赤司がと同じクラスになると、赤司はを生徒会役員の一人として推挙し、大抵一緒に連れ立って歩くことになった。



、その提出書類はまとまりそうか?」

「うん。」



 は学校に持ち込んだノートパソコンのキーボードを叩きながら言う。

 記憶力の良いは当然明石が口頭で言ったことや、話し合いの内容を一言一句違わず覚えている。赤司は暇な時にまとめる内容を口頭で言えば、がノートパソコンで打っておいてくれるため、赤司の抱えていた業務の大部分はあっさりと終わるようになった。

 それはありとあらゆる委員を兼任している赤司にとって何よりも必要なことだ。

 赤司は学校内でどうしても学年主席であり、生徒会などにも所属しているために目立つ。当然それは隣にいるようになったも同じで、やっかみや嫉妬も受けることになるので、赤司はから離れないように気をつけていた。



「赤司―、あれ、、同じクラスなのか?」




 赤司を呼びに来たのか、虹村が窓から顔を出し、手招きをする。はぱっと顔を上げて虹村の方へ駆け寄る。赤司は彼女のパソコンで作っていた書類をきちんと保存してから立ち上がった。

 初対面の時は気絶しただったが、現在は虹村にもよく懐いている。懐いているという表現が用いられるのは、何となく彼女が小動物みたいだからだろう。妹もいるという虹村は、よくの頭を撫でていたし、対人恐怖症なども含めて、フォローもよくしてくれていた。



「はい。なんか、青峰くんと同じクラスは駄目だって。」

「あー聞いた聞いた。おまえ案外活発なんだな。とろそうなのに。ま。赤司と一緒なら安心だろ。赤司もしっかり止めろよー。」



 ぽんぽんとの頭を軽く叩いて、虹村は赤司に笑う。



「大丈夫ですよ。青峰といらないことをする暇がないくらい、俺の仕事を手伝ってもらいますから。」




 時間があるから青峰と一緒にいらないことをするのだ。クラスが離れ、赤司がに雑用を頼むこともあり、が休み時間に青峰と会う回数は格段に減り、基本的に一緒に砲丸で野球をし、壁に穴を開けるなんて馬鹿なことはしなくなっている。

 ひとまず二年生が始まってここ数週間、平穏を貪っている教師たちは赤司とを同じクラスにして良かったと心の底から思っているだろう。



「あーあれ?キャプテンじゃないっスか。」




 廊下を通りかかったのか、今から昼食に行くであろう黄瀬が首を傾げる。黄瀬は赤司たちの隣のクラスで、紫原も一緒だった。




「おぉ、そろって飯か?」

「そうっスよ。っちと赤司っちもどうっすか?」



 黄瀬は軽い調子で答えて、と赤司に言う。



「え、えっと・・・」



 は黄瀬と赤司の方を困ったように見比べる。



「俺は虹村さんと話があるから、は黄瀬たちと一緒に昼ご飯を食べておいで。」




 赤司は彼女の背中を叩いて送り出した。このまま赤司と一緒に虹村と話していては、ご飯を食べるのが遅いは、昼食を食べることなく昼休みを終えてしまうだろう。それは可愛そうだし、これ以上背が伸びなくても困る。



ちん、お菓子作ってきてないの−?」



 紫原がいつもののんびりした様子で尋ねる。



「え、今日はないよ。」

「お弁当は?」

「作ってきてるけど。」



 大抵朝練で忙しい赤司のために、朝ご飯と弁当はが作っている。夕ご飯の残りが詰められていることが多いが、最近も慣れてきたのか二人分のお弁当を作るのも早くなり、なかなか見た目もバリエーションも買ってきた物に勝るとも劣らない。

 しかもはそういう所に関しては凝り性で、味の方も美味しかった。



「じゃあ、お弁当ちょーだい。学食おごったげるから。」



 紫原はの服を引っ張って言う。

 赤司は忙しく、昼休みもほとんど普及で動いているため、学食まで食べに行く時間はない。そのためどうしてもお弁当か、おにぎりのような軽食をさっさと10分ほどで食べることが多く、は赤司がチームメイトと食べる日以外は基本的にお弁当を作ってくれている。

 だが日頃お弁当で、たまに学食で食べたいと言い出すと、学食ばかりでたまにお弁当を食べたい紫原の利害が一致することはよくあることだった。とはいえ、180の大男が、130の女の子に弁当をねだる姿はなかなか滑稽だ。



「ほらほら、急がないと昼食食いっぱぐれるっスよ。」



 黄瀬が言って、と紫原をひきつれ、廊下を歩いて行く。は廊下を曲がるところで明石を振り返って手を振っていた。




「あいつら仲良いのか?」



 虹村が実に意外そうに首を傾げる。


「紫原とはどうでしょうね。利害の一致に近いと思いますけど。は青峰や黒子、黄瀬と仲が良いようなので、」




 赤司は肩をすくめて答えた。

 彼女は赤司といない時は大抵青峰や黒子、最近それにくっついている黄瀬と一緒にいる。居残り練習もいつの間にか三人から四人になって、それなりに楽しくやっているようだ。



「ま、なんか、対人恐怖症の方もいつの間にかなくなって、、驚くほど明るくなったな。」




 初対面の人間の前ですぐに気絶していたは、今や明るく誰とでも話し、表情のくるくる変わる、普通の少女になっていた。少し背が小さく、のんびりしたところはあるが、対人恐怖症だったことなど感じられないほど、他のマネージャーたちともうまくいっている。

 3年のマネージャーたちもをかわいがっており、しかもは骨惜しみせず誰よりもよく動くので、その記憶力だけでなく重宝されていた。



「えぇ、久々に会った時はどうしようかと思いましたが、昔のような明るいに戻って良かったです。」



 虹村の言葉に、赤司も深く頷いた。

 久々に会った時はこちらが声をかけるのを躊躇うほど暗くて、たった一年足らず離れた間のいじめが彼女にどれほど大きい影響を及ぼしたかを思い知らされ、無理を言っても同じ学校に来させるのだったと後悔した。

 だが、今のを見ていると、楽しそうに昔と変わらず笑っていて、赤司も本当に良かったと思う。やはりいつも笑っているばかり見ていたから、暗い顔をしている彼女など、何か落ち着かない。



「おまえ、が好きなのか?」




 虹村は突然、率直に言った。あまりにも唐突な質問過ぎて驚いたが、昔から数え切れないほどされてきた質問であったため、思わず眉を寄せる。



「え?誰がですか?」

「おまえが。」

「まさか、困った幼馴染みですよ。」




 赤司は腰に手を当てたまま、虹村に向けて何でもない風に言ったが、内心では正直こんなクラスメイトもいる場所で、聞いてくれるなと思う。



「ふぅん。なら、良いけど?」

「何がですか?」

「なんか、マネージャーの鴻池が、結構部員とかに誘われてるって言ってたからさ。」

「何に。」

「デート。」

「は?」




 赤司は思わず首を傾げた。

 部活のある日は毎日部活に行っているし、夜も黒子たちの居残り練習につきあい、そして雑事をすませた赤司とともに家に帰っている。土日も練習があるし、その後も比較的家にいたり、レギュラーたちの練習につきあうことが多かった。

 そのため正直赤司は、が自分以外の誰かと出かけるというのを想像できない。



「なんか無意識に断ってるっぽいらしいけど。」

みたいな子供っぽいのに声をかけるなんて、中学生って本当にすごいんですね。」



 はっと赤司は笑ってしまう。

 身長130センチ、放っておけば青峰と二人で壁を壊すなど、おまえは小学生かというような行動ばかりするが好きだなんていう生徒がいるなんて、田で食う虫もまさに好き好きだ。赤司としてはそちらの方が驚きだった。



「おいおい、年寄りみたいなこと言うなよ。」

「いや、驚いただけです。」



 心にわき上がる苛立ちはあったが、それをかき消すように苦笑する。



「で、どうしたんですか?」



 赤司は虹村に尋ねる。

 キャプテン自ら下級生のクラスに赴いて、井戸端会議をしに来たわけでもないだろう。赤司の質問に虹村は一つ頷いて、そうだそうだと口を開いた。



「今度ゴールデンウィークに、京都の中学が練習試合に3日連続で来る。」

「あぁ、話していましたね。」



 ゴールデンウィークを利用して練習試合をするのは毎年恒例だ。もうそろそろ全中の予選対策もしなければならないし、強豪と先に戦って情報を得ておくことは必要だった。



「どこなんですか?」

「昨年3位だった、栖鳳学園の中等部だ。」





 赤司はその名前を聞いて、眼を丸くする。

 直接戦ったことはないが、栖鳳学園は京都の名門で、赤司の中学受験先としても上げられたほどの強豪だ。しかし結果的に赤司は東京の実家に近い帝光中学を選んだ。バスケットを志す中学生ならば一度は聞く名門。

 だが、出来れば今は聞きたくない名前だった。