「なんで青峰っちがいるんっスか。しかもっち寝てるし。」





 の家にやってきた黄瀬は、家人がいなかったため、何故か青峰に迎えられ、の部屋に通されることになった。当のはソファーベッドで眠っており、カーペットにはひよこが散乱している。青峰はが眠っているソファーベッドの端に腰掛け、黄瀬は適当に鞄を放り出してからカーペットの上に置かれている小さな机の前に座る。





「うっせぇな。彼女んちにいて何が悪いんだよ。」

「まぁそうっスけどね。一応。」

「なんだよその一応って。」





 青峰は一応突っ込んだが、それ以上はやぶへびになっても困るので何も言わなかった。

 痛いのは嫌だと言われたので前戯に時間をかけすぎて、彼女の疲労がたまったらしい。は行為の後、気を失うように眠りについた。幼い頃に煩っていた病のせいか、あまりは体力がなく、激しい運動も出来ない。元々体質的にも疲れやすいのだ。






「そういや昔もよく突然ぶっ倒れてたっすよね。」






 黄瀬はが眠っていることに関して、おかしく思わなかったらしい。

 中学時代から炎天下の日など外に出ていて突然ふらっと倒れたことは一度や二度ではない。救急車で運ばれたことも数度、歩いている途中に気を失ったこともあり、だからこそ誰かが傍にいなければならず、は一人で出かけることが出来なかった。

 そういう点で双子の兄である黒子テツヤと彼女がいつも一緒にいたのは必然だった。




「まぁ良いっすけど。言われてた宿題やってないんで」





 黄瀬は彼女が寝ていることに困ったような顔をしたが、それでもひとまず数学がやばいのか、鉛筆を持ってやり始めた。明日テストで今日はの家で徹夜、そしてそのまま高校に行ってテストを受けるのだという。

 普通女であるの家に泊まるというのはどうかと思うが、隣が元チームメイトの黒子テツヤの部屋で、彼女の部屋によく黒子も入ってくるので、黄瀬も、そして同時にも問題ないと考えているのだろう。彼女の親が問題だというなら、黒子の部屋に泊めてもらえば良い。

 だが、正直彼氏の青峰からすれば、そんなふざけた話はない。だから今日こうして、彼女の部屋に一緒に泊まることにしたのだ。

 とはいえそれほど広い部屋ではない上、ソファーベッドの一人が寝れてやっとなので、下手をすればグランドピアノの下で雑魚寝と言うことになるだろうが。





「結局青峰っちって、っちと別れないんっすか?」




 黄瀬はあらかじめから問題集をもらっていたため、それをしながらふざけた口調で尋ねる。それは青峰の幼馴染みである桃井ですらも躊躇って聞いてこなかった質問だった。




「あぁ?」

っち、別れたいみたいっスよ?」






 と黄瀬は仲が良い。彼女が青峰を無視している間も、彼女は黄瀬とは頻繁に連絡を取っていたらしい。携帯電話でもよく話していると聞いていた。

 だからこそ正直との関係が良くない今、の話を彼の口から聞きたくはなかった。





「あんまふざけたこと言ってっとなんぼおまえでも殴んぞ。黙れ。」





 青峰は冷たく言い捨てる。

 彼女が自分のことを嫌っていることはもうすでに知っているし、離れたいことなど当然だ。怯えられているのもわかっている。だが他人からそれを指摘されるのは、身を切るほどに辛い。



「わー怖ぇ、男の嫉妬は醜いっスよ。」




 嘘っぽく、黄瀬は肩をすくめて怖がってみせる。だが、本当に怖がっているわけではないだろう。が彼に、青峰が行為の時の写真を撮り、脅してくると説明するはずもない。彼女はそうしたことに関しては非常に恥ずかしがりで、口が裂けても口にしなかっただろう。

 だから自分がしている最低のことを黄瀬が知るはずはない。

 ただ、少なくとも、嫉妬故に今日青峰がの部屋に泊まると言うことだけは、黄瀬も理解していたのだ。

 おそらく青峰が彼女を好きだから別れないと言うことも承知しているだろう。




っちってちっちゃくって可愛いっすよね。」




 黄瀬はくるくるとシャープペンシルを回しながら言う。




「おいおい、ふざけんなよ。」

「嫌だなぁ、客観的な感想っスよ。青峰っちがいなかったら、っちすぐ次出来るっすよ。絶対。」






 中学時代から、カウンセリングをしている彼女に惚れる部員は後を絶たなかった。彼女にやましい気持ちなどなかったが、相談に乗ってもらった部員の中には彼女が好きでストーカー化する奴が出て、赤司が困っていたこともある。

 青峰がつきあうようになり、青峰の凶暴性をある程度知っている部員は全く手を出さなくなったし、高校ではでかい火神がついているので大丈夫だが、元々結構もてる性質だった。

 周りが強面で牽制しているだけで。






「俺も良いなぁって思うっスよ。まぁ青峰っちを敵に回す気はないっすけど。」






 黄瀬も昔から、が良いなぁとは思っていた。だが青峰には昔から、奥手そうに見えて欲しい物を手に入れる時に手段を選ばない狡猾さがある。

 完全に今、青峰は彼女に夢中だ。もしそのに手を出せば、青峰は何をしてくるかわからないし、彼女自身がどんな目に遭うのかと想像すれば、黄瀬は自分の恋愛感情を表に出すのを避けざるを得なかった。とはいえ、彼女と話すのは楽しすぎて、三日に一度ほど長電話をするのだが。




「なんで、青峰っちだったんっスかね。」




 黄瀬は僅かに目を伏せ、不服そうに言う。

 人当たりのよいのことだ。中学時代に告白された人間は他にもいただろう。バスケ部の中にも、彼女に告白した先輩は片手で足りない程いた。その中で、彼女はなぜ青峰の告白だけを受け入れたのか。




「そんなの俺が聞きてぇよ。」




 青峰は息を吐いて、眠っているを見る。それを聞くことが出来たとしても、彼女が離れていくのは認められないと知っていた。





卑怯と罵られても