と青峰が円満によりを戻すと、青峰が誠凛にやってくるようになった。



「おーい、帰んぞ。。」



 青峰は誠凛高校の体育館で練習をしているバスケ部を見ながら、書き物をしていたの名前を呼び、驚かせるように思いっきり後ろから抱きつく。



「わっ!ちょっと待ってください。」



 ベンチに座って書き物をしていたは少し驚いたのか、元々丸い瞳をますます丸くして青峰の方を振り返った。



「なぁにやってんだよ。6時に終わるって言ってたろ?」

「みんなまだ練習してるんで。」



 誠凛の面々はウィンターカップで勝ち進んでいるため練習しないというわけにはいかない。練習に熱も入っているので、居残り練習をしている選手がほとんどだ。とはいえ、体育館に入ってきた青峰に釘付けだが。



「テツくーん!!」



 青峰と一緒にやってきたのか、桃井が勢いのままに黒子に抱きつく。それをは横目にとらえながら、書き終わった記録表を横に邪魔にならないように置いた。



「・・・さつきちゃんも元気ですね。相変わらず。」

「あぁ。俺がおまえんとこ行くって言ったら、自分も行くって聞かなくてよぉ。面倒くせぇ。」




 別に青峰とて彼女に会いに行くのに口うるさい幼馴染みを連れて行きたかったわけではないが、桃井にしてみれば大好きな黒子に会う口実なのだろう。なんと言ってもは黒子の双子の妹で、一緒にいない訳がないのだから。



「あれ?結局おまえらより戻したのかよ。」



 火神がボールをつきながらやってきて、に尋ねる。



「あぁ?別れてねぇよ。」



 青峰は火神を睨み付けて、に後ろから腕を回したまま言ったが、少し腕が震えているのがわかった。

 どうやら別れ話は今でも彼にとっては苦々しくあまり思い出したくない記憶らしい。何やらトラウマになってしまったのかもしれない。円満に恋人関係を続けている現在では、も大きな回り道をし、お互いにお互いを傷つけることになってしまったことを、少し悲しく思った。

 もしかしたらもっと上手な方法があったのかもしれない。互いの気持ちをきちんと確認すれば、円満な形で互いを好きでいられたのかもしれない。それをしなかったのは、二人とも互いの気持ちを聞くのが怖くて、逃げていたからなのだろう。



「え、おまえ、、おまえのうまくいってない彼氏って、青峰だったのか?!」



 キャプテンの日向が呆然とした面持ちでを見る。もちろん彼もが帝光中出身だったことは知っていただろうが、それでもまさか宿敵の恋人だとは思わなかったことだろう。



「・・・え、っと。はい。なんか、すいません。」

「おいおい、なんで謝んだよ。」



 青峰が口をとがらせて不満を示す。



「いや、なんとなくです。」



 は適当にはぐらかして、練習にいそしんでいたはずの面々を見る。木吉を初め、全員がこちらをがん見状態で、誠凛にやってきた青峰に恐れ半分、興味半分といった視線を向けている。だが部員たちの緊張とは裏腹に、桃井に抱きつかれたままの元チームメイトの黒子はあっさりと彼に声をかけた。



「あ、青峰くんも来てたんですね。」

「俺がおまけみてぇな言い方すんな!さつきがおまけだ!」



 青峰はに後ろから抱きついたまま反論する。桃井は勝手についてきただけで、最初から誠凛に来る予定だったのは青峰だけだ。



「そうですか。でもなんか、今の状況がそっくりですよね。。」




 少し疲れたような表情で黒子は妹に言う。




「・・・そうですね。確かに。」




 は肩の上に乗っている彼の腕の重さを感じながら、少し息を吐いた。

 桃井に抱きつかれて少しげんなりしている黒子と、青峰に抱きつかれて重たくて少し困っている。双子だというだけでなく、状況までそっくりで、互いに流石双子だと思ってしまう。



「それにしてもおまえ、上から見るとやっぱ胸大きいなぁ。Gだっけぇ?」



 青峰はまじまじとの胸元を後ろからのぞき込んで言う。

 後ろから抱きつくと、どうしてもは背が低いので真上から彼女を見ることになる。そうすると目立つのが彼女の大きな胸だ。小さく細い身体に似合わず彼女の胸は大きく、本人もそれを気にしているのかブラジャーでいつも押さえつけてはいるが、実際にはGカップはある。

 脱がせるとかなり大きいので、巨乳好きの青峰としてはご満悦だ。しかし、恥ずかしがり屋のはそれを聞くと頬を染めて俯く。



「・・・恥ずかしいのでやめてください。」

「下世話すぎます青峰くん。」

「ほんと、大ちゃんってさいてーデリカシーなさ過ぎよね。」



 黒子と桃井も同意して、軽蔑の眼差しを向ける。



「うっせ!誰だって巨乳が好きなもんだろ!?」

「いえ、胸はあればいいです。」

「なんでおまえそんなに卑屈なんだよ!!でっけぇ方が燃えるじゃん!だよなぁ!」



 青峰は無理矢理話を近くにいた火神に振る。火神は首を横に振った。



「いや、ノーコメントで」

「はぁ?逃げんのかよ!!」



 青峰が叫ぶが、誠凛の部員や監督である相田リコを初め、青峰に向けられる視線はあまりに冷たい。思っていても口に出さないのがルールだし、貧乳女子を敵に回したようなものだ。



「胸で人を判断するとか、青峰くん。最低です。フォローのしようもないです。」

「元からフォローする気なんてさらさらねぇだろうが!」

「テツ君の言うとおりだよ。大ちゃんさいてー、ね?。今からでも遅くないよ。別の人にしたら?」



 桃井は冷たい目で幼馴染みを見てから、それに抱きつかれているに目を向ける。はその黒子とよく似た丸い形の瞳を瞬いて、少し目尻を下げて小首を傾げた。



「あ、そ、そうですね。わ、わたし、胸あってよかったです。胸なかったら、好きになってもらえなかったってことですよね・・・」



 しょんぼりとした子犬のように沈んだ空気を纏って、は自分の胸を押さえる。

 それは巨乳女子も貧乳女子も哀れみたくなるほど悲しそうで、異性であればなおさらころっときてしまうような表情だった。それで一斉に青峰に批判の視線が集まる。




「ひ、酷い!酷い!!大ちゃんのおっぱい魔神!」

「あぁ?ふざけんなブス!」

「身体目当てとか最低!!しかも今日おばさん家にいないんでしょ!」

「あ、てめっ!」




 青峰が慌てて桃井に言うが、もう遅い。



「・・・それでを泊めるつもりだったんですか?」




 にっこりと笑っている黒子が、黒いものを背負っている。

 今日は金曜日で、明日は土曜日で休みだからゆっくりしようと青峰がを自分の家に誘ったのだ。どうせ彼の家には親がいるだろうから大丈夫だろうと、黒子も妹が泊まりに行くのを許可した。だが、その両親がいないとなれば話は別である。



「っ、良いじゃねぇか、俺らもう高校生だし、別にやることやるんだしさ。」



 青峰はそっぽを向いて、抱きついているに隠れるようにして身もふたもないことを言う。だが小柄なの後ろに隠れられるはずもない。



「うっわ、開き直りやがった。最悪だな。」




 日向が呆れた表情で腰に手を当て、眼鏡をあげる。

 そういうことは思っていても言わないのがルールだ。しかも彼女を含め女性陣の前である。まさにデリカシーの欠片もない人間だ。



「本当にバスケ以外、青峰くんとは全くあわないです。節操ってものがないんですか?」



 黒子が絶対零度の視線を青峰に向ける。青峰はに隠れるように小さくなっていたが、黙っていたがふと口を開いた。




「あの、わたし、青峰くんのところに泊まるの今日やめます。」

「はぁ?!ふざけんなよ!」

「わ、わたし、その、・・・・青峰くんの絶倫につきあっていたら、わたしが呼吸困難で死にます。」




 言いにくそうに言いよどんでいたが、消えそうな声で呟くように言った。俯いた彼女の表情はうかがえないが、耳まで真っ赤だ。

 お互いに思いを伝え合ってから、正直青峰の愛は重たい、というより疲れる。愛情が、というわけではなく、否、ある意味で愛情なのだが、要するに運動部で体力が有り余っている青峰と身体が弱くて体力が元々人以上にないではあまりに行為を出来る持続時間が違いすぎて、辛いのだ。

 しかも、青峰はそういうことが好きで、何かと毎日したがる。しかも回数も多い。




「いつも気遣ってやってんじゃねぇか!」

「・・・お腹筋肉痛だし、今週・・・もう・・・本当に勘弁してください・・・ごめんなさい。」




 は抱きついてくる青峰から離れて、懇願するように震えた声で、ぺこりと頭を下げる。

 ウィンターカップを負けてしまい、早々に閉め出されたため、桐皇の練習はあまり熱が入っていない。自動的に青峰も体力が有り余っていて、それをにぶつけてくるのだが、そんなことをされればの身体の方が持たない。




「青峰、なんか本当に、可愛そうじゃね?ちょっとやめてやれよ。」




 火神は言いづらそうながらも、に味方をして青峰に言う。

 他人の枕事情など聞きたくないが、少なくともがあまりに気の毒なのもわかる。それにこんなに彼女が謝って拒むと言うことは、本当に辛いのだろう。元々体力がないのはよく知っていることだし、青峰は体力馬鹿だ。そりゃ差がありすぎて無理に決まっている。




「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい、」



 本当に申し訳なさそうに、は何度も謝るので、青峰もそれ以上何も言うことが出来ず、仕方なくぐりぐりと彼女の肩に頭を押しつけ抱きつくだけに留めるしかなかった。




素直さに八つ橋が必要です