テスト結果が出るとすぐに春休みになる。
「・・・すげぇ、学年一位から三位までバスケ部かよ。」
虹村は後輩たちの成績を見て、思わず拍手を送りたくなった。
あまりに成績が悪いと春休みに補講となり、練習にこられなくなるので、成績に関しては報告義務があった。それはマネージャーも同じだ。
少し虹村になれてきたは、紫原を盾にして不安そうに目尻を下げている。元々身体が小さい上に紫原の後ろにいるためますます小さく見える。しかも大きな瞳を不安そうに揺らしているとチワワのような印象を受けて可愛そうな、というか味方になってやりたくなる。
とはいえ、その隣にいる青峰は面倒くさそうな顔、緑間はよくわからないが眼鏡をあげ、赤司はいつも通り澄ました表情で、黒子は全く表情が変わらない。紫原に至ってはぽりぽりとまいう棒を食すことに忙しい。生意気な後輩たちに、虹村はため息をつきたくなった。
もう少しくらいかわいげがあっても良いと思う。
「おまえ何心配してんの?」
青峰は少し青い顔をしていたが、呆れて腰に手を当て、を見る。
「てっいうかさー、一位のちんが駄目だったらー、俺たち全員だめだしぃ?」
「その通りですよ。」
安心させるように紫原と黒子も言って、紫原は後ろに隠れているの背中をぽんぽんと叩いた。
「今回の期末テストも、同点だったしね。」
赤司は少し不満そうに言った。
今回も成績が一位だったのは赤司と、三位は緑間という結果だ。学年総合ではもちろん、は1,2学期いないことになっているので赤司だが、それでもすばらしい成績であることに変わりはないし、が心配する必要はない。
「まったく、悔しい限りなのだよ。」
緑間はふんとそっぽを向くが、一応に対して一定の認めるところはあるらしい。
「でももしだめだったら・・・怒られるでしょ?」
はまた紫原の後ろに隠れて、虹村の視線から逃れる。
多分が怖いのは成績というのもあるが、その成績が虹村に受け入れられるかの方に心配のベクトルがあるのだろう。虹村自身が存在感が強く、すぐに怒鳴ったりするので怖いのだ。
「ま、おまえ馬鹿だもんなぁ。」
「なんでそんなに青峰くんが自信満々なんですか。その成績で。」
黒子が青峰に冷たく突っ込む。
「ま。赤司と、緑間は当然良い。黒子まぁ、マジでまぁまぁだな。紫原も許そう。青峰ぇ、てめぇは論外だ!」
虹村は全員の成績をざっと見てから、青峰を睨んだ。
「なんだこの成績。補習に決まってんだろ!どうすんだ!!」
「すんません!でももうどうしようもないっすよ。」
「どうしようもねぇじゃねぇよ!おら!逃げんな!!」
虹村の剣幕に青峰が逃げ出す。それを見ながらは目をぱちぱちと瞬かせ、二人を見送った。
「あぁ、怖かった・・・虹村先輩って、なんか、怪獣みたい。」
虹村が視界から消えるのを待って、紫原の影から出たは、赤司の隣に立って呟く。
少しずつ気絶することはへり、対面さえしなければ怖いまでもどうにか人を盾にすれば耐えられるようになってきていた。ただ怖いという感情は相変わらずなので、虹村や知らない人がいると隠れることにしている。
もちろんあまり近づかれるとやっぱり気絶するので、虹村は避けていた。
「それならは食べられる人間か?」
「そうなったら、征ちゃんが助けてね。」
「どうかな。」
の言葉を赤司は適当にいなしたが、皆怪獣みたいだという印象には何やら頷けたらしく、小さく笑う。もつられるように笑った。
「そういえば、さん、日曜日の件来ます?」
「あ、うん。行くいくー。」
黒子の言葉に、は大きく頷く。
「どこかに行くのか?」
「征ちゃん知らない?5日と6日にほら、近くの四天王寺さんで縁日があって骨董品と古本の市場が出るんだって。それに行こうかなって話をしていたの。」
「ふぅん、誰が行くんだい?」
「僕と緑間君、あと青峰君ですね。桃井さんは用事があるらしいんです。あ、紫原君と赤司君も来ますか?」
「えー骨董とかびみょー」
「露店もでるそうですよ。」
「いくーーー」
紫原は全く興味がなさそうだったというのに、打って変わって明るい笑顔で言う。食べ物に目がない彼としては露店に心引かれるものがあったのだろう。
「赤司君はどうします?」
「あぁ、が行くなら、一緒に行こうかな。」
赤司は鷹揚に頷く。が行くならば答えは決まっていた。
集団行動をする時、彼女はしょっちゅうどこかに行く。元々注意力散漫で、人について行くのをすぐに忘れるのだ。黒子たちがを捜し回ることになるのは目が見えているので、当然だった。やっかいごとを避けるためにも、先に一緒に行った方が良い。
「知らない本探すの楽しみだね。」
「そうですね。」
と黒子はふたりでにっこりと笑いあう。
黒子は存在感がなさ過ぎるのか、彼女も最初から気絶しなかった。そのため最初は何かと赤司が忙しい時のことを頼むことが多かったため、今では二人は本当に仲良くなっていた。赤司がいない時は大抵、それに青峰を加えて動いていることが多い。よく彼女のいる保健室にも訪れていた。
青峰と黒子は元々仲が良く、単純な青峰の性格が、同じく単純なの性格とぴたりとくるらしい。理論より野性的な勘に頼るところもそっくりだ。
「・・・」
が友人を作るのは良いことだ。前の中学ではいじめられてばかりで友達も出来ず、トラウマすら作った。対人恐怖症まで患った彼女がこうして友人とともに過ごすことは良いことのはずだ。
なのに、心から喜べない自分がいることが、赤司は信じられない。
なんのデメリットもない。マネージャーとしてはかなり特殊な役割を課せられることになるがバスケ部の中で円滑にやっていくために、レギュラーである青峰や黒子と仲良くすることは、良いことだ。も楽しそうに笑っている。
赤司の心だけが波立つ。
「、おいで、」
赤司は不安になり、の名前を呼ぶ。黒子と話していたは、赤司の方を見ると、小首を傾げた。
「なぁに?」
「・・・いや、大丈夫なのかと思って。縁日なんて人が多いだろうし」
適当な理由をつけて、を心配するふりをして言う。は不思議に思わなかったようだが、それでも少し不安そうに目尻を下げた。
そんな顔、させたかったわけじゃない。
「う、うーん。同年代の人、いたら気絶しちゃうかも・・・」
赤司の言葉で不安を煽られたは自信なさげに言う。
浮き沈みが激しいのが、だ。人の意見も素直に受け入れてしまうため、迂闊なことは言ってはいけない。そのことを口に出したことを、僅かに赤司は後悔する。
「大丈夫ですよ。気絶したら、誰かがおんぶして連れて帰れば良いんですよ。」
黒子が相変わらず感情の読めない、でも穏やかな声音で言う。
「幸い男ばっかだしーいけるでしょー。」
「そうなのだよ。」
紫原と緑間もそれに賛同し、を安心させる。はそれでもこわごわと赤司を見ていたが、その不安に揺れる大きな目が可愛そうで、赤司は口を開いた。
「そうだな。俺がおぶって帰っても良いわけだから、気にしなくても良い。」
そう言って、そっと彼女の手を握る。は安心したのか、「うん。」と笑って答えた。
少しずつ、少しずつ