「あ。また涼ちゃんからメールだ。」
は居残り練習をする赤司たちスタメンを眺めていたが、自分の携帯の着信を確認してぽつりと言う。
高校に上がってからもと黄瀬はよく連絡を取り合っている。黒子ともそこそこと言ったところだ。にバスケを教えてくれ、仲が良かったはずの青峰とはほぼ連絡を取っていない。ただし連絡先は当然知っている。
「・・・」
「征ちゃん、眉間に皺。」
実渕はの呟きを聞いて眉を寄せている赤司に苦笑する。
は全く気にしていないらしいが、赤司は人間の普通程度の嫉妬はあるらしい。ただは著しく理解していなかった。
「、アンタも携帯しまいなさい。失礼でしょう。」
実渕は腰に手を当ててを見る。
「あ。ごめん。でも見てみて、これが火神君だって。」
「誰よこの目つきの悪いやつ!」
「うん、確かにちょっと人相悪いよね。てっちゃんの新しい光だって。その映像がね、ダウンロードできない・・・」
「誰よ、てっちゃんって!」
実渕が突っ込むが、はそれを華麗にスルーして、画面を眺める。
はスマートフォンの使い方がいまいちわかっていないのか、何度も画面を押すが、うまくいかないらしい。やっきになっていると、やってきた赤司がひょいっとのスマートフォンを手に取り、操作する。するとあっという間にダウンロードが始まった。
「あ、すごい、」
彼の手元をのぞき込んで、は眼を丸くする。
「おまえ、ほとんどラインが黄瀬と黒子で埋まっていないか?」
赤司はラインの履歴を見たのか、呆れた視線をに送る。
基本的にメールもラインも、黄瀬と黒子のアドレスで埋まっていて、たまにまばらに赤司や実渕の物が混ざっているといった状態だ。確かに赤司とは同居のため毎日会うし、メールをする必要がないのもわかるが、ここまで他の男の名前で埋め尽くされているのは不快そのものだ。
「だって友達いないもん。」
「悲しいからそういうことやめて頂戴!!」
実渕が思わず叫ぶ。
は生憎赤司と常にともにいるか、赤司から逃げているかの二択のため、未だにほとんど友達がおらず、バスケ部員も一人だけ一軍付きのマネージャー(仮)である上、サボりがちのため友人は皆無だった。仲が良いのは実渕ぐらいの物である。
「・・・」
メールはだいたい黄瀬と黒子からだが、一通だけ青峰からの物があり、赤司はそれを開く。
『おまえが俺の側(がわ)に来るのは時間の問題だから、次東京に来る時はよれ。レクチャーしてやる。』
どうやら黄瀬と遊んだことを青峰に報告していたらしい。
はプレイスタイルが非常に青峰と似通っており、潜在能力も天才的だ。そのためすぐに飽きることの多いは、青峰に教わるときだけは素直に言うことを聞いたし、バスケに関してもめきめきと腕を上げた。青峰もを教え子として可愛く思っているのか、中学の卒業式の時も、バスケのことで何かあれば言ってこいと告げていた。
ということはわざわざ青峰に連絡したと言うことは、黄瀬との遊びで、は何かを見つけたのだ。
赤司はのスマートフォンの履歴をたどる。は基本的に赤司が携帯電話を見ることに文句を言うことはない。赤司がそれを望むからだ。だが青峰との会話に具体的なものはない。だが感性という点でつながっているため、の抽象的な言葉も青峰は感性で捉え、何を見つけたか理解できたのだろう。
いつの間にか、黄瀬から送られていた映像のダウンロードは終わっていた。今までの思案を誤魔化すように、それを開く。
「・・・ほぅ、」
赤司は僅かに色違いの瞳を見開く。
「なに?」
は不思議そうに赤司の方の表情を窺って、それからスマートフォンを。
ダウンロードが終わったのか、映像が再生されている。それは火神という少年が映っている物で、もちろんチームメイトである黒子もそこにいた。ただ、火神を見て、も眼を丸くする。動きから、その才能は誰が見ても一目瞭然だった。
「これは貴重な情報だな。まだ時間はかかりそうな奴だが、興味深い。これに免じて許してやろう。」
「え?」
は不思議そうな顔をして彼を見上げる。だが赤司はまだその映像を見返したいのか、のスマートフォンを手放す気はないようだった。
「、ちょっと練習につきあいなさいよ。あんたうまいでしょ。」
実渕がを軽い調子で手招きをして呼ぶ。
「何を?」
「スティールの練習をしたいのよ。あんた動き馬鹿みたいに早いでしょ。」
「でも本気は最長でも多分8分しか持たないよ。」
最近運動をしていないため、は体力がない。この間黄瀬とやり合ったおかげで勘は多分戻っているとは思うが、それでも練習不足は体力という点でに制限を強いている。
「征ちゃん、良い?」
実渕は赤司に許可を求める。赤司はスマートフォンから顔を上げてから、近くで休んでいた黛に目を向けた。
「なんだよ。」
「・・・」
赤司はスマートフォンをベンチの上に置いてから、居残っているスタメンを頭の中で並べる。
実渕、葉山、根武谷、黛、そして赤司と。赤司はスマートフォンの動画を思い出しながらを見下ろす。
―――――――――――――でも、また征くんとバスケがしたいな
が言ったことを思い出す。
彼女とバスケをするのは、嫌いではない。ただ自分の奥底がざわつく。彼女は本当に楽しそうにバスケをするから、昔に戻って非情さをすべて忘れたくなる。そしてもう一つ、彼女は自分の弱点を嫌と言うほど知っているため、そこがチームメイトにバレないようにしなければならないという点だ。
ただそれを差し引きしても、有益な存在であるのは事実。
「・・・、おまえ大輝のマネは出来るか?」
赤司はに尋ねる。
「え?」
は軽く首を傾げて、少し悩むように目を伏せた。
「うーん、3分くらい、なら、かな。結構疲れると思う。」
プレイスタイルが似ていると言っても、男女差は大きい。特に体格も大きな青峰と比べ、は150センチ弱と小柄で、運動量が全く違う。本気で彼そっくりにマネしようと思えば、身体的に出来ない部分を埋めるために別の部分にかなり無理をすることになる。
「良いだろう。小太郎、黛、僕とチームだ。」
「え?」
「、玲央、永吉、おまえたちがチームで、3on3だ。」
赤司はに自分の近くにあったバスケットボールを渡す。と実渕、そして根武谷は三人とも顔を見合わせて、三人そろって首を傾げた。
なんぼが強いと言っても、無冠の五将ふたりと女一人。相手はキセキの世代ひとりと無冠の五将ひとりと男一人。何やら不公平な気がするし、力の差は歴然だろう。勝負になるとは思えないというのが、三人の意見だ。
だが赤司は続ける。
「、もしこれでおまえが2本シュートを入れたら、辻利のかき氷をおごってやる。小太郎が。」
「赤司ぃいい?!」
「・・・ほんと?」
葉山が真っ青な顔で赤司を見たが、時すでに遅く、の表情ががらりとかわり、明るいものになる。大きな漆黒の瞳をきらきらさせている子犬を見ると断ることも出来ず、葉山は酷く追い詰められた気がした。
「な、なんでオレがおごんの?!」
「小太郎、おまえにはとマッチアップしてもらう。に点数を入れられるなら、小太郎、おまえのミスだからだ。ちなみに小太郎はに2本シュートを入れられた時点で体育館10周走ってもらう。あと7分でシュートを3本入れられなかった奴は体育館の周り10周だ。」
赤司は淡々と言って、赤色のゼッケンのついたユニフォームを葉山と黛に渡す。実渕は白いゼッケンのついたユニフォームを根武谷とに渡した。
「おぉ、ちびっ子。踏みつぶされんなよ。」
根武谷はの頭をぽんぽんと軽く叩く。いつもは思いっきり痛いほど他人の背中を叩く彼だが、一応手加減という言葉は知っているらしい。
「うん。がんばる。かき氷のために。」
はやる気満々で、今にも駆けだしていきそうなテンションを保ったまま、ぐっと両手を握りしめる。
「ちょっとー、無茶はしないでよね。」
実渕はこれも何か赤司の意図があるのだろうなと感じながら息を吐いた。
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