結局の部屋で桃井が泊まることになり、青峰は黒子の部屋に布団を引くことになった。
「ちくしょう、さつきの奴。」
「良いじゃないですか。別にいつでもゆっくり出来るんですから。」
恋人をとられてしまった青峰に、黒子は苦笑する。その恋人が自分の双子の妹だと思えば、何やら複雑な気分だ。
「それにしても、うまくいったようで本当に良かったですよ。」
兄としても、悲しい顔をする妹を見るのは忍びない。
高校に入る前に一悶着あってから、いつもがバスケを、そして彼を見る目は悲しそうだったから、黒子も心配はしていた。だが、青峰が誠凛に負けてから、と彼はとてもうまくいっているようで、彼女も楽しそうだ。
昔と同じように楽しそうに笑っている二人を見ると、黒子としても嬉しい。
「そりゃ悪かったな。心配かけて。」
青峰は黒子に直接的に言われるのは恥ずかしかったのか、少し素っ気なくそっぽを向いて言った。それを眺めながら、黒子は思わず笑う。
「いえ、あの子は青峰君で良かったんだと思います。」
「なんだよそれ。」
「馬鹿っぽいからですよ。」
「はぁ!?喧嘩売ってんのかよ。」
「冗談です。でも、多分あの子は青峰くんにすごく憧れていたんだと思います。」
青峰はあまりの黒子の言い方に眉を寄せた。だが黒子の笑顔は全く変わらない。
「はいろいろなことが小さい時からよく見えているのに、何も出来ない子でした。病気のせいで。いろいろと悟っていて。」
双子で生まれたテツヤとだったが、ある程度育っていた自分とは違い、の方が未熟児で、当初育つかもわからないと言われた程だった。生まれて数ヶ月で何度も手術を重ね、小学校時代のほとんどすべてを病院で過ごした。
「何かに打ち込むには、あの子は身体が弱すぎました。」
比較的賢い子供で、勉強も出来た。多分運動神経や動体視力も黒子よりも数段上だったと思うが、呼吸器官系の病故にすべて禁止されていた。中学時代に退院できただけでもキセキだと言われた。
彼女の判断基準は基本的にいつしか出来るか出来ないか、無駄か無駄ではないかになっていた。
「だからはがむしゃらに馬鹿みたいにまっすぐバスケをする青峰君が好きなんだと思いますよ。」
黒子が青峰と練習するようになってから、その居残り練習をもよく見に来るようになったが、彼女はいつも青峰を目で追っていた。最初はただ彼のプレイへの憧れだったのかもしれない。それが彼自身への興味へ変わるまで時間はかからなかった。
そして彼女も、自分では出来ないが、やろうとしている人たちを元気づけようと精神面からのケアをし始めた。それがおそらくカウンセリングという形だったのだろうと黒子は考えている。
元から非常に鋭い観察眼を持っていたので、彼女の新たなやり方は、非常に合致した。
「・・・なぁ、あいつが赤司の奴と似てるって。」
「どこから聞いたんですか?」
青峰が尋ねると、黒子は僅かに目を見張る。だがのんびりした彼にしては早い返しが、それを真実だと物語っていた。
「どうなんでしょうね。でも今のあの子はわかってても、結構無茶しますよ。」
昔のならば絶対に無駄なことはしなかっただろうし、だいたい人の行動は理解しているだろうから、勝算の少ないことはしなかった。諦めた。だが、彼女もまた青峰を見て変わったのだ。やってみるだけ、やろうと。
の無茶には青峰も時々悩まされていたし、また覚えもあった。
全中が終わったあの夜、彼女は青峰に別れを告げれば、襲われることを理解していたのではないかと思う。それでも彼女は優しかった青峰にかけたのだ。それがどんな結果を招くことになろうとも。
そう思えば、酷い罪悪感に苛まれる。だがそれは黒子の手前押し隠した。
「言えてる。灰崎止めにひとりで行ってたぜ。」
青峰は黒子の言葉に小さく苦笑する。
「・・・無鉄砲ですね。」
流石に自分の妹とは言え、それは擁護できない。
「おまえが言える事かよ。」
勝算がないとわかっていても、黒子だって止めに行っただろう。そういう点では双子だけあって黒子ももよく似ているのだ。
だから気が合うのかもしれないと心の中で青峰は思った。
双子の月を手に入れた