が目覚めたとわかると、虹村がカーテン越しに現れて謝りに来た。




「いや、一応赤司から話は聞いてたんだが、本当に悪い。」





 虹村は少し目尻を下げて、自分の顔を撫でる。その姿はから見えなかっただろうが、自分の強面を気にしてのことだろう。

 カーテンから出て彼が直接見えると気絶するため、直接相対することは出来ないが、虹村はどうやら彼女の対人恐怖症の話は聞いていたが、甘く考えていたらしい。実際に真っ青な顔で気絶されれば、それなりに自分の強面を疑いたくなる。

 とはいえ、彼女の対人恐怖症は性別、顔問わず非常に公平なので、誰でも気絶だ。存在感のない黒子以外。




「ごめんなさい。その、わたし、同年代、慣れないとみんな気絶しちゃうから。」





 も目尻を下げてしょんぼりする。

 慣れると大丈夫だと言うことがわかったのは良いことだが、それでも初対面で気絶されれば良い気はしないだろう。






「一応これからもしマネージャーとして入ってくれるなら、おまえが練習見て書いたレポートとかとりにきたり、一緒に相手の研究とかもすることになるから、バスケ部知ってもらえるように、しばらく保健室に通うわ。ひとまず悪かったな。」







 虹村はこめかみを押さえて、息を吐く。

 一応キャプテンであると言うだけでなく、相手の研究などもきちんとしなければいけない立場だ。DVDを何度も見る手間が省けることを考えれば、数週間保健室に通って慣れてもらう方が百倍楽だ。これからのことを考えれば。




「じゃ、俺、まだしなくちゃいけないことあるから、これからよろしく頼むわ。」




 虹村はにそう言って、保健室を出て行った。





「なんか、良い人?」

「厳しい人だ。ただ確かに、良い人だね。」

 赤司はカーテンを取り去って、に返した。




 厳しいキャプテンであるのには間違いないが、彼が頼りになる人物であることに変わりはないし、部員たちにも規制をかけられる。それが今のを守るためには必要なことだった。




「ま、気絶する場所は考えろよ!じゃねぇと床に頭打ってホラーだぜ。」




 青峰は笑いながら言う。




「・・・それって、難しくないですか?」




 彼の言うことは最もなのだが、それは不可能ではないかと黒子は思う。

 気絶すること自体は別に気を失うだけで彼女に何の後遺症もないが、倒れた拍子に頭を打つと言うことはあり得る話だ。実際に青峰を見て気絶した時は青峰が、虹村に気絶した時は赤司が何とか彼女を支えたが、そううまくいくものではない。

 だが、はあまり深くは考えていないらしい。




「うん。頑張る。」

「おーおー頑張れよ。」





 適当なの意気込みと、同じくらい適当な青峰の応援に、黒子と赤司はため息をつく。だが本人が深く考えないことは、トラウマ脱却にも良いことなのかもしれない。

 未だ保健室登校だが、少しずつは元気になっている。大丈夫な友人が赤司以外にふたりもできたし、徐々にバスケ部のキャプテンや部員が保健室に来ることになれば、慣れて気絶せずにすむ人も増えてくるだろう。

 そうして少しずつ、彼女の世界が広がっていけば良い。

 赤司はそう思いながらも、つきりと小さく自分の心が痛むのを感じた。は楽しそうに黒子と、そして青峰と笑っている。それを見ると苛立ちというか、独特の不快感がこみ上げてきて、それを頭を横に振ることでどうにか振り払った。





「さて、帰ろうか。」





 赤司はに鞄を渡して、黒子、青峰にも声をかける。



「あ、やっべ、遅くなっちまった。」




 青峰は立ち上がって少し慌てた。どうやら門限を過ぎているらしい。いつもは一緒にいる桃井もすでに帰ってしまったようだった。




「俺はと一緒に帰るよ。悪かったね。遅くなってしまって。」




 赤司はそう言っての背中を叩いて立ち上がるように促す。




「いえいえ、それに僕はさんから本をもらってしまいました。」

「いつの間に!?」

「いや、本を読み終わると全部覚えちゃうので捨てるって聞いて。」




 黒子は保健室にあったの本を持って言う。


 は一度読むとすべて覚えてしまうので、本をもう一度読み返すことは絶対にない。なので本は基本的に読み終わると捨てるか、漫画などは売りに行くことにしている。それを予想して、黒子が本を欲しいと言い出したのだ。





「黒子くん、また面白い本教えてね。」





 はにこにこ笑って黒子に手を振る。



「なんか、随分黒子と仲良くなったんだな。」

「うん。黒子くんおもしろいから好き。」

「・・・」





 赤司は素直なに少し複雑そうな顔をする。黒子はそれを見ながら目をぱちくりさせたが、納得したように小さく頷いた。



まだ気づいていない