ぽんぽんと頼りなくがバスケットボールをついている。たまにゴールが狙う。フォームも綺麗だが、なかなかシュートの入る率も良い。もしも彼女が運動の出来る身体だったら、それなりに成功したかもしれない。

 元々頭がよいからなおさらだ。




「おら、あんまやんなって言われたろ?テツから。」




 青峰はからボールを取り上げ、言う。

 バスケットボールは他の球技のボールよりも比較的重く、手首に負担がかかる。特には元々運動が出来ず、手首の関節が緩いので無理をすれば腱鞘炎になってしまう。





「うん。でも、この間も負けちゃったから。」

「あんなぁ、バスケ部だぜ?」

「でもハンディもらってますから、」




 どちらがシュートを多く入れるかと言っても、火神はスリーポイントの遙か向こうからだ。対して基本的には目の前で良いと言うことになっていた。バスケットボールの選手でもスリーポイントで常に入ると言うことはないし、火神はなおさらそういうタイプではない。

 そういう点で、公平といえば公平な話だ。それで外すのはのミスでしかない。




「そんなことやって楽しいのかよ。」




 青峰は近くにあったベンチにドサリと腰掛け、足下に鞄を置く。





「うん。なんでもゲームは楽しいですよ。負ければ悔しいですし。」





 青峰の持っていたボールをとって、はまたぽんぽんとそれをついた。

 バスケ部の人からすれば低級なゲームかもしれないが、それでも勝敗があると楽しいものだ。無理はしてはいけないと言われているが、練習にどうしても力が入る。




「この間は黄瀬くんも一緒にやったんですよ。きっと緑間くんがきちゃったら相手にならないですけど。そうなったらもっと後ろからやってもらいましょうか。」

「ぶん投げろってか。」

「きっと緑間くんなら良い線いきますよ。それでも。」




 すました顔では言って、ボールを青峰に返す。

 かわりに彼女は手首を回した。少し痛いらしい。元々身体が弱く腱鞘炎になりやすい体質だ。青峰はそれが気になり、無理矢理彼女の手を掴んだ。




「回したらいてぇのか?」

「・・・なんかじんじんする。」

「それを痛いっていうんだ。馬鹿。ちょっと座れや。湿布とかテーピングとかどっかにあったっけか?」




 青峰はをベンチに座らせ、大きな鞄の中を探る。




「おぉ、ちゃんやん。この間はありがとうな。」





 その間にたまたま通りかかった今吉が、に手を振って近づいてきた。鬱陶しい奴に見つかったと青峰は舌打ちをする。





「あ、ひよこ。」






 は抑揚に欠けた声音で言う。




「はいはい。青峰はなんとか赤点免れたし、約束やさかいな。安心せぇ。」




 赤点をとらないように青峰の勉強をフォローすることが、ひよこでの買収の条件だ。それをは今回は見事に果たしたので、今吉もひよこをあげるつもりだった。とはいえ、今日彼女と会うと思っていなかったのだ。




「それにしても青峰、おまえ練習に来んとデートかいな。」




 今吉は呆れた目を青峰に向ける。

 桃井が散々探し回っていたが、今日も青峰は練習に参加していなかった。だというのに、こんなところでとバスケットボールで遊んでいるとあれば、少しいらつく。




「ちげぇよ。はー、帰んぞ。。」




 言い方が鬱陶しかったのか、青峰は鞄の中身をすぐにしまい出した。




「え?」

「え?じゃねぇ、テツにしばかれんぞ。ってか、俺もしばかれる。」





 妹のことになると何をしでかすかわからないのが黒子テツヤだ。

 夜遅くなる時は基本的に、青峰がを送るか、双子の兄の黒子テツヤが迎えに来ることになっている。ひとりで帰っていて突然倒れても困るし、夜道だ。どちらにしてもあまりに遅いと黒子がいい顔をしないだろう。

 なんだかんだ言っても彼は妹を溺愛している。





「テツはしばきません。基本的に私に怒ったこともないです。」

「マジかよ。あのシスコン。ってあれ?確かにテツからおまえの愚痴聞いたことねぇな。」







 中学時代からのつきあいだが、黒子の口から妹への愚痴が出てきたことはない。から彼に対する愚痴が出てきたこともない。ちなみにつきあい始めた頃に、黒子から妹を大切にしないとぶち殺すと言われたことがある。すごい笑顔で。

 今やっていることを知られれば、青峰を本気で殺しに来るかもしれない。

 切れない糸で二人はつながっている。そんな繋がりがあれば良かったのにと、無意味なことを青峰は考えて彼女の小さな後ろ姿を眺めていた。





双子の絆