「夜食ですよ。」
黒子テツヤが帰宅した後、夜食を妹の部屋に運びに行った時、だいぶ勉強は進んでいるようだった。
「調子はどうなんですか?」
「大丈夫っすよ!なんか初めて数学で解けたって問題が出てきたんっス。」
黄瀬は黒子の言葉に明るく答える。
黄瀬のテスト勉強は順調のようだ。シャープペンシルはよどみなく動いている。対してあまり順調ではないのか、眉間に深い皺を寄せて青峰はソファーベッドにもたれて、が作った“山”という名のテスト予測問題とにらめっこをしている。
はソファーベッドでタオルケットにくるまったまま、青峰の問題の進み具合を見ていた。だがあまり顔色が良くない。
「、最近、顔色良くないですよ。」
妹を見る限り、彼女は少し疲れているようで、目がぼんやりしていた。顔色もそれほど良くない。
「そう、ですか?」
「火神君につきあって遊ぶのは、ほどほどにした方が良いですよ。」
黒子は一応妹に注意する。隣にいる青峰の顔色が変わったが、知らないふりをした。散々彼女を傷つける彼にはよい薬だ。嫉妬に身を焦がして死んでしまえばよいのにとすら思う。
「えー、火神っちと何してるんっすか?」
黄瀬は興味があったのか、素直に尋ねる。
「ちょっとしたゲームをしているだけですよ。シュートが入るかどうかの。」
はタオルケットに顔を埋めるようにして、少し困ったような顔をする。それは兄に責められているからだろう。
最近が火神としている遊びは、は近くでも良いからシュートを打ち、火神はスリーポイントラインの遙か向こうからシュートを打ち、どちらがたくさん入るかというものだ。とはいえボールが転がれば追わなければならないので、一応運動にはなる。
青峰が見た時、時々が手首に湿布を巻いていることがあったが、それは使いすぎで疲労して腫れ、腱鞘炎になっていたのだ。
「おまえな、そんなことすんなよ。どうせおまえが選手になれるわけでもなし」
青峰は眉を寄せ、を見る。
彼女は身体も小さく、激しい運動が出来ない事が定められている限り、彼女が選手となることはない。ならば無理は避けるべきだ。肘をついて、心底つまらなそうに言うと、彼女は酷く悲しそうな顔をして俯く。
「青峰君は黙っててください。」
ぴしゃりと珍しく黒子が口を開いた。いつも穏やかな黒子のあまりに辛辣な言い方に、黄瀬ですらも眼を丸くする。
「腱鞘炎になるほどはだめです。でも、今度は僕も混ぜてください。」
黒子は打って変わって優しく、にっこりと笑って、妹の表情をのぞき込んだ。
体調が許す限り、妹が何かやりたいと思ってすることについて黒子が何かを言うことはない。確かに選手として活躍することは出来ないだろう。それでもが楽しそうにしているのなら、兄である黒子は何だって良かった。
片割れを愛す