。




「どうして聞くんですか?」




 は心底不思議そうに首を傾げた。

 青峰はいつも彼女に無理矢理行為を強いてきた。時には脅迫すらして。だから改めて尋ねてくるのが、彼女にとっては不思議でたまらなかったのかもしれない。素朴すぎるが当然の質問に、青峰はぐっと彼女の頬を撫でていない方の拳を握りしめた。





「嫌か?」

「・・・痛いのは嫌です。」





 目をそらして、は答えた。

 感情の乏しいその表情から、彼女の考えを伺うことは出来ない。ただ、彼女の小さな手はかたかたと小さく震えていて、青峰への恐怖が消えず、言うことを聞いているようにも見えた。やはり彼女が拒絶をぶつけたのは、別れを告げられたあの日だけだ。

 自分が特別だったのか、それともただ拒絶しないという彼女のカウンセラーとしての手法だったのか、聞くだけの勇気は生憎持ち合わせていない。どちらを肯定されたとしても、別れを告げられた事にかわりはないから。





「わかった。」





 彼女の表情を見るのも嫌で、青峰は自分の気持ちを誤魔化すように、彼女に口づけ、目を閉じる。そしてできる限りそっと彼女の服に手をかけた。




月に手を伸ばす太陽