と黒子がつきあい始めたこと虹村は黄瀬から聞くことになったが、バスケ部ではただ単にと赤司という幼馴染みカップルが、喧嘩をしたとしか考えられていなかった。




「座敷童とすぐ消える影、なんか似てる気がするんだよな・・・。」





 並んでいる二人を見て、虹村は思わず言う。

 別に黄瀬から事情を聞いても、虹村は別段驚かなかった。も黒子も背が低く、目が大きくて人外っぽいところがよく似ている。二人で並んでいると遜色がないし、二人とも何となく可愛らしい顔をしていて、子供っぽいの隣に並んでいても、影が薄く小柄な黒子は不釣り合いではない。

 ただいつもミスディレクションの黒子と、ふわふわして浮いているがつきあい始めたと言っても見た目の上でなにかが変わったわけではないので、バスケ部の中でも気づいている人間は少ない。




「びっくりっすよ!すっごく軽くつきあわない?みたいな感じだったんっすよ。」




 黄瀬は何となく納得できないのか、けたたましい声で先ほどからずとわめいている。




「おまえ、告白の場にいたのかよ。野暮だな。」





 虹村は疎ましさに眉を寄せ、がしりと黄瀬の頭を押さえる。だが、それほど力を加えていないせいか、別に気にした様子もなく黄瀬は話し続けた。





「ってか、告白じゃないっスよ!」

「あぁ?」

「だから、本当につきあわない?って感じだったんですよ。なんかまるでコンビニ行くみたいな。」

「んで、の奴ももあっさりってか?軽いなぁ、」




 黄瀬は赤司とがくっつくと思っていたようで酷く驚いているようだったが、の習性を何となく予想していたので、虹村は別にそんな話を聞いても驚かなかった。

 が鈍いことは見たらわかるし、本当にコンビニに行くような軽さで受け入れただろう。この間赤司に彼女が出来たという話も聞いていたから、としては寂しいという気持ちもあっただろうから、黒子に誘われてそれを受け入れたのは当然の結果だ。

 そもそも最初に彼女を作ったのは、赤司の方である。




「で、あいつただの馬鹿だろ、」




 虹村はため息をついて、ぼんやりとバスケットボールを眺めている赤司を見た。

 しっかり練習などは出ているし、体調も悪くないようだが、暇さえ出来るとあんな風に眉を寄せてバスケットボールを眺めている。しかもと黒子を視界に入れたくないようで、今までが常に赤司の隣にいたのが不思議になるほど、赤司はを避けていた。

 ここ1週間ほど、と赤司は一緒に帰っていないらしい。それぞれ恋人と帰っているので当然のことだが。バスケ部の仕事があるため、部員とマネージャーという、最低限の話はしているようだが、雑談をしているのを見ることもなくなった。

 それぞれが恋人を作ったことで、幼馴染み同士の仲の良さは消えたようにすら見える。


 赤司としてはに意識してもらいたいとか、自分の気持ちを明確にしたいとか、つきあってみたかったとか、そういう軽い気持ちで女子からの告白を受け入れたのだろう。だがそれがあまりに彼の予想外の方向に転がった。





「・・・やっぱ気にしてるッスよね・・・」





 黄瀬も少し困ったような顔をして肩をすくめる。だが虹村が見るに、気になっているのは何も赤司ばかりではない。




「お互い様だろ。どう見たっても気にしてるしな。」




 最近はあまり元気がない。大抵の場合、黒子と一緒にいて、そのことについてを慰められ、普通に生活を歩んでいるが、それでも目尻がいつも何となく下がっている。物言いたげにいつも赤司を見ているのだ。

 赤司に避けられているのが、気になって仕方がないのだろう。しょんぼりしている姿が叱られた子犬のようで可哀想だがそれを上手に黒子が元気づけている状態だ。とはいえの方は普通で、たまに悲しそうな顔をするが相変わらず楽しそうによく青峰や黄瀬、黒子と話していた。




「どーでるかねぇ。」




 虹村は小さく笑って、赤司の方に目を向ける。

 も黒子も、正直そつがない。もめる理由がない。は感情的だが人の言うことはよく聞くし、黒子は元々落ち着きのある方だ。二人とも軽くつきあったと言うが、元が軽いタイプではないため、大きな問題がない限り別れることもないだろう。

 そして大きな問題は二人の性格上、外部要因以外であり得ない。事実、赤司のことを気にしつつも、と黒子はうまくいっているようだ。対して赤司はあまりに上の空すぎてか、つきあい始めた東谷ともうまくいっていないようだった。




「赤司っち、っちのこと、絶対好きっすよね。」

「だろーなぁ。」

「なんでキャプテンは人ごとみたいに言うんっすか!!」





 黄瀬は力説してみせる。だが虹村は頭の後ろを書きながら、面倒くさそうにため息をついた。




「なんでおまえ、赤司に肩入れしてんだよ。」

「・・・え、別に、そういうわけじゃねぇっすけど。」

「ふたりが良いって言ってんだし、大きなもめ事も喧嘩もねぇ。赤司がどう思ってようが良いじゃねぇか。」




 黒子はそれほどもてるわけではない。桃井が黒子のことを好いているのは有名な話だったし、と桃井は友人同士であるため後々問題になるかも知れないが、今のところ桃井がに対してなにかをすると言ったこともない。

 や黒子がつきあい始めたからと言ってバスケ部にその感情を持ち込むこともない。せいぜい一緒に帰っている程度で、べたべたしたり、えこひいきをすることもない。そう、総じて何の問題もないのだ。

 なのにどうして黄瀬がこれほどまでに赤司とがつきあわなかったことをぐちゃぐちゃ言っているのか、虹村は不思議だった。




「だ、だって、そんなのって、適当じゃないっすか、」

「適当って、おまえ適当につきあうじゃねぇか。」




 美人な彼女が良いと、色々な女とつきあい、挙げ句灰崎に彼女をとられた前科まである。別に好きではなくてもつき合っているのだから、他人のつきあいが出来当でも言えた義理でもないだろう。ましてや黄瀬は赤司とよりも黒子と仲が良いのに、黒子の肩を持たないのは不思議だ。

 だから、黄瀬が気に入らない理由は、別にある。





「・・・赤司っちがいるからって思ってたのに、そんなあっさり、良い、なんて、さぁ、」






 ずるい、と黄瀬は頬を膨らませる。結局の所、本音はそこなのだ。

 赤司がいるから、の隣には赤司が並ぶと決まっているから、黄瀬はを女とは見ることができなかった。なのに突然黒子があっさりとを攫っていってしまったから、何やら気に入らない。それは恋にすらも育っていない淡い嫉妬だった。




「どいつもこいつも色づきやがって、馬鹿ばっかじゃねぇか。」




 虹村は軽く額に手を当てて、息を吐く。黄瀬の視線の先には、赤司に避けられてしょげているの頭を撫でている黒子がいた。

 が個人的な話を赤司に振ろうとしても、赤司は完全にを最近無視している。そのため無視されたは目尻を下げてこの世の終わりのような顔をして、瞳を潤ますのだ。そういう彼女の目に弱い赤司は、すぐにその場から立ち去る。

 そうこうしていると黒子や青峰がやってきて、慰めるのだ。を。





ちーん、お菓子ちょうだーい。」




 紫原が何の遠慮もなくに抱きついて、お菓子をねだる。



「だーめ。終わってからだよ。」




 は赤司に避けられて悲しいと思った気持ちも忘れてしまったのか、少し頬を膨らませて紫原を諫める。だが紫原は抗議するように、後ろからに抱きついた体勢のまま躰を右左と揺らして見せた。




「俺も俺も!」




 青峰も同じようにによっていく。呆れたようにそれを見守っているのは緑間だ。黒子は彼女の隣で苦笑して目を細めている。

 誰も変わっていない。変わったのは赤司と、そしてもう一人。




「落ち着かないんっすよ。」




 ぶつっと黄瀬は不機嫌そうに眉を寄せてそう言う。

 明確にそこにある恋心に気づき始めた赤司と、気づかぬままに不快だとだけ感じる黄瀬。この二人の変化が何をもたらすのか、虹村は面倒ごとに巻き込まれたくないとため息をついた。





傍観者の憂鬱