二度ほど気絶したが、1月7日から何とか保健室に登校したは、そのまま一度も教室には行かず、完全保健室登校を順調に続けることとなった。だが一週間後、彼女の名前は全校生徒で知らぬものがないほど、あっという間に有名になった。
「・・・やられたな。」
赤司は目の前に広がる掲示板に張り出された名前を見て、目を瞬く。
それは学期はじめの実力テストの結果で、いつもありがちな見慣れた名前の中に、別の意味で見慣れた名前が混じっていて、それが皆の注目を集めている。
1位 赤司征十郎、
3位 緑間 真太郎
同じ順位だった場合はあいうえお順に並ぶため、赤司が一番前だったが、これで彼女がア行の最初だったならば、赤司がおまけのような形になって順位が張り出されていたはずだ。
どちらにしても一年の間赤司が不動の一位、二位が緑間だったため、初めて滑り込んできた名前に生徒たちはざわつく。
「あれ、男?」
「えー知らない。」
「この間来たって転校生じゃないの?」
「休みがちの?でもあれは女だった気が。」
生徒たちは口々に初めて見る生徒の素性について探り始めるが、誰も確かな情報を知らず、噂をかき立てるだけだ。
「やられたはこちらの台詞なのだよ・・・まさかあいつは賢いのか。」
緑間はずり落ちていた眼鏡をあげて、赤司に尋ねる。
「結果通りだ。」
赤司は素っ気なく返したが、内心少し焦っていた。
「これは気をつけないと次が危ないな。」
「というかこんなに賢いと知っていたら言うのだよ!」
「知っていたとしてもそこまで対策できたか疑問だがな。」
なんと言っても実力テストだ。出来ることなど限られている。それは赤司も同じだが、定期テストとなるとますます彼女が有利なことを知る赤司はため息をつきたくなった。なんと言っても定期テストはあと2ヶ月ほど出来てしまう。三学期はなんと言っても短い。期末テストはすぐに来る。
正直、赤司自身も油断していた。
まさか転校早々のテストでここまで点数をとってくるとは思わなかった。いじめ問題があったため、ろくに勉強していないだろうし、成績は悪くないまでも人並みに落ちているかと思っていたのだ。彼女を甘く見ていた。
「悪目立ちをしてしまったな。」
赤司は目の前の成績を眺めて、小さく息を吐く。
実際の彼女を見れば普通すぎて、皆が落胆するだろう。人が彼女に求めているのはその能力に見合った容姿や、カリスマ性、他者と違う空気だ。それがあまりに彼女には欠落している。だから認めたくないし、いびりたくなるのかもしれない。
とはいえどちらにしても今の保健室登校の彼女では目の前に他の学生がたった途端、気絶して終わりだ。一週間たった今でも、彼女の対人恐怖症は好転しておらず、今でも気絶せずに話せるのは黒子だけという状態だった。
多くの人間が名前だけでを男だと思っているので、興味本位で保健室に行った生徒も彼女が本人だと気づかないだろうし、そのあたりはよくわかっている保健医が近づけさせないだろう。
「そういえば治らないのか。あの対人恐怖症とやらは。」
「そう簡単にはね。でも成長はあった。」
赤司は肩をすくめてみせる。
緑間は一度保健室に彼女を訪ねてみたが、顔を見た途端に気絶された。それがやはり緑間はショックだったのか、それから彼女の元を訪れることはなかった。
進歩とは、カーテン越しなら気絶せずに普通に話せるらしいという事実が判明したことだ。要するに存在感が恐怖の対象らしい。
直接顔を見て対面することはどうしても恐ろしいことらしく、存在感のない黒子以外には恐怖のあまり気絶してしまう彼女だったが、カーテン越しだと平気なのか、時々青峰が黒子に連れられて保健室にやってくるようになっていた。
離れていれば顔を見ても大丈夫になってきているらしいから、慣れの問題もあるだろう。
「をバスケ部のマネージャーにしたいと監督には言ってあるんだが、」
赤司は、少し時間はかかりそうだが、と息を吐く。
同級生は全く駄目だが、大人に対してが気絶することはない。能力的なことから、彼女の力をバスケ部の勝利につなげたいというのが、赤司の考えだ。これからのことも考えれば、彼女が能力を勉強以外のことに使う方法も知っておくべきだし、人との繋がりも増える。
少なくともバスケなど、スポーツに関しても彼女の力は非常に役に立つ。それを知れば、彼女もまた別の人との関わり方を覚えることが出来るはずだ。
「さてどうするべきか。」
赤司はあごに手を当て、目の前に掲示されている名前を見上げる。
このままでは彼女は保健室登校のまま、彼女の世界は赤司と一つ、黒子が増えただけだ。青峰の前でも、彼女は徐々に気絶しなくなっているらしいが、小学校時代から彼女の世界はあまりに狭まってしまった。変わってしまった。それは明らかな退化だ。何かしてやらなければならない。
彼女がトラウマを超えるために何が必要か、赤司は自分のせいだからこそ真剣に考えていた。
まだまだ