炎天下に外に出るのが厳しいは、夏休みに呼び出されたは良いが、桐皇の体育館裏でぐったりしていた。
「、大丈夫?」
桃井が泣きそうな顔で冷たい氷をの額に当てて介抱する。
「ほんま身体弱いねんな。10分がもたんとは。」
今吉は少し驚いたようにそう言った。
が来たのは青峰のバスケ部の練習が終わる10分ほど前のことだった。大きなつばの帽子も被っていたので大丈夫だろうとベンチで待たせていたが、気づいた時には横倒れになっていて、挨拶などそっちのけで皆彼女を体育館裏に運ぶことになっていた。
「す、すいません。最近大丈夫だったんですが、」
は目尻を下げて言う。
「ええよ、気にすんなや。こないだ一年どもはあんたの張った山で軒並みよい点数をマークしたわけやし。」
今吉としても、一年生の勉強という点ではにお世話になっているので、少しぐらいの介抱はよい。それに彼女が桐皇に青峰を迎えに来る日は、少なくとも青峰が学校に練習に来ると言うことを示していたからだ。
「ちょっと青峰くん!なんでを迎えに来させたの!?迎えに行きなさいよ!!」
桃井は青峰を睨み付けて怒鳴る。
「うるせぇよ。途中までテツと来たんじゃねぇのかよ。」
青峰は桃井の言葉を適当にいなしてに問う。
基本的に彼女は何があっても一人では動かない。倒れた時の処理に困るからだ。おそらく桐皇に来る時も、少なくとも校門前くらいまでは双子の兄の黒子テツヤか誰かが送ってきていたはずだ。
「あ、うん。火神くんが送ってくれました。なんか用事があるとかで。」
いつも通り兄の黒子が送る予定だったのだが、親に用事を頼まれてしまったため、一人で行こうとしていたのだ。ところがいつの間にか兄が火神に連絡を取り、送ってくれるように言っていた。申し訳ないので辞退しようと思ったが、すでに火神は来てくれていたし、拒むわけにもいかなかった。
「おまえ、火神と仲良いんだな。」
「え?まぁ同じ一年生ですし、レギュラーですし。テツとも仲良いですから。」
は少しましになったのか、ゆっくりと青峰に支えられながら身体を起こす。
双子の兄である黒子テツヤと火神はよいコンビだ。同じ一年であり、同時にお互いに支え合って戦っている。だから双子の妹であるも練習につきあうことが多く、自動的によく話すようになっていた。それはある意味で青峰がたどった過程によく似ている。
だが、それを言った途端、冷たい空気を纏いだした青峰には目をぱちくりさせる。
「え、何かわたし、いけないこと言いました?」
「・・・別に。」
青峰は素っ気なく返して、ぐっと拳を握る。それを見ていた今吉や桃井は、正直彼を哀れみたくなった。
は昔から他人の感情の機微を読むのがうまいが、それは普通の時だけで、恋愛になるとからきしだった。要するに彼女は恋愛をしたことがないのだ。それは今でも変わっていないらしく、火神の名前を出したことが青峰の怒りを煽っていることがわかっていない。
もうそろそろそういう感情が理解できてもおかしくないと思っていたが、は未だに本当にわからないのだ。
「あんなちゃん。ふつーな?自分の女が他の男と一緒やって言われたら、嫌ちゃう?」
「ちょっ!おいっ!」
「青峰は黙っとき。味方したるんわ今回くらいやで。」
今吉はぴしゃりと青峰に言って、の方を向き直る。
「・・・?でも青峰くんはさつきちゃんといつも一緒ですよ。」
「そやけど、ちゃん小さいやん?何かあったら抵抗できひんで?」
「火神くんはそんなことしません。」
はその丸い瞳に大きな信頼を持って、今吉に返した。それは彼女の中では確信のあることだったが、青峰はため息をついた。
「そんなの当てになんねぇことは、おまえが一番よく知ってんだろうが、」
を嘲るように笑って、彼女の肩を叩く。
そんなことしない、なんて、そんなのは彼女の一方的な思い込みだ。実際に信じていた青峰から、彼女は一度襲われているのだ。それがどれほど当てにならない信頼か、彼女は思い知ったはずだ。なのにそれを繰り返す彼女は酷く滑稽だった。思わず笑ってしまうほどに。
だがは丸い瞳で青峰を映して、目尻を下げる。
「いえ、だいたい、わかってましたから。」
「は?」
彼女の言葉がわからず、青峰は眼を丸くして彼女を見る。だが彼女の綺麗な瞳は、ただ感情のない目で青峰を映している。
「・・・わかっていても、信じたいと思うこともあるんですよ。」
無謀な願いを抱いてる